【レオン③(Leon)】
トムが腕の動きを止めた。
レオンもトムの手を咥えたまま動かない。
レオンがトムの眼を見つめ、トムもレオンの眼を見つめていた。
そのままジッとしていると、レオンが咥えていた手を離す。
「ど、どうすれば良い??」
トムがイリアに聞くと、イリアは「お許しが出たから、触ってもいいよ」と言った。
「ほ、本当か?」とトムが聞き返す。
「本当だと思うけれど、決して怖がらないで。恐怖心は相手にも移るから、堂々と愛情を持ってね」とイリアが助言する。
トムは深呼吸をして、またユックリと腕を伸ばし、遂にレオンの下顎付近に到達した。
レオンがまた首を振ってトムの腕を見るが、今度は口を開かない。
「オマエ、暖かいな」
そう言いながらトムが優しく顎から頬にかけて撫でると、レオンは顔を上げて気持ちよさそうに目を瞑った。
トムは撫でていた手を降ろし、首輪に結び付けられていた紙を手に取ることに成功した。
紙を広げ、皆で書いてあった内容を読む。
『もう時間が無い。今すぐに出発の準備をして今日中にコノシェアーハウスを出て、この子について来い ―ジャン・カルロス―』
ジャン・カルロスはレオンを育てたブリーダーだ。
“でも、いったい何処へ?”
「今日中に出発の準備をしろって言っても、あと30分もすれば日にちが替わってしまうぜ!」
トムが言うと、ケラーも「急がせて議論や相談をさせない手口は、大昔に流行った“振り込め詐欺”に似ているな」と怪しがった。
「私なんて、まだシャワーも浴びていないのに、あと30分でココを出ろって言われても、ねえ」
アンヌが言うとシェメールも相槌を打っていた。
「非常識、質の悪い悪戯だよ」
ルーゴがそう言うと、口火を切ったはずのトムが反論した。
「俺はあと30分で日にちが替わると言ったが、この案件に対して否定していない。非常識?質の悪い悪戯?そんなもんムサラドとジョウが殺された中では常識も良識もあるもんか!俺たちだって狙われているかも知れねえって、さっき話し合ったばかりで、実際シェメールが昆虫型ロボットに襲われた。おそらく敵はロボットだ!そして何故か俺たちを狙っている」
「しかし、このオオカミや宛先に書いてあったカルロスが味方である保証はない」
ケラーが言った。
「だけどコイツは本物のオオカミで、カルロスと言う人間に育てられた」
「根拠がない。オオカミだって精巧に作られたロボットかも知れない」
「いや間違いねえ。その証拠にコイツは俺に触られるとき躊躇した。ロボットなら判定は “0か1” だよな!心配ならそのドアの隙間から自慢の靴を出して確かめてみればいい」
ケラーは隙間から靴をだして「確かにロボットではないようだ」と言った。