【不可解な死(mysterious death)】
急に激しく雨が降り出すとともに、幾つもの雷鳴が響いた。
まるで今の状況を天気になぞられたよう。
「直ぐに警察……」
ルーゴが、そう言いかけて止めた。
ナカナカ賢明だと思った。
ムサラドが殺されたと言う事実に於いて、考えるべきことは、その不可解な行動。
彼はロスアンゼルスで行われた無人政府反対デモに加わっていた。
そして2日前には、デモに参加した人たちと意気投合して、しばらく戻らないとメールをよこしたばかり。
そのムサラドが、何の連絡もよこさずに泥だらけの姿で戻って来て、ここで何者かに殺された。
ひょっとしたら、ムサラドは無人政府に追われていたのかも知れない。
もしそうだとしたら、迂闊に警察を呼ぶことは危険な気がする。
「とりあえず防犯カメラの映像を確認しよう!」
個人の部屋とシャワールームやトイレといった場所には、プライバシーの問題で防犯カメラは設置されていないが、共用スペースにはくまなく防犯カメラが設置されている。
防犯カメラのデーターは全てクラウドのあるスーパーコンピューターに送られるので、セキュリティー管理者権限を持っていれば端末から記録を読み出すことも簡単にできる。
その端末は1階の管理室に置いてある。
そして僕は3人居る管理者権限を持つ人間の1人。
あとの2人は死んだムサラドと、サンフランシスコに行っているスミス。
ムサラドの死体やその周辺を現状のままにしておくように言い残し、ルーゴと2人で管理室へと向かう。
廊下を歩いて管理室に向かっている時から、何者かに監視されているような感覚に苛まれ、何度も後ろを向いて確認するが僕たち2人の他に誰も追いかけている者はいなかった。
管理室につくと、用心のためルーゴに廊下を見張らせて、管理者コードを読み取らせレコーダーの記録情報にアクセスを試みるも、何度やっても画面には“Communication error”の文字が出て来るだけ。
“コレは一体どういうことだ⁉”
「通信システムが物理的に壊されている」
戸惑っている僕の背後から、ルーゴが答えを言ったので驚いて振り返ると、ドアの傍で外を見張っているはずの彼は僕の直ぐ後ろに居た。
「物理的? ただ単にシステムの不具合じゃないのか?」
通信システムは屋上に設置されていて、完全な防塵防水仕様なので、そう簡単に壊れることはないはず。
ためしにシーケンス回路図を追って見てみると、全ての通信回路が屋上の端末のところで途切れていた。
ふた昔以上も前の古いレコーダーなら1次保存用のICチップが内蔵されていたのだが、故障や通信障害のない今のシステムに代わってからそのような無駄な部品は必要がないから装備されていない。
僕たちは直ぐに屋上に向かうと、そこには無残に壊されていた通信端末があった。
「これは無茶苦茶だな……」
非常に暴力的で原始的な壊され方。
通信端末は斧のようなものでメチャクチャに壊されていた。
「びしょ濡れね。どうしたの!?」
玄関に戻るとイリアたちにそう言われて、はじめて自分が雨に濡れてずぶ濡れになっていることに気がついた。
一応、殺されたムサラドの着ていた服のポケットなどに手掛かりになるようなものはないか探したが何も見つからず、通信端末が壊されていたことで、もう僕たちに出来ることは何もなかったので警察に連絡をした。
警察や消防、救急車の依頼といった緊急性の高いものは複数の通信端末に同時発信が可能なのでこういった時にも使用できるので便利だ。
通報して3分ほどで、人型ロボットの警官が到着して現場の確認をして、それから2分も経たない間に救急車が来てムサラドの遺体を回収して帰り、それと入れ替わるようにサービスが壊れた通信端末の代わりを持って来て直ぐに帰った。
ロボットは眠らないから、こんな深夜でも各種サービスの質が落ちるようなことはない。
僕たちへの事情聴取が始まった頃には、直ぐに科学捜査班のシステムもやって来た。
ムサラドが通ったとされる道沿いには、特殊樹脂の巻きカーペットが延々と敷かれ追跡者や怪我の有無そして足の運び具合や足跡の接地圧の変化から例えば持ち物を投げ捨てたとか外傷のない怪我や体調の様子なども分かる。
ムサラドが倒れていた玄関ホールには速乾性の液体樹脂が壁や床など、ありとあやゆる“
表面“に塗られ、そして剥がされていた。
この剥がされたシートには、足跡や指紋に体毛などはもちろん、衣服の繊維や乾燥した体液(涙、汗、唾液、唾、鼻水)などの採取も出来る。
事件検挙率98%を誇る、超優秀な無人警察。
便利と言えば便利だけど、今夜はそれが何故か不気味に感じられてならなかった。
イリアです(⋈◍>◡<◍)。✧♡
GWも終わり、現代の世の中では、また仕事に追われる毎日……いかがお過ごしでしょうか(;^_^A
無人政府とロボットたちが働く私たちの未来では、お仕事は全てロボットたちが担ってくれていますので学生生活を終えると私たちは年金生活となります。
まるで遊び惚けているみたいに思われるでしょうが、実は違います。
先ず学生生活ですが、一定の基準を満たさなければ卒業することも中退することも許されません。
もちろん管理されているので逃げ出すことも。
その一定の基準のうち最も重要な物が「社会への適合」「モラル」「思考能力」です。
「思考能力」は学業とは違い、物事を正しく考えてプランを立てられる能力で、たとえば高い山に登る時には登山靴はもちろんですが雨合羽や携帯食や飲み物、体温を維持するためのアルミ毛布や携帯電話、それに単独で行かない事や連絡網など万一の遭難に備える能力が考えられるかどうか。
結構上記の3点を確り身に着けるのは、大変な人にとっては学業よりも大変みたいです(;^_^A
あっ、私は育ちが良いので全然大丈夫でしたよ。むしろ学業の方が(;^ω^)
さて来週のサ〇エさん……いえ、Be careful !! は、【推理(inference)】をお送りします。
大変な事件がありましたが、今回の事件は全てロボットたちに任せっきりにはできないような気がします。
いったい私たちは、どうなるの??
来週もまた読みに来てくださいね(^▽^)/