【虫②(insect)】
食後に捕獲したロボットの虫を調べた。
先ず調べるにあたって徐電機を使いロボットのエネルギーを全て奪った後に、昆虫の標本のように動けないようにピンなどを打ち、板に固定した。
形はカナブンに良く似ているが、大きさは一回り以上大きくて、小型のカブトムシに近い。
鞘翅(しょうし:別名「はねかくし」とも言われる部分)と頭部には、光発電が行えるようにN型半導体(表面)とP型半導体(裏面)の2重構造になっていて、鞘翅の下には、本物のカナブンや他の甲虫類と同じように折り畳み式の薄い羽があった。
外骨格の中には電子機器が詰まっており、先ず頭部の先端には超小型のCMOSセンサーと赤外線センサーが左右の眼にセットで2個ずつ取り付けられていた。
視野角はそれぞれ上下左右に172度あるが、小さい頭部に比べてズングリと大きな胴体が邪魔をして死角となる後部を補うために、センサーが取り付けられている眼球部分はカニの目玉のように顔から飛び出す構造になっていた。
頭部には、その他に通信用機器と記憶媒体が搭載され、胴体部分には蓄電池とモーターや各種の動力制御装置が組み込まれていた。
脚の構造は昆虫型のロボットのように精密な構造ではなく、どちらかと言うと玩具に近い簡易的な構造となっていた。
「凄いな!? ひょっとしたら、森の中にもコンナのがウヨウヨいるのか?」
「まさか無人政府は、ソコまで俺たちを監視してはいないだろう」
「ケラー、どうなんだ? 靴底に磁気センサーをつけていた君なら分かるんじゃないのか?」
僕たちがケラーに聞くと、今回はイリアの指示通りに投げてロボ昆虫を捕まえることができたが、靴に取り付けたセンサーの有効範囲は2mにも満たないうえ、アルミニウムのような常磁性体で作られたロボットを認識するには有効範囲が更に1/4以下にまで狭まってしまうそうで、今までに昆虫型ロボットを発見したことはないと言った。
「かなり探知距離が短いのね」
「2mの1/4だったら、私たちが蚊を見つけられる距離と同じくらいね」
「つまり相手が危険ゾーンに入って来るまで分からないけれど、入ってしまえば確実に分かる!って事ね」
アンヌ、シェメール、そして最後にイリアが言った。
小型ゆえに探知距離は短い。
だが相手が本物の人間ではない事が分かれば、少なくともムサラドの場合は胸を刺されて死ぬことはなかっただろう。
「しかし、どうして虫がシェメールを襲おうとしたんだろう?」
「それはコイツの成分を分析しなければ分からない」
ラルフが昆虫型ロボットの尾部にある針と直結してある袋を開いてみせた。
「シェメール、協力してくれるだろう?」
「もちろんよ!」
シェメールの専攻は、医学部薬学科だから、この袋の中になる成分を分析する能力と機材を持っている。
だから狙われたのか?