【ジャン・カルロス②(Jean Carlos)】
「なんで情報が5分遅れるんだ? 普通に考えれば、コッチの時計が5分進んでいるほうが正解じゃねえのか?」
たかが5分という時間差に食いつくトム。
だがジャン・カルロスは直ぐには答えないばかりか、その顔は何故だか僕たちを試しているように見える。
「つまり何らかの事情で、電波が5分遅れて来るって事だな。月経由の電波でも拾ってるのか?」と、トムが皆に聞いた。
「電波の速度は光と同じ秒速30万キロだから、5分間に5億400万km進む。地球から月までの距離は38万kmだから、もし仮に月を経由する電波を受信していたとしても、2.5秒しか遅延は発生しない」と、ケラーが答えるとトムは「じゃあ、どこの電波を拾っているんだ?」とトムの謎はさらに深まってしまったようだ。
「地球から火星までの距離は7,528万~だから近すぎるわね。直接電波を飛ばした場合だと、地球に最も接近した時の木星から飛んで来た電波なら考えられなくはない距離よ」(※地球から木星まで最も近い距離は588百万kmとなる)と、シェメールが答える。
「木星なんかにインターネットステーションなんて有るはずねえだろう!?みんな考えろよもっと……たとえば電波に抵抗を掛けて遅らせるとか」
「電波は電磁波の一種で光と同じ速度、同じ性質を持っている。だから宇宙でも大気中でも同じ速で進む……抵抗で速度が遅くなるのは水の中だけだな」と、今度はルーゴが答える。
「5分くらい遅れるのか!?」
「いや通常より25%ほど遅くなるだけだ」
「そっ、それだ‼」
ケラー、シェメール、ルーゴの3人に聞いて、やっとトムは納得したのか自慢気な笑みを見せた。
「水の中では最新の超長波の電波でも500mくらいしか届かないわよ」
いままで元気がなく、ほとんど発言していなかったイリアが折角晴れたはずのトムの疑問を打ち砕く。
「じゃあ、どうして遅れるんだ!??」
再び疑問の壁に打つかってしまったトムに、僕たちが一斉に答える。
いったん受信してセーブされたデーターを5分後に再生するから5分遅れるのだと。
シェメールがトムに謎は解けたかと聞くと、トムは力なく「……な、謎は解けた」と言ってガッカリした表情を見せて皆を笑わせた。
もちろんイリアも笑っていた。
でも僕たちはトムを笑っていたのではない。
むしろトムの考えの方が正しいと思っていて、僕たちはジャン・カルロスが何故そのようなことをするのかが不思議であり、ある意味怖い気がしていたからトムのリアクションに心が救われた気持ちでつい笑ってしまった。
そうまでして電波を5分遅らせる意味とは、いったい何なのだろう?
「イリア、もう大丈夫なの!?」
シェメールが笑っているイリアに聞くと、イリアがトムのおかげで元気が出てきたと、一人だけ勘違いして落ち込んでいたトムを気遣ってくれた。
トムはと言うと、イリアの言葉にスッカリ元気を取り戻したようで、どうだ!俺様の才能は‼」と威張っていて、シェメールに「本気で勘違いしていたくせに!」とポカリと頭を殴られていて更に皆を笑わせた。
「さあさあ、良くココまで来てくれたな。口に合うかどうか分らんが、一緒に夕食はどうだ」
再び現れたジャン・カルロスは大きなキッチンカートに乗せた大量の料理を押してきた。
本物のターキーには付け合わせのクランベリーソースとグレービーソースが付き、ターキーを焼き上げる時に中に詰めて蒸し焼きにしたスタッフィングの香ばしい香りも漂う。
更にマッシュポテトや色鮮やかな野菜にチーズたっぷりのグラタン、それに甘い香りが漂うアップルパイも!