【謎の人物⑤(Mysterious Person)】
いつものようにレオンを先頭に僕たちは出発した。
けれどもいつもと違い出発して直ぐ、レオンは僕とトムが謎の人物に関することで斥候に出た時に通ったルートを進み出したので僕たちはざわつきお互いの顔を見合った。
「レオンたら、アナタたちの匂いを追っているんじゃないの?」
シェメールが僕に訴えるが、僕は曖昧な返事を返す事しかできない。
なぜならレオンに直接聞いたとしても、彼は屹度なにも答えてはくれないはずだから。
「おいレオン。なんで俺たちが通った後をなぞるように進むんだ?」
答えてくれないはずのレオンにトムが事情を聞いたが、彼はその時だけ耳を後ろ方向に一瞬向けただけで何事もなかったかのように進み、やがて僕たちが謎の人物の居る痕跡を見つけた場所までやって来た。
レオンの後ろを皆で隊列を組んでついて歩いていると、あちこちにあるはずの幾つもの靴の跡が見当たらない。
これは屹度レオンの用心深さに頼っているのと、仲間たちと一緒に居るという安心感に、僕自身の警戒心が緩んでいるのだろうと思った。
人間の警戒心は他の動物に比べて長くは続かない。
弱肉強食と呼ばれる自然界における生存競争の中で人間だけが道具を使い外敵から身を守ることの出来る住居を持ち文明を築き、動物的には弱者であるにもかかわらず他の生物よりも優位な位置に立つことができたからこそ何も怯えることのない精神状態を維持することができるようになった。
この事はすなわち精神的な安定をもたらし、精神的な安定により脳は自らの身を守るためだけではなく違う目的で活用できるようになったため文明は更に発達していった。
やがてレオンが罠のある場所に近付いて行く。
レオンがうっかり罠に気付かない可能性もあるので慌てて前に進もうとするが、レオンは罠のある場所の少し手前でコースを変えた。
人間の匂いを嗅ぎつけたのか?
手の込んだ仕掛けだから、それだけ人の匂いは多くあるはず。
だけど次の落とし穴に気がつくことは難しいだろうと思ったが、彼はココでもその手前で別のルートを辿った。
これは、もしかすると。
レオンはトムと僕の匂いを辿っているのではなく、彼は彼に与えられた目的に沿って行動をしている。
そう考えると、この先にある洞窟に潜んでいるはずの謎の人物の正体こそが、僕たちを呼びよせているジャン・カルロスと言う人物なのかも知れない。