【無人システムの穴①(Weaknesses of Unmanned Systems)】
「イリア、君はどう思う?」
さっきから何も話さずに黙ってるイリアに聞くと、彼女は「私には分からないけれど」と答えたあと、一つの仮説を立てた。
「もしも誰かが無人政府に介入しようとしていたとしたら……」
「無人政府への介入!?」
イリアの仮説に皆が唖然とした。
と、言うのも、無人政府はソレが介入自体を許さない仕組みだったから。
無人政府の樹立に当たって、一番の問題は人の操作によってシステムへの介入を許さない事。
そのために厳重なハッキング対策を行い、セキュリティは万全で毎日パスワードを変更しているし履歴も残らない。
しかもそのパスワード自体、数字とアルファベットの組み合わせなのか、それとも記号が入るのか違う言語、たとえば中国やハングルの文字が入るのかさえ分かってはいない。
つまりハッキングは不可能なのだ。
「コンピューターへの介入なんて、そりゃあ100年以上も昔の話じゃないか」
「介入して操作するなんて、在り得ないわ」
皆が口々に言った中、ケラーが異なる意見を言った。
「例えば文字や複雑な数字を使わなかったらどうだ?」
「文字や複雑な数字を使わなければ、いったいどうやってセキュリティを突破するんだ!?」
トムがバカげた意見だと思って食って掛かるが、僕にはケラーの言いたいことが全て分かった。
コンピューターの頭の中には複雑な文字や記号もなく、全てのモノは0と1で作られている。
文字だけではなく、色や音も。
要するに様々な要素を考えれば考えるほどパスワードの解明は難しくなるばかりで、しかも運良く1度解除に成功したとしても翌日には違うパスワードに代わっているから、システムを崩す暇なんて全くなく、偶然に2度目の解除に成功する確率はとてつもなく低いままのスタートとなる。
そして2度目の解除に成功したとしても、また3度目は振出しに戻った所からの挑戦となるだけで永遠に当てる確率は上がらない。
しかし0と1の挑戦では1度目が成功し、偶然2度目の解除に成功した場合、3度目の解除に向けたヒントが得られる。
それは“計算式”
人間とコンピューターとの違いは沢山あるけれど、もっとも大きな違いは “偶然” か “計算” かと言う事。
人間は気分次第で物事を進めることができる。
それはもちろんサボタージュにも繋がってしまうが、コンピューターは全ての事象を間違いのないように計算尽くで処理しているからパフォーマンスを落とすことはない。
つまり0と1で挑戦した場合、2度目の解除に成功した場合、それがどのような計算を基にして当てはめられたものなのかと言う事がある程度分かるということ。
1度目と2度目の解除の日数が短ければ、考えられるパターンは少なくなるし、長ければ多くなる。
2度目までのパターンは、おそらく天文学的数字となるだろうが、コンピューターにとって天文学的数字と言うモノは人間が思うほど不可能な数字と言うわけではない。
2度目の解除から数10年後には3度目の解除に辿り着くことができるはず。
ただしコンピューター側も何らかの対策は施しているはずだから、解除した際に不正アクセスを見破られないように心がければある程度の書き換えは不可能ではないだろう。
だから正式な無人政府を採用していない中国などの国が先に狙われ、更に比較的規模の小さいシステムを採用しているトルコも、そして彼らが次に狙っているのは……。