【第2の殺人事件③(The second murder case)】
大分間が空いてしまいましたが、本日より再開しますm(_ _"m)
ドアを開けると、そこに居たのはトムだった。
何の用だと聞くと、シェメールが食堂で泣いていると、気の毒そうな顔で教えてくれた。
つまりトムはシェメールの泣いている姿を見て哀れに思い、彼女が焼いたローストビーフを一緒に食べないかと誘いに来たのだ。
「でも、毒が入っていたとしたら、どうする?」
僕の問いにトムは何も答えられずにいた。
人は必ずいつか死ぬ。
だけど、死ぬのは今じゃない。
死ぬのは、年老いて体の自由が利かなくなってから。
誰もが、そう願っている。
死んだムサラドもジョウも。
「いいわ、行きましょう」
僕の問いに応えられないトムと、次の言葉を出せないでいる僕の間を断ち切るようにイリアが部屋から廊下に抜けて行く。
「待って」
イリアを止めるために慌てて手を伸ばしたが、イリアの手は僕の伸ばした手を掻い潜るように通り過ぎて行った。
「イリア!」
慌てて廊下に出ると、廊下に出たイリアの行く先を塞ぐようにルーゴとアンヌ、それにケラーまで居た。
「みんな、食べに行くつもりなのか?」
「まさか、その逆さ」と、ルーゴが言った。
「誰が犯人か分からないの今は、情に流されて行動を起こすよりも、ジッとして何もしない方がいいわ」
アンヌに、止めに来たのかと聞くと、彼女は「お人好しのラルフならトムの言葉に乗りそうだもの」と言った。
「ケラー、君はどう思う?」
珍しく皆と行動を共にしていたケラーに聞くと、彼はこう言った。
「僕はこの中に犯人が居ない事を信じている。だけど信じ過ぎる訳にもいかない。特にこのような事があった後では。ロボットやAIたちが犯人を見つけてくれるまで、しばらく部屋に居てジッとしていたほうが身のためだ」
「トムの気持ちも分かるけど、今は情に流されちゃ駄目」
アンヌの言葉にトムは激しく動揺して壁に頭を打ち付けて泣いた。
きっと皆、トムと同じ気持ちなんだと思った。
だけど僕と同じ様に、死ぬのは怖い。
「イリア‼」
廊下に集まっていた皆が虚ろになっていたとき、急にイリアがルーゴたちの隙間を抜けて走り出した。
「イリア!止せ‼」
「話は聞いただろう!部屋に戻ってジッとしているんだ‼」
僕たちの声にも振り向かないまま、イリアは走るスピードも落とさずに言った。
「もし、部屋で独りでジッと居させることが犯人の狙いだったら大変な事になるわ!」
「それは、いったいどういうことだ⁉」
イリアを追いかけながらラルフが聞くと、イリアは走りながら答えた。
「一人一人、順番に殺される。そして私たちは更にお互いが信じられなくなるの!最後の一人になるまで」と。
イリア、ラルフに続いてトム、ケラー、アンヌ、ルーゴも続く。
ちょうど先頭のイリアが階段を下りきったとき、食堂からキャーッという悲鳴が聞こえた。
「シェメール‼」
ラルフが大声を上げて叫んだあと、椅子か何かが倒れるガシャンと言う音が響いた。