別れの花束
「カメリアならもう来ているわよ。人が多いから恥ずかしくて出てこれないんじゃないかしら?」
シノンがそう言うと竜は恨めし気な視線を送った。
だがシノンは竜の「私のことは決してあの子には言わないでくれ」という願いを無視したわけではない。カメリアが竜であることを言ったわけではないのだから。
「カメリア…そこにいるの?」
そうリスラに尋ねられた竜は、シノンを責める視線を送ったり、困った顔をしたり、表情豊かに百面相をした。
「カメリア…」
切なげな声が聞こえる。竜はようやっと決意を固めたのか、
「リスラよ、隠れていてすまない」
と声をかけた。その一言で彼女はすっかり明るくなる。
「カメリア…!!」
ふふ、と小さな笑い声さえ聞こえてきた。
「カメリアが人見知りだなんて、初めて知ったわ。そういえばあなたがここに来るようになってから、訪ねてくる人なんていなかったわね」
「そういうわけではない…」
最後に、知れて良かった。リスラが誰にも聞こえない程小さな声でそう呟いた。
「そういえば皆さんはカメリアの姿が見えるのですよね?カメリアはどんな顔をしていますか?ずっと知りたいと思っていたの!」
長年の謎だったのだろう、リスラはシノンたちが出会ってから1番楽しそうにしていた。だがこの場ではしゃいでいる人物はリスラだけである。
本人は知る由もないが。
答えづらい質問が来たわね……。
シノンは思わず身を固くする。彼が人ではなくて竜であることを言ってはいけない。だからと言って、例えば「カメリアは超ハンサムかしら!」なんて全くの嘘を吐いてしまうのも気が引ける。
いやもしかしたらカメリアは竜界の中ではもしかしたらハンサムの部類に入るのかもしれない。だとしたらあながち間違ってはいないのではないか。そもそも竜界なんてものがあるかは知らないが。
「ちょっと待って」
シノンは緊張した面持ちの竜をしげしげと見つめた。リベスも竜をシノンと同じように真剣に凝視していた。
爬虫類独特の大きな瞳、人間よりも何倍も大きな顔、その隅々まで鱗が隙間なく生えている。その鱗は黄土色で黙っていればまるで立派な彫刻だ。そして口からは尖った歯が何本も外に突き出していた。
爬虫類には爬虫類独特の美しさがあるのだと思う。シノンはそう結論づけた。
「まぁ、カメリアはかっこいい顔をしているんじゃないかしら?」
「シノン?」
リベスが、何を言っているのか意味が分からないという顔でシノンを見る。一方竜は満更でもなさそうだった。
まだ体調が悪いんじゃないのか、リベスはそう思った。
「どのような風にかっこいいのか、もう少し詳しく!」
子供のようにはしゃぐリスラの無邪気な追及にリベスとシノンは表情を青くさせた。
「ええと…それはあれだ。目が大きくて…顔も大きくて…身体が黄土色で…歯がとがっている。そんな感じだ」
リベスの説明を聞いていくうちに、今度はリスラの顔が青ざめていった。
「あの、それは何か重い病気を患っていたり…?」
もう1度リベスが竜を見やる。
「健康そのものだな」
「えぇ…?」
「でも彼はとてもお茶目よ!!」
「は、ハイ、そうですね?」
リスラはまるで何かを隠すかのように大声を出すシノンの勢いに若干引いていた。
「大事なことは外見ではなく中身だと思わない?彼はすごくお茶目なの!!」
「それはもう聞きました……」
リスラはじわじわと壁際に逃げる。リスラには分からないことだが、シノンの肌は若干赤く瞳は潤んでいた。
「そしてアホ!!」
「本人の前で堂々と悪口を言うなんて、豪胆な子なものだな」
シノンは目線を竜からはまって動けない壁に移した。それを悟った竜は口を閉ざした。
「でも今日はカメリアが来てくれて良かった。伝えたいことがあるの」
リスラは姿勢を正し花束を持ち直した。空は既に大分暗くなっている。
こちらへ歩いてくる足音が微かに聞こえる。とても大柄な人物が歩いてくるような、低く恐ろしさを感じされる音。
静まった部屋ではリスラの声が響く。
「今までそばにいてくれてありがとう。お礼にこの花束を受け取って!」
リスラがカメリアに椿の花束を差し出す。だが竜は動かない。否、動けないのだ。
「……?」
いつまで経っても花束を受け取って貰えないリスラが不思議な顔をする。
ええい、ままよ!
投げやりになった竜は壁に穴をあけて尾を部屋に入れた。
「何っ?何が起きたの?」
壁に穴が開いたときに出た轟音にリスラはわけも分からず身を固くした。
「えっと、竜……あっ」
シノンは慌てて口を押える。
だが言ってしまったものはもう遅い。それはしっかりとリスラが聞き取ってしまったのだから。
「竜……」




