図書館と運命を共にする竜
「首が抜けなくなってしまった」
「は?」
リベスの冷たい視線をものともせずに、竜はあの時に身を乗り出したのがいけなかった、などと冷静に過去を振り返っていた。
「へぇ、壁に挟まって動けないなんて随分と間抜けだね」
未だに竜が青い怪物に見えているアスターはじりじりと近づいている。
「どうにもならないのか」
「難しいな。強引に引き抜くことはできる。だがそうすれば辛うじて残っているこの部屋もたちまち崩れてしまうだろう。この場所を壊してしまうくらいなら、私は大人しく壁の一部となってこの部屋と運命を共にするさ」
竜はまるですべてを悟ったかのような、やけに澄んだ瞳をしていた。リベスはそれにいたって冷静にツッコミを入れる。
「いやあんただけが消されようとしてるんだが」
あと少しでアスターの手が竜の鼻先に触れる。
こうなっては仕方ない。
リベスはアスターを蹴り飛ばした。
顔面にリベスの回し蹴りがクリーンヒットしたアスターは勢いよく飛んで、アスターが組み上げていた本のオブジェに衝突した。
「痛っ……ってあれ、青い怪物は?」
アスターは青い怪物を探すように周囲を見回した。
「やっと正気に戻ったか」
リベスは深い深いため息をついた。
それを聞いてアスターは口をへの字に曲げた。
「俺はいつでも正気だよ」
「分かった、もうそれでいい」
リベスはもう1度、深い深いため息をついた。
気が付けば東の空が白んでいた。
ここ最近、徹夜をしてばかりだ。
シノンは眠い目を擦る。
「この体調だと、私たちは外を動き回ることはできなさそうね。怪物退治はリベス1人に任せることになるけどいいかしら?……クシュン」
「ああ、近場の湖に落とせばいいんだろう?問題ない」
リベスは頷く。彼にとってはここで風邪を引き前後不覚になっているアスター、シノンを相手するより、その青い怪物とやらを相手取った方が簡単に思えた。
「感謝する」
竜が目を細めた。
「…もう一つ言っておかなくてはならないことがあるのだが、私のことは決してあの子には言わないでくれ」
「「「え」」」
「いやいやいや、それはちょっと無理なんじゃない?だってほら、こんなに突き出してるわけだし」
頭が。と即座にアスターは竜の突き出た頭を指さして否定する。シノンもリベスもその通りだと言うように頷いた。
シノンたちが雨宿りしている部屋は大部屋とは言え、大分狭い。そもそも大人数でくつろぐための部屋ではないのだ。本が目一杯詰め込まれているうえに3人が雨宿りのために居座っている。
そこにリスラが来るのだ。頭を突き出した竜をごまかせるほどのスペースはもうなかった。
「目が見えないからと言って、ぶつかったらさすがに気づくだろうし……」
「そこをどうにかしてくれないか。どうしてもバレるわけにはいかないのだ」
そこから、シノンたちの長い戦いが始まった。
「やはりどうにかして抜いた方が良いんじゃないか」
「そうは言ってもね…」
リベスとシノンが考え込む。
「あ、シノンの魔法で何か竜を滑りやすくするものを作るっていうのは?」
アスターが1つ提案する。シノンにはこの案が現実的なように思えた。
「やってみましょう」
シノンはふらつく足で立ち上がって腕をまくった。




