【洞窟③(cave)】
木炭の灯りを持つケラーとオオカミのレオンを先頭に、ルーゴ、イリアを背負った僕の後ろにはシェメールと最後尾にトムの順で進んだ。
木炭は余り明るくはなくて照明には適さないが、暗さに目が慣れて来るにしたがって良く見えるようになってきた。
そして昨日光が見えた所まで辿り着き、更に先に進むと周辺は崩れた岩だらけ。
火が差し込む明るさにより影になる部分は木炭の灯りでは何も見えなくなり、松明を灯しようやく人が通り抜けることができる場所を見つけて進むと、真っ先に瓦礫の向う側に辿り着いたトムが絶叫する声が聞こえた。
「なんだ、こりゃあ……!」
トムが叫んだのも無理はない。
何故ならソコは洞窟の天井部分に穴が開いて、日が差し込んでいるだけの場所だったから。
距離的には昨日持っていた帰り用の松明が燃え尽きるくらいの距離。
もしあの時、ここまで来たとすれば、帰りは途中から松明なしで戻ることになった。
「やはりラルフの言うことを聞いて正解だったわね」
愕然と天を見上げていたトムの頭をシェメールがポカリと叩いて言った。
3セット目の松明を付けたころに、また前方に光が見えた。
木炭はまだあるので、この3セット目の松明が行きで使用する最後の松明。
この灯りがまた天井に穴が開いて漏れて来る光であれば、また昨日のように戻ってやり直すしかない。
事前にそのことを皆に確認して前に進むと、僕たちは洞窟の外に出た。
「何にもなかったわね……」
これほど苦労して、ただ洞窟を通り抜けただけという現実に僕は拍子抜けしてしまった。
「どんまい、ラルフ」
「やはり君はリーダーに相応しい」
「無事に洞窟を抜けることができただけでも収穫じゃないか」
「いい経験よ」
「ありがとう、背負ってまで連れて来てくれて」
「いや……」
皆が口々に、僕に労いの言葉を掛けて肩を叩いてくれる。
だけど結果的には途中で天井が崩れていたところはあったものの、比較的に安全な洞窟だったから、前後に2本の松明を使わなくても安全に通過出来た可能性は高く、もしそうして5本の松明をリレーして使えばなんとか通り抜けることも出来た。
だから昨日トムとルーゴの言う通りにしていれば苦労して12本の松明を作ることも無ければ、体調のすぐれないイリアをはじめ皆にもう少し楽をさせてあげることも出来たと思うと正直悔しい気がした。
「あれっ、アイツあんな所に登って何しているんだ?」
トムの言葉に振り返り、彼が見上げている方を見ると、洞窟を出た直ぐ上の岩場にレオンが居た。
「なにしているのかしら?」
「餌でも見つけたんじゃないのか?」
「餌を見つけたオオカミが、あんなに尻尾を振るかしら?あれじゃあまるで飼い主に会った犬よ」
“飼い主に会った犬……”
シェメールの言った言葉を頭の中で繰り返しながら崖の上のレオンを見ていた。
彼はさっきまで崖の上から僕たちを見下ろすように見ていたが、今はお尻を向けて尻尾をパタパタと揺らしている。
“飼い主に会った犬……”
もう一度、今度は口ずさむ。
……そうだ、レオンは今飼い主に会っているんだ!
そして、その飼い主こそ、僕たちを呼んだジャン・カルロスに違いない!