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再会に次ぐ再会 中

「シエスタの娘、少し付き合え」


 そう言ってジェラルドは歩き出した。


「何ですか廃嫡亡命王子」


「…………シノン。これでいいだろ」


「分かれば良いんです。ジェラルド……さん」


 シノンもその後を追った。リベスも黙ってシノンについて歩く。


「俺のことはジェラルド様でいい」


「廃嫡亡命王子様」


「…………冗談だ。ジェラルドでいい」


「分かれば良いんです」


 満足気に頷くシノンにジェラルドはまた溜め息を吐きたくなった。


「気味が悪いと思わないか?」


 突然のジェラルドの問いかけにシノンは答えられなかった。

 そもそもこの地にたどり着いたばかりのシノンには、どこが気味が悪いのか分からない。


「お前も会っただろう? あの人形みたいな案内人を」


 紺色の短い髪の少女、ラムリのことだろう。確かに彼女は常に笑顔だった気がする。

 でもそれがなんだというのだ。この国を訪れた旅人……もしくは指名手配犯、亡命王子を笑顔を作って案内してくれただけではないか。

 寧ろ立派な接客であると言える。


 人の笑顔を一々疑うなんて、ほんの少し会わない内になんて重度の人間不信に…!

 メインストーリーで聖女に叩き直されたはずの人を信じる心はどこに行ったのか。

 とはいえ……ジェードはジェラルドの弟だったはず。十数年も一緒に生きてきた筈の人物に裏切られたらここまで人間不信になるのも無理はないわね。


「何故お前が同情的な視線を向けるのか分からないが。……とにかくここの連中は皆そうだ。いついかなる時も笑みを絶やさない」


「良いことに聞こえますが」


 キャハハハハ、と陽気な笑い声を上げる3人の子供がジェラルドとシノンの間を横切って走り抜ける。


「だろうな。この国は、殆どの者が漠然に思っている良い国の理想を完全に満たしている。昼は活気があり子供たちが駆け回っていて、大人は活発に労働に従事している」


 ジェラルドに連れられてシノンは坂道を上ると、どうやらここは建築途中の家々が並んでいるようだった。

 袖をたくし上げた男たちが建材を運び新しい家屋を建てている。それを隣の家の屋根から見下ろす監督人が盛んに指示を出していた。四角く切り出された石を持ち上げ、重ねる掛け声。いいやそこじゃない、と競うように張り上げられる声。

 それがこれだけ集まっていればいい加減喧騒にもなるというものである。


「ここ数日、近辺の地域は雨が降っていただろう?」


「そういえば……」


 それが理由でシノンは図書館に雨宿りをしていたのだった。


「このシニスルイナムの地では昨晩まで土砂降りだった」


「シニスルイナム?」


「今は『幸せの国』だとかふざけた名がついているがな。知らないのならよく覚えておけ、この地は神話の時代よりアルシネゴの国土。正統なる名をシニスルイナムという」


 気づけばかなり歩いてしまったようだ。いつの間にかシノンたちは『幸せの国』、つまり谷底を一望できる高台に立っていた。そこはちょっとした展望台のようになっていて、シノンは柵から身を乗り出して眼下を眺めてみる。

 歪みのない円状の街を豆のように小さい人々が所狭しと歩いていた。ちょうど中心にある城には『幸せの国』の王様が住んでいるのだろうか。谷から次第に見えなくっていく太陽は、まるで山の稜線に沈みかけた陽のようだ。

 谷の中にこんな見晴らしの良い場所があるだなんて!

 シノンは脳内散歩コースメモに書き加えた。新しい自宅からの行き方はさっぱり頭に入らなかったが。


「俺は昨日もこの景色を見た」


「土砂降りの中で、ですか?」


 シノンははっとした顔でジェラルドを振り返った。

 ジェラルドはそうだ、と重々しく頷く。


「ここまで言えば分かっただろう、この特異さが」


「ええ、私も普通じゃないと思います――土砂降りの中でこんな高台に行くだなんて」


「人にはそういうときもあるんだそっとしておいてくれ。……俺が言いたかったのは、ここの住人たちはこの風景を演出するために命令されているのではないか? ということだ」




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