【3人目の死②(Third Death)】
次の日の朝、僕たちは昨夜の夜更かしのせいで日が高く上がり始めたころに起き始めた。
久し振りに騒いだせいか、起きても少しボーっとする。
それぞれが起きて支度をはじめたころ、まだ起きていないアンヌを起こしに行ったシェメールが皆に来るように言った。
低く暗い声。
シェメールに何かあったのか、アンヌに何かあったのか……。
皆が集まる。
「どうしたんだ?」
いつも陽気なトムの声が何かを察したのか怯えている。
ルーゴが心配そうにアンヌの傍に膝間付く。
「死んでいるの……」そこまで言うとシェメールは手で顔を覆い泣き崩れてしまった。
「おい!嘘だろう⁉」
恋人のルーゴが無言のままアンヌの体を激しく揺らす。
しかしアンヌは目を覚ますことなく、体を強く揺さぶられたことで、あの時のウサギのようにダラリと首を傾けた。
それを見てルーゴは諦めたのか、アンヌにしがみついて泣き崩れた。
「どうして……」ケラーが呆然と言った。
泣いているシェメールとルーゴに遠慮しながらも、イリアがアンヌの体を触って死因を確かめる。
僕は何もできないまま、冷静に成すべきことを実行するイリアを見ていた。
イリアがアンヌの足につけられた小さな傷を発見した。
「何の傷?」
「死因に関係する傷なのか?」
いま正常な判断できるトムとケラーがイリアに聞いた。
「ガラガラヘビよ」とイリアが傷口をハンカチで拭きながら答えた。
「クソー‼ 折角絶滅仕掛けていたのに‼」
アンヌの死因がガラガラヘビに取るものだと聞いて、ルーゴが激しく怒号を上げた。
ガラガラヘビは無人政府樹立前の遥か昔、テキサスなど幾つもの州で「ガラガラヘビ狩り祭り」と称した祭りが行われていて一時は絶滅の危機に瀕していたが、その絶滅からガラガラヘビを救ったのが人と自然動物との生息域を区別した今の環境。
「もうこんなものいらねぇ‼」
「よせ!」
トムが衝動的にギターを手に取ったルーゴを止めようとした。
「僕はアンヌと一緒に歌うのが好きで、それでギターを持ってきたんだ。そのアンヌが居なくなった今では」
ルーゴはそう言うと大切にしていたギターを地面に叩きつけた。
地面に叩きつけられたギターはネックの部分を残して、あとはバラバラに砕けてしまった。
僕たちはそれから穴を掘り、死んだアンヌを埋めた。
今にも起きてきそうな美しい寝顔。
アンヌの穏やかな寝顔に土を掛けたくないとシェメールがハンカチを被せ、皆で手に入るだけの花を敷き詰めたあと、最後にルーゴが割れてしまったギターを胸の上に置いたとき割れたギターの底の部分に何か張り付けてあることに気付いた。
「コレは……」
気付いたケラーが、それを板から剥がして僕に見せて聞く。
「GPS発信機‼」
「ルーゴ!テメー‼」
トムが怒ってルーゴに詰め寄る。
ルーゴがギター持って来た訳を僕たちの敵である仲間に居場所を伝えるためだとトムは思ったのだ。
でも、それは違う。
仲間に知らせるためであればGPS発信機の入ったギターをワザワザ壊しはしないし、アンヌと一緒に埋葬するはずもない。
シェアーハウスに居た誰かが、僕たちが旅に出る前にルーゴのギターにこのGPS発信機を仕込んだのだ。
アンヌの埋葬も終わり、僕たちはまた旅を急いだ。
GPS発信機が見つかったことで、あとから追っ手が付けてくることはない。
だけど僕たちの心は重かった。
シェアーハウスに居た誰かがコレを付けた。
その事実が僕たちの絆を歪めようとしていた。