【捜索(search)】
「怖いわ……」
微かに震えながらイリアが呟く。
急に鳴り出した雷や雨のように、ムサラドは急に死体となって僕たちの前に現れた。
人の死なんて、葬儀に出席するとき以外、関わることはないと誰もが思っていたに違いない。
僕もイリアも、そして皆も……。
ムサラドにも、死体があった場所にも特に争った痕跡はなかった。
身長190㎝体重100㎏は優にあるムサラドが、たとえ不意打ちにあったとしても簡単に心臓を一突きされて亡くなることはないだろう。
相手はナイフを飛び道具として使ったか、親しい間柄の人間のどちらかと言うことになる。
注意が他所に向いている時に離れた位置からナイフを投げられてしまえば避けるのは難しい。
そして親しい間柄なら、安心して接近したところを一突きで殺されてしまう。
ムサラドは何故玄関を入ったところで殺された?
衣服の汚れた様子から、何かに追われて逃げてきたようにも窺える。
ただ単に逃げるだけなら、目的地として警戒される確率の高いこの場所に帰ってくる必要はないはず。
敢えて危険を覚悟してココに戻ってきたと言うことは、僕たちに伝えておかなければならない何かの情報を持っていたと考えるのが妥当なところだろう。
ムサラドが僕たちに伝えたかった情報とは一体なんだろう? そして彼を殺害したのは何者だろう。
中東の暴れん坊。
それがムサラドの仇名。
なぜそんな物騒な仇名が付いたかと言えば、彼のガタイの良さもあるけれど、中東と言う文化圏の問題もある。
中東はかつて石油で豊かだった頃から、化石燃料に拘らない社会に代わった今に於いてもテロが頻繁に行われる地域として有名だから。
そこまで考えたとき、この仇名に辿り着いた事で道が開けたような気がした。
ムサラドは殺されるかも知れないことを覚悟して、ココまで来た。
と、言うことは、ココに辿り着くまでの同中に何らかの情報を記したものを残しているのではないだろうか?
僕とイリアは慌てて外に出てムサラドが残したかもしれない情報を探すことにした。
雨が降ったためムサラドの足跡や匂いといった痕跡を追うことは難しいが、そのことは有利にはならなくても不利にはならない。
もしもロボットたちも同じ考えに至ったとしたなら、嗅覚などでは僕たち人間はロボットに敵わないから不利になる。
雨は止み、夜空には満月が出ていた。
煌々と指す月の光のおかげで夜道を歩くことは出来るけれど、赤外線や超高感度の暗視カメラとGPS連動の位置情報機能を持つロボットには敵わない。
しかしムサラドが隠したものが紙のメモだとすれば、ロボットたちがそれを探すのは非常に困難な事に成るだろう。
なにしろ彼らロボットたちには目に見えるものやセンサーで感知できる者しか探し出すことは出来ないから。
それに比べて僕らには勘と言うモノが有る。
「イリアは周囲にロボットが居ないか注意して」
「はい!」
もしもムサラドを追っていた奴らがロボットだとしたら、僕たちもそいつに目をつけられてしまう恐れがある。
元々ロボットは人間に危害を加えることは出来ないはずだから逃げる必要もないはず。
なのにムサラドは何者かに追われて、逃げて来た。
ロボット……いや無人政府は罪もないものに危害を加えることはない。
ムサラドは公に認められたデモに参加しただけだから、追われる事自体おかしい。
ただこれは、今までの常識に当てはめてみた考え。
もしも無人政府が方針転換して、人間に危害を加えることを容認したなら話は別だ。
事実、西アジアで起きたクルド人たちの反乱に対してEU無人政府は兵隊ロボットを投入して弾圧した。
怪我人だけでなく、死者も出た。
僕たちの知らないところで、やはり何かが動いている。
「誰かいる!」
考え事をしていて気がつかなかったが、イリアがその分サポートしてくれていた。
「どこ!?」
「あの林の向こうよ」
イリアが月明かりで照らされた林を指さした。
たしかに何か居る。
気配を殺してジッと見ていると、その何かが人間であることが分かった。
「誰!?」
振り向いて僕に尋ねるイリアの質問に答えず、唇に人差し指を立てて静かにするように促した。
相手が人間なら、この程度の声は聞こえないだろけど、もしも人型のロボットなら違う。
林の中をガサガサと音を立てながら進んでいた黒い影が止まった。
“聞こえたのか!?”
そのとき月明かりが差し、黒い影の正体が映し出される。
驚いたような顔をしてコッチを振り向いた人物を見て、僕らは慌てて身を伏せた。
“ケラー……!?”
作者です(o^―^o)ニコ
今回は、切羽詰まって登場人物による後書きはお休みさせていただきますm(_ _"m)
3月4月と何ともなかったのに、5月の下旬に入って急に花粉症が出て来て辛い・・・(;゜Д゜)
前に花粉症について色々調べたのですが、その中で「花粉自体は症状を引き起こすことはない」と言うモノが有って、そこに書かれていたのは待機中の花粉が公害物質と化学反応を起こして、それがアレルゲンになると言うものです。
たしかに工場などから排出される窒素酸化物などは、太陽からの紫外線をうけ光化学反応を起こしてオキシダントと言う物質に代わるそうで、これは気温の影響も大きく受けます。
特に5月は気温も高く、また紫外線A波(UVA)は5月がピークと言われていますし(;^_^A アセアセ・・・
色々と生きにくい世の中なんですけれど、みなさんも気をつけて下さいね(^▽^)/