再会に次ぐ再会 上
麗らかな昼下がり、目を疑う光景がそこにあった。だが見紛うはずはない。ジェラルドの容姿は幼少期から、いや、スチルの時から目に焼き付いているのだ。
アルシネゴ一蒼銀が似合う男がそこにいた。
「ジェラルド殿下…どうしてここに?」
ジェラルドはシノンが殿下と呼ぶと露骨に顔を顰めた。
「やめろ。俺はもう王族ではない」
「え……?」
「お前はまだ知らなかったのか。……俺はジェードに王位を簒奪された。ただ極刑を待つばかりだった俺だが、何故か秘密裏に逃がされてここにいる」
ジェラルドは苦虫を嚙み潰したような顔で灰の降り積もった地面を睨んでいた。
ジェードがそんなことをするなんて。人は見た目とパーソナルストーリーには依らないものね。
「どうしてこんなことになったんだろうな」
そう言って重いため息を1つ吐き出す彼を、シノンの後から現れたリベスは不思議そうに見た。
「誰だ? シノンの知り合いか?」
「知り合いと言えば知り合いね」
アレがあった後でお前はそう言えるのか……、と微妙な顔を浮かべるジェラルド。
「俺はただのジェラルドだ、お前は?」
ただの、には自嘲が込められているような気がした。
「僕はリベスだ。よろしくタダノジェラルド」
「オイ。 …………………………………………………………………………………………………まぁいいだろう」
「随分と間があったな」
「そういえば黒髪の男はどうしたんだ。お前と一緒に居たはずだろう」
「アスターのことなら、もう出て行きましたよ」
「出て行った? それでお前はそのリベスという男と2人か?」
「そうだけれど…?」
その現状確認は必要?
「なんて女だ。よくここまで五体満足で生きていられたことだ」
まさかそんな言葉を掛けられるなんて思わなかった。
もしかして私はジェラルドに感心されているのかもしれない。
つまり、よくそんな少人数でこんなところまで逃げ延びたな、と言われているに違いない。
私を処刑しようとしてきたので正直あまり好きではなかったが、ジェラルドもリベスのように案外悪い奴ではないのかもしれない。
いや、悪い奴ではないことは知っていたのだ。前世でこの乙女ゲーをプレイしていた時から。そうでなくてはゲームのメインヒーローなどできはしない。
「リベスだけでなく、色々な人に助けて頂きましたから」
学園を飛び出して、アウラやリスラ、他にもたくさんの人と出会った。たくさんの人に助けられてここまでたどり着いたから。
「悪くない旅路でした」
シノンは、笑顔でいられる。
逃げ延びた先で、もう会うこともないと思っていた人物に会った。代々続く忌まわしくも美しいプラチナブロンドの一族。
「シノン・シエスタ」
「ジェラルド殿下…どうしてここに?」
未だに殿下と呼ぶシエスタの娘は数日前の大事件を知らないようだった。
「俺はジェードに王位を簒奪された。ただ極刑を待つばかりだった俺だが、何故か秘密裏に逃がされてここにいる」
事実を語れば己が不甲斐ないばかりだ。ジェードにまんまと王位を奪取されたばかりか、明らかにあいつの息のかかった者に連れ出され俺はまだ生きている。
情けのつもりか、次の謀略のためなのか……。
「どうしてこんなことになったんだろうな」
彼女の無事さえ分からない。怪我を負わされていたり、閉じ込められてはいないだろうか。
考えれば考えるほど陰鬱になる。
「誰だ? シノンの知り合いか?」
そこで知らない声がかかった。聞けばリベスという男だという。
そういえば学園から逃れて見せた際にも男がいたような……。だがあの黒髪の男とは髪を染めたとしても似ても似つかない。
「黒髪の男はどうしたんだ。お前と一緒に居たはずだろう」
「アスターのことなら、もう出て行きましたよ」
シエスタの娘はなんてことないように答えた。あの日シエスタの娘の彼氏だとのたまった黒髪の名はアスターというらしい。
「出て行った? それでお前はそのリベスという男と2人か?」
つまりあのアスターという男から、このリベスという男に乗り換えたということか?
「そうだけれど…?」
共に指名手配犯になるほどの駆け落ちを演じて見せて、捨てたことに何の罪悪感もないと。なんて冷たい女だ。
「なんて女だ。よくここまで五体満足で生きていられたことだ」
むしろ俺はこの女がここまで男を利用し捨ててきた上で、一度も刺されていないことを感心してやるべきなのかもしれない。
「リベスだけでなく、色々な人に助けて頂きましたから」
ああ、そうだろうな。
まるで開き直っているかのような、自信に満ちた声だった。
「悪くない旅路でした」
シエスタの娘はそう言って微笑む。人を虜にして利用しその隠した毒牙で破滅へ導く、魔性に満ちて、しかしどうしようもなく魅力的な笑みに思えた。




