【復讐心を持った誰か①(Someone with a vengeance)】
無人システムと無人政府を世界で初めて採用したのが120年前の日本で、ここアメリカではその2年後に同じシステムを採用した。
その後、先進国をはじめとする国々が無人政府を敷き、同時に無人システムも採用していった。
中東の国々では当初無人システムの採用には前向きだったものの既得権益を手放したくない王族や政治家そして部族長などが強く反対して無人政府の採用は見送られていたが、自然エネルギーを主力エネルギーとする勢力が圧倒的に増えた社会構造の中では既得権益を生み出していた化石燃料の需要自体が減ってしまい彼らもまた無人システムを採用するしかなかった。
そして無人システムが、ほぼ全世界の国々に行き渡ったのを記念して、西暦もUS(Unmanned System)と改められて101年が経った。
最初のハッキングまでに掛かる時間は約90年。
コンピューターを自動更新するように設定したとしても、不定期に訪れる無人システムからの生存確認には無人では対応できない。
だから90年間の半分でも、コンピューターに任せるのは不可能。
「じゃあ、無人システムにハッキングを仕掛けたヤツって言うのは、まだ存在しているって事なのか?」
「まさか、あり得ない」
「そうか? 今の平均寿命は女性で110歳、男性でも101歳。最高齢者は152歳なんだぜ。あり得ない訳はないとは思わないか?」
確かに年齢的には可能だとは思うが、精神的にはどうなのだろう?
「なあ、90年も復讐のために人生を棒に振ることができるのか?」
「90年も恨み続けるなんて無理に決まっているでしょう? ねえ」
シェメールがアンヌに聞くと、アンヌも無理だと言った。
「意外に女性は執念深いと思っていたんだけど、違うんだな」と、トムが言うと2人とも「失礼ね!」とワザと怒った顔を見せて僕たちを笑わせた。
実際問題そんなに長く続けることができたとして、今更無人システムや無人政府に介入したとして何の意味があるのだろう。
いつもハキハキと意見を言うはずのイリアが、この議論に対してあまり意見を言わない事が気になって直接聞くと「私には分からない」とだけ言った。
議論は左程長くは続かなくて、直に日が西に傾き始めた。
「それにしても、腹が減ったなぁ」
トムが言った。
僕たちは旅がそう長くないと思っていたし準備に必要な時間もなく、持ってきた食料は朝には尽きていた。
「どうする?」
「果実を探すにしても、この辺りは乾燥地帯に近いから動き回って消費するカロリーを補えるほどの食料を得られる見込みは薄そうよ」
人間は雑食性だけど、野生の草を食べることができるようにはできていない。
かと言って、肉食動物のような機敏さもないから道具が無ければ動物も捕まえられない。
「原始人は、いったいどうやって生き延びていたんだ?」
「さあな……僕は寝るよ」トムの言葉には興味が無いようにケラーは横になり、ルーゴはギターを弾き始めた。
なす術なし。
文明の発達し過ぎた人間たちは、その文明から離れて自然の中では生きていけないのか……。