【洞窟②(cave)】
洞窟の中は意外に広く壁は剥き出しの岩だったけれど、足元も平らで思った以上に進みやすかった。
誰が何の目的で掘ったのかは分からないが自然にできたものではなく、ジャン・カルロスが1人で作ったものでもない。
おそらく前の世紀に作られたものなのだろう。
だけど不気味な事には違いない。
最初の松明が消えかけたとき、洞窟のかなり奥の方に光が見えた。
「光だ!」
皆が、光が見えたことに喜ぶが、まだまだ遠い。
行き用の松明が消えかけて引き返すために用意した松明に火を灯し、皆に先に決めた通り引き返すことを伝えるとトムとルーゴが反対した。
「どうして引き返すんだ!出口は、もう直ぐそこなんだぜ!?」
「出口なのかどうかは分からないけれど、あそこに行けば目当てのジャン・カルロス会えるかも知れない。だから僕たちは進むべきだ!こんな所で引き返せば、彼は僕たちが臆病者だと思ってしまうかも知れない‼」
2人の言葉にシェメールが「出発時に決めた事よ!」と反論し、ケラーが「相手にどう思われても、それは僕たちには関係ない」と諭すように言うが、トムとルーゴは聞く耳を持たない。
「じゃあ1本貸してくれ! 5本用意したんだから、どうせ1本は何かあったとき用の予備だろう?」
「そ、そうだ! 1本あれば、あそこまで行ける! 行けば必ず何らかの収穫があるはずで、それがジャン・カルロスなら言う事なしの大収穫じゃねえか!」
たしかに2人の気持ちも分からないわけではないけれど、そうしている間に行き用の松明は消えてしまっていた。
おそらく2人は旅のゴールに目がくらんで、多数決にも応じない。
だからと言って時間をかけて説得するだけの余裕はない。
こうして話をしている間にも、帰り用の松明は燃え続けている。
まだこの件について何も言っていないイリアに意見を聞こうと思った。
聡明な彼女なら屹度2人を宥める良い意見を言ってくれるはず。
そう思って振り向いたとき、壁にもたれて立っていたイリアがグラッと倒れそうになり慌てて支えた。
「大丈夫か⁉」
「ええ、ありがとう……」
「具合、やはり悪いのか?」
「ごめんなさい」
イリアは、か細い声で言った。
「ほら、イリアも長旅で具合が悪いんだ。先に進んでサッサと旅を終わらせようぜ」
トムの言葉に僕はつい感情的になり、強い言葉を出してしまう。
「アンヌを亡くしたいま、不確かな情報でイリアを亡くしたくはない! さあ約束通り引き返すぞ‼」
僕はイリアを背負いケラーに先導してもらい戻る方向に進んだ。
シェメールがもう1本の松明をルーゴに渡し、あとからついて来る。
そしてルーゴとトムも顔を見合わせて、ついて来た。
あんなことがあったから、予備用の松明まで使ってようやく元居た洞窟の入り口まで戻ることができた。
洞窟の入り口に戻った僕たちは、またここに来たときと同じように作業を始めた。
ただ体調の悪いイリアだけは、日の当たる暖かい場所で寝かせておいた。
今日はもう洞窟に入らないことを決めた僕たちは余った全ての時間を明日のために費やし、松明は倍の12本作っただけでなくケラーの発案で木炭も作った。
木炭は松明に比べると照明としてはかなり暗いけど、火が長く持つことが利点。
だから今日進んで安全が確認できた区間は、松明の代わりに使うことができるし、余った分は予備にも使える。
そして僕たちは、次の日に万全の装備で再度洞窟探検にトライした。