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閑話 1番 下

 お互いを助け合っている美しい関係。謁見の間に行くついでに彼らを揶揄ってみてそう思った。ボクという異物を放り込まれながらも、それでも任務のためにと2人で協力し合う姿。そんなものが見られると期待していたのに。

 そしてそれを滅茶苦茶にして、崩壊とはいかないまでも任務を進めながら彼らを壊していく、そんなことができたならどれほど楽しいだろうか、と考えていた時期がボクにもありました。


 あの出会いから2週間後、白詰草が生い茂る綺麗な野原で。


「1番はこれからどう呼べばいいですかねー」


「そのまま1番でいいんじゃないかな」


 ヤムナは満開の花が咲いている茎を引き抜いて花冠を作っている。

 任務中なんだけど…そういうのは休暇中にやってくれない?


「0を足してレイイチとかどうです?結構かっこいいと思います」


「なぁなぁなぁヤムナ!ここら辺、モグラが沢山いんの!ヤムナもモグラ狩りしようぜ!」


 駆け戻って来るニナ。その両手には数匹のモグラが抱えられている。そして彼はヤムナの隣に1番がいることに気づいて、


「あ、モグラ食う?」


 モグラを差し出した。


「……エ?食わないよ」


 モグラは受取拒否された。


「ハァーーー…………」


 モグラ狩りしようぜ 、ヤムナ はそんなに子供じゃないですよ、という会話が聞こえる中で、1番は深い溜息をついた。何だか頭が痛い気さえしてくる。

 この1番以外バカの世界では、真面目にやろうとしている1番の方が異物なのだ。


 目を閉じて目頭を抑える1番に異常を感じ取ったニナとヤムナはコソコソと声を潜める。


「あいつ何やってんだ?変なもんでも食ったか?やっぱりモグラ――」


「違いますよ、これはアレですね!J君に聞いたことがあります!既に関係ができているグループに、何の関わりもなかった人が1人放り込まれると疎外感や異物感を感じて、少し離れたところで溜息を吐き続ける何とも悲しい人になってしまうと!」


 黙ってくれないかなぁ。それともボクには聞こえてないとでも思っているのか。


「つまり……どういうことだ?」


 その解説で理解できないニナに、さらにヤムナは要約を述べる。


「つまりですね!レイイチさんのようにコミュニケーション能力に欠点があり、誰とも親しく話せない人は、いつまで経っても新しい環境に馴染めない1人ぼっち。ということです!」


 黙れ。


 1番は込められる限りの眼力を込めて、ニナとヤムナを睨む。声はできる限りおどろおどろしく、低い声で。


「ネェ、お願いだからさ、これ以上ボクの足を引っ張ることだけはしないで欲しいんだ」


 この後になって1番が思うことは、こんな爆弾を2つも抱えて部隊として成り立たせていた26番は凄かったのだな、ということだった。

 1番の睨みに怯んでいた2人はその間にすっかり調子を取り戻し、下らないお喋りを再開している。


「1番はレイイチっていうやつみたいに残念で可哀想なやつってことだな!っでもレイイチって誰だよ」


「1番をこれからレイイチさんと呼ぶことにしたんですよ!ニナもそう呼んでください!」


 アァ置いていきたい。

 いつもならそれで良いが、今回だけはそうもいかなかった。真の敵は無能な味方と言うが、正にそうだ。付け足せば放り捨てることもできない味方だろう。

 …事故に見せかけて殺してしまおうか。だがそれをすれば彼らを気に入っているジェードの心象を間違いなく悪くする。第一、ボクに命じられた任の中には彼らを守ることも含まれているのだから。命令無視を躊躇っているわけじゃないが、ただ今回は大人しく言うことを聞かなければならない必要があるのだ。


「ハァ…………」


 ジェードに足元を見られて無理難題を押し付けられた現状に、レイイチは黄金の瞳を閉じて再度深いため息をついた。


 ボクにはこのまま失敗で終わるわけにはいかないから。

そして彼らは任務を進めようとしない。つまり、ボクが頑張るしかない。


「…貴方がもしどこかで見ているなら、ボクの健気に胸を打たれていてほしいよ」


 誰に向けたわけでもない言葉を呟いて、深呼吸を1つした。


「それちょっと貰うよ」


「え?」


 ヤムナが握っていた白詰草の茎を1本奪うと、手入れをしていない黒髪を後ろで結った。

 そうなると不思議なことに、不気味だと感じていた顔が、頬に宝石を縫い付ける奇妙で爽やかな好青年という雰囲気を醸し出すのだ。


「次の町に着いたらちゃんとした髪紐を買うとして……ニナ、ヤムナ、そろそろ出発するよ。ホラ花冠とモグラは置いていきなさい」


 様変わりした明るい声にニナとヤムナは驚きを隠せない。


「だ、誰だよお前!」


「そういうのは触れちゃ駄目ですよ!折角自分の性格を偽ってまでレイイチさんがヤムナたちに歩み寄ってくれたのに」


「ヤムナ、ちょっと黙ってみようか。そうじゃないとボクは君の口が2度と開けない身体にしてしまうかもしれない」


 声は明るいが目は笑っていない。それどころか澱んだ瞳に怒りが渦巻いている。


「あ、やっぱ1番…レイイチだったわ」


「言い直さなくて良かったんだよ?」


 ともあれ、新生レイイチ班はシノンの保護の為に動き出した。




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