【謎の人物②(Mysterious Person)】
そもそもジャン・カルロスとはいったい何者なのだろう。
彼がレオンを寄越したとき、僕たちは丁度シェメールが昆虫型ロボットに襲われ、その前のジョウやムサラドが殺された事件もあってパニックに陥っていた。
そしてそこにレオンの首に巻き付けられたメッセージ。
『もう時間が無い。今すぐに出発の準備をして今日中にコノシェアーハウスを出て、この子について来い』に従って、僕たちはレオンと共に旅に出た。
レオンと会ったのは、このときで2回目だった。
1回目はムサラドが殺された後に、彼の足跡から何かわからないか調べるために自然エリアに降りたとき。
レオンの監察にはジャン・カルロスと言うブリーダーの名前があった。
飼い犬は、それを飼う家族の性格を映すと言われる。
穏やかで人懐っこいレオンの性格をみると、彼を育てたジャン・カルロスが悪い人間でないことは分かるが、悪い人間だけが悪事を働くとは限らない。
良い人間だって無意識のうちに、悪事に手を染めている事だってある。
「いい棒を見つけたぜ!」
トムが野球のバットとほぼ同じサイズの棒を持ち、その棒をザラザラした石に擦りつけ先端を尖らせながら自慢気に言った。
僕はその様子を見て、遥か最古の人類を見たような気がした。
かつて人類はオオカミなどの獣から身を守るために武器を手に持つようになった。
人類が最初に手にした武器は、石や棒だと言われている。
棒はやがて先を細く尖らせた槍や投げ棒に代わり、その槍や投げ棒は木を尖らせる方式から鋭利で硬い黒曜石を弦などで括り付けたものに代わり、やがて先端はより強力な鉄へと変わり、投げ棒は弓へと進化を遂げる。
今のトムは、まさに道具を使いだした最初の人類と同じ進化を遂げたのだ!
勝手にトムと原始時代の人類を照らし合わせて、当時の様子を思い描きながら見ていた僕の虚ろな視線に気づいたトムが、自分が何か変なのかと聞いてきたので慌てて変じゃないと答えて想像を巡らせることを止めた。
それでも興味の尻尾は揺れ動くことを止めなくて、僕の口はトムに他に武器は持っていないのかと聞いてしまうと、トムはポケットの中から自慢気に小振りのじゃが芋サイズの石を幾つか取り出して見せてくれた。
棒と石、それにポケット!
人類は石という武器や取った獲物を収納するために必要な、バッグも直ぐに開発したに違いない!
トムを連れて煙が出ていた方に進む。
用心深く。
トムが、なぜそんなに用心深く進むのか僕に聞いた。
確かに足跡とか木の枝にしても、人が居る痕跡を残してある所を見ると謎の人物は左程用心深い人間には思えない気もする。
だけど僕には引っ掛かるところがある。
丘の上から煙が見えたから、僕たちはこの場所に来た訳なのだが。
今も火を焚いているのであれば当然煙も出ているはずで、煙が出ているのであれば必ず匂いも立ち込めているはず。
ところがもう直ぐ傍まで来ているはずなのに、煙も漂ってなければ匂いもしないのは、どういうことなのだろう?
僕たちが近付いている気配に気がついて慌てて火を消した?
それともあの煙は、僕たちを誘き出すためにワザと出した?
地面に落ちているはずの木の枝が無い訳は分からないけれど、もし人を近付けたくないのであればワザと人が大勢いるように見せるのではなく、例えば雨や雨上がりの日に外に出ることは避けるとか、足跡を残さないように用心して行動するはず。
ひょっとしたらルーゴを罠に掛けたときボーガンを仕掛けて麻酔を打ったように、謎の人物は僕たちを獲物として誘き出したのではないだろうか。