【旅①(Journey)】
結局僕たちはジャン・カルロスの手紙に従って、レオンについて行くことにした。
大急ぎで荷物をまとめた。
荷物は水と食料、それに野営の道具など生きていくために必要な物に重点を置くことにした。
なにしろレオンが何処に連れていってくれるのか分からないうえに、オオカミは1日に200㎞も移動することがある。
人間だって頑張れば200㎞くらいの距離は1日で移動できる人もいるが、毎日という訳には行かない。
毎日そんなに移動されたら誰も付いてくことは出来ないから、おそらくレオンは僕たちのペースに合わせてくれるに違いない。
どこまで行くのか分からない以上、無理は出来ない。
庶民が馬などの乗り物なしで往来していた1700年頃の日本の街道には、だいたい40Km ごとに宿場があったと言われているから女性を連れた僕たちのペースもコレに習って行こうと思う。
ルーゴがギターを持って行くと言ってきかないから少し時間がかかったけれど結局“自己管理”と言う事で許し、僕たちはタイムリミットのギリギリ30分で準備を終えて出発した。
僕たちが出発して30分近く経った頃、僕たちの歩いてきた方角からドーンと言う爆発音のようなものが聞こえて振り返ると丁度シェアーハウスが合った方向から赤い炎が上がっていた。
誰も何も言わなかった。
いや、言わなかったのではなく、言えなかった。
自身に迫りくる恐怖。
確実に僕たちは何者かに命を狙われていると言う事実を目の当たりにした。
あの炎は、その何者かが僕たちに向けた本格的な宣戦布告というメッセージ。
その夜は、一晩中寝ずに歩いた。
月明かりだけの森を幾つか抜け、日が高くなるまで10時間も歩き続けた。
夜の星々と昼の太陽の位置から僕たちはロスアンゼルスを出て、山伝いにグネグネと回り道をしながら北西に進んでいる。
サンフランシスコに向かっているのか?
レオンに聞いたとしても何も答えてはくれない。
とにかくついて行くしかない。
昼前にレオンは足を止めた。
皆がホッと安堵したように息を吐く。
「今日はココでビバークしましょう!」
イリアが言った。
まだ日も高いけれど、深夜から歩きっぱなしの僕らには有難い。
「珈琲を入れようか」
トムの言った言葉に皆が喜んだのも束の間、トムが急にコンロが無い!と騒ぎ出した。
たしかにココはシェアーハウスではなく、自然エリアだから電気製品がそこら中にあるわけがない。
しかし僕たちにとって何処に行っても電気製品が使えるのは常識だと思っていた。
家だけでなく図書館や公園でも、車の中や電車や飛行機に乗っても、何処に行っても電気はあるし最小限の家電製品は誰でも使えるように設置してある。
一応最小限の電気は届いているようだが、キャンプ場でもないコノ場所にはポットなどは置かれていない。
僕たちは火を焚くために枯れ枝を集めた。
そして原始人のように苦労して火を起こして、ようやく珈琲を飲むことができた。
ここまでくる道中に、スポーツドリンクしか飲んでなかった僕たちの喉を、命の灯が喉を流れていくような気がした。