【レオン①(Leon)】
玄関のドアはガタガタと鳴り続けている。
これだけ長く物音を立てていたら、中に居る僕たちに気付かれてしまう事くらい直ぐに分かりそうなもの。
“バカなのか?”
いや、コレはワザと僕たちに気付いてもらえるように音をさせているのかも知れない。
“スミス‼”
その名前が思い浮かんだ。
スミスは、ジョウと一緒にシリコンバレーで行われた無人政府反対運動の学生集会に参加するためにサンフランシスコに向かった。
そしてジョウは車の中で死体になって戻って来た。
もし車に同乗者が居たとしたら。
スミスはジョウと途中で行動を別にしたらしいが、一緒に帰って来ても何の不思議も無いし、一緒に帰って来るのが普通。
ジョウが襲われたときに逃げることができたとしても、直ぐにこのシェアーハウスに入ることができなければ何処かに身を隠していたとしても何の不思議でもない。
敵は、スミスが返ってくる場所を知っているのだから。
そう思うと僕は脚に力を入れて走った。
ドアの外では、一刻一秒を争う事態になっているかも知れない。
一瞬でも間に合わなければ、スミスの命は無い!
「チョッとラルフ、走っちゃ駄目よ!」
「慎重に行動すんじゃなかったのかよ!」
後ろから声を掛けられるが、もう僕には振り向く余裕もなかった。
そして玄関に着くと、そこに居たモノに驚いた。
「レオン!?」
ドアをこじ開けようとしていたのは、以前イリアとムサラドの痕跡を探るために自然エリアに入った時に偶然出会った人馴れしたオオカミのレオン。
何故レオンがココに……。
追いついてきた皆も、大きなオオカミを見て足を止めた。
アンヌとシェメールは怖がって、後退りをした。
怖がるのも無理はない、レオンは全長が130㎝肩までの高さが1m近くもり体重もおそらく50㎏は超えていると思われる大型のタイリクオオカミ。
“どうする!?”
僕は振り返りイリアを見た。
イリアはシェメールにローストビーフの残りを持ってくるように言い、トムとルーゴに付き添われてシェメールがローストビーフを持ってくると、それを持ってドアに近付いた。
「どうするつもり!? まさかドアを開けて中に入れるんじゃないだろうね」
自然エリアで1度あっただけで、あの時は僕たちに慣れていたが、今はどうか分からない。
野生動物は気分次第。
人間には動物の気持ちなんて分からない。
イリアは僕とケラーにドアを抑えておくように言い、少しだけドアを開けて隙間からシェメールから預かったローストビーフを差し出した。
レオンは直ぐに与えられたローストビーフを食べると思っていたが、差し出されたローストビーフを見て“お座り”のポーズをとった。
更に驚くべきことにレオンの眼は、ローストビーフではなくイリアの眼を見ていた。
まるで飼い主に「食べなさい」と言われるのを待っている飼い犬のように。
「しょうがないわね」
イリアはそう言うと、僕たちの好きを突くように僅かな隙間をこじ開けるように外に出ようとした。
「イリア‼」
オオカミのレオンに気を取られていた僕たちは、イリアを止めようとしたが間に合わず、イリアは玄関から外に出てしまった。