【洞窟①(cave)】
レオンは僕が想像したとおり、やはりあの洞窟に僕たちを導いた。
この中に居るのはジャン・カルロスに間違いないと皆も思ったのだろう、それぞれがそれぞれの顔を見渡し緊張が走る。
レオンも皆の緊張を察したのか、一旦止まって僕たちの様子を見ていた。
オオカミは暗い洞窟の中でもある程度は内部の様子を見ることができるだろうが、僕たち人間は暗いと何も見えないから松明を作ることにした。
先ず枯れ枝を集める班と、松の木を探す班とに分けた。
枯れ枝を集める班はケラーとシェメール、そしてイリア。
松の木を探す班はトムとルーゴ、それに僕。
僕たちの班は、松の木を見つけて幾つかの生の枝を持って帰る。
そして生の枝をナイフで細かく削り、その削りカスを集めて鍋に入れた。
ケラーが火を起こし、集めた枯れ枝で松の削りカスを入れた鍋を火にかけしばらくすると黒色の汁が出始め、その汁を煮詰めて布切れに染ませ生木に巻き付けた。
こうして4本の松明が出来上がった。
「こんな液体に火が付くのか?」とトムが不審そうに聞いてきた。
「松の木から抽出した液体は、松脂と言って燃料にもなるんだ」
「直ぐに燃え尽きないのか?」
「けっこう長い時間もつよ」
「ふ~ん……」僕の解答にトムは懐疑的。
松明が出来たので僕たちは、そのうちの2本に火をつけて出発することにした。
またトムが僕に聞いた。
どうして5本全部に火をつけなかったのかと。
僕が洞窟の長さが分からないから、一度に全部使ってしまうと全てが燃え尽きてしまったときに戻ることが困難になるからだと答えるとトムは、だったら1本だけに火をつけて松明2本分進むことができるようにすれば洞窟の奥が深くても大丈夫じゃないかと言った。
たしかに、トムの言う通り。
だけど僕たちの目的は、危険を冒してまでジャン・カルロスに合わなければならないわけじゃない。
たしかにジャン・カルロスに合うために、レオンについてココまでやって来たわけだし、途中不慮の事故でアンヌの尊い命を失ってしまった。
だからこそ、無理はしたくない。
行きに2本の松明に火をつけたのも安全のため。
1本の松明では人の影になる部分は見えない。
2本の松明を隊列の前後で焚けば、人の影で見えなくなる範囲はより狭くなり、より安全に歩くことができる。
そして何も問題が無ければ、2本の松明が消える前に僕たちは来た道を引き返す。
もちろん2本の松明が消える前に、誰かが怪我をしたり不慮の何かかが有ったりすれば、その時点で引き返す。
安全のために、やり直しがきくうちは何度でもやり直せばいい。
生きると言う事は自身だけの問題ではなく、他人も含めて考えるべきこと。
自他ともに決して命をないがしろにしないこと。
それが生きるもの全てにおいて守るべき本当の目的なのだと僕は思う。




