【森の中②(In the forest)】
森の中を声のした方に向かって、不安を払拭するように全力で走る。
レオンが居れば連れて来たかったのだが、彼は湖についた後どこかに行った。
食料探しに狩りなのか、それとも……。
もしも敵が居たとしたら、ルーゴを助けることよりも、そのことを仲間に知らせることの方が重要だ。
その時、僕は冷静に判断が出来るだろうか?
そろそろ近い思い走るのを止め、周囲の気配を気にしながら用心深く歩いて進む。
ギシギシと何かが軋む音が聞こえる。
足音を立てないよう、何かの気配を見落とさないよう、息を殺してユックリと近付く。
静かな森に、自分の心臓の音だけが響く。
近付くうちに軋む音は次第に小さくなり、そして消えた。
“いったい何の音だったのだろう? ルーゴの悲鳴と関係がる音だったのか……”
周囲に人の気配は感じられないが、一旦立ち止まり木の幹に隠れて辺りを見渡す。
大丈夫だと自分に言い聞かせ再び歩き出すと、突然大きな音を立てて木の葉が騒めいて慌てて歩き出した歩を止めてその場に身を低くしてしゃがむ。
「ギイギイギイ」
音の後、鳥の鳴く声が空に遠ざかっていった。
“鳥か”
音の正体が分かってホッとする反面、油断は禁物だと身を引き締める。
鳥が飛び立ったのには、何らかの訳があるはず。
もちろん気まぐれで飛び立つときもあるだろうし、僕たち人間には聞こえない虫の音を聞きつけてエサを求めて飛び立ったのかも知れないし、何かの気配に怯えて飛び立ったのかも知れない。
もしも何かの気配を感じて飛び立ったとしたら……。
原因が僕ならば何の問題もないが、その他の要因があるならばマズい。
たとえそれが他の誰かで在る無しに関わらず。
クマやオオカミなどの捕食動物は、獲物に近付くときに巧妙に気配を隠す。
人間よりも遥かに聴力の優れている、ウサギやシカなどにも気付かないのだから、僕がこうしていくら聞き耳を立てようが気付けるはずもない。
一番近い茂みとの距離は、たった3mあまり。
もしも猛獣がこの場所に隠れていて僕に飛び掛かって来たとしたら、僕はその姿を確認する間もなく襲われてしまうだろう。
すこし距離を開けるために後退りして、登れそうな木がある場所まで下がり、直ぐにその木の幹を掴んで登った。
これでオオカミやコヨーテからは身を守ることはできるが、相手がクマの場合は意味がない。
木によじ登ってから気付いたことがある。
それは木の登ってしまった僕が、行き場を失ってしまった事。
登って初めて気がついたのは、登った事の安心感よりも、再び降りることへの恐怖だ。
クマなら獲物の僕を狙って登って来るだろうが、その他の捕食動物であれば必ず降りてくるタイミングを待つだろう。
しかも彼らは、僕が木から降りてきやすいように決して姿を見せないはず。
サルとは違う大型の人間は、木から木へと飛び移ることはできない。
だから先人たちは木の上の生活から、地上に降りたのだろう。