昔話
「『目的が同じことだと確認した彼らは、連れ立って行動するようになりました。彼らが初めて訪れた町は――イニティウム』というのよ」
鈴の鳴るような声で、その女性は染みになって読めない箇所を暗唱してみせた。
ライラックの髪を1つに束ねた彼女は、この穏やかな空気が流れる図書館で微笑んだ。
「初めまして。私はリスラと言います」
用心棒としての役割を思い出したリベスが慌ててリスラと名乗る少女とシノンの間に立つ。
「何の用だ?」
リベスはリスラを睨んだ。
だがリスラは物怖じしなかった。彼女はただ申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったの。ただ久しぶりに誰かの声が聞こえたから、つい」
「貴方はどうしてここに?」
シノンが追及する。
「毎日通っているんです。昔、友達とここでよく遊んでいたものだから」
リスラは部屋を一直線に進み腰を下ろした。そこはシノンが座っている場所と同じ、雨漏りもしていなければ吹き込む風も当たらない場所だった。
彼女はずっと目を閉じていた。
「もし良かったら…昔話を聞いてくれませんか」
――昔々、あるところに……いえこの図書館に2人の幼い子供がおりました。
その2人は全く対照的で、1人は何も考えずに野を駆け回る奔放な女の子、そしてもう1人は本を読むのが大好きで何事知り尽くさなければ手を出すことができない臆病な女の子でした。
そんな2人が出会ったのは良く晴れた正午のことです。
冒険好きの女の子が、隣の町からこの図書館に探検に来たのです。本を読むのが大好きな女の子は毎日ここで本を読んいたので、鉢合わせしてしまったのです。
「何をしてるの?」
と、訪れた女の子が聞くと、本を読んでいた女の子が、
「本を読んでる」
と、答えました。
当然のことです。
「じゃあ何の本読んでるの?」
と聞くと、
「神話」
と答えました。
それから冒険好きの女の子は毎日図書館に来るようになりました。
ですが本好きの女の子はそれが嫌でした。
彼女はここへ来る度にひっきりなしに質問するのですから。
そんなある日、冒険好きの女の子はまた図書館に来ました。今度はお土産を携えて。
「見て!綺麗なキノコを見つけたの!」
毒キノコだ、とそれを見た物知りの女の子はすぐに気づきました。そして急いでキノコを叩き落とします。
「触らないで!このキノコには毒がある!」
本好きの女の子は長い説教を始めました。どうして知りもしないものを触るのかと、死にたいのかと。
もちろん、冒険好きの女の子は死にたいわけではありません。でも、彼女の説教を受けても探検が危険なことだとは思えなかったのです。冒険好きの女の子は無頓着過ぎる一方で、本好きの女の子はいつも手袋をつけて知っているもの以外は触らない。という潔癖過ぎる一面がありましたから。
その後、彼女は図書館に来る度に土産を持ってくるようになりました。
彼女はどの草やキノコが毒なのかを知りません。本好きの女の子とは違って、図書館に来ても本を読もうとはしませんでしたから。
時々紛れ込む毒草を冒険好きの女の子から取り上げ続けていた本好きの女の子は、ついに彼女の探検に付き合うことを決めました。
本好きの女の子は冒険好きの女の子が自分を連れ出すために、わざと毒草を持ってきていたことを知っていましたが、それからは毎日彼女について行って植物の知識を教えていました。
でもそんな日々は長くは続きませんでした。
熊もどんな野生動物も、魔法が使えれば怖くない。冒険好きの女の子はその年で魔法を使えていたので、本好きの女の子を連れてどんどん町から離れた森に入っていきました。
そこで彼女たちは見たのです。
森の中でふらつく人物を。その人は土に汚れたボロ布の様な服を着て、手入れをしていない癖のある長髪の持ち主でした。
「こんな山奥に何しに来たんだろう。ねぇ!何してるのー!」
恐れを知らない冒険好きの女の子が呼びかけその人物に近寄ります。本好きの女の子も彼女を止めるために追いかけました。
「ちょっと待って、この人もしかしたら――」
言いかけて発せられたのは別の言葉でした。
「危ない!!」
本好きの女の子は冒険好きの女の子を押し飛ばします。ボロ布を被った人物が腕を振り降ろしたのです。
冒険好きの女の子に当たるはずだった、振り降ろされた腕は本好きの女の子の背に当たりました。
地面に叩きつけられた本好きの女の子は地面に伸びています。その襲ってきた人物は動けない彼女の首を持ち上げて口を大きく開けました。
そこでやっと冒険好きの女の子は気づいたのです。この人物が人工生物であると。
冒険好きの女の子は本好きの女の子を抱えて図書館へと駆け戻ります。冒険好きの女の子はあの人工生物から彼女を取り返すことに成功したのです。
でも無傷というわけではありません。図書館に着いたとき、冒険好きの女の子は満身創痍。本好きの女の子にいたっては両足がありませんでした。
「ごめん。私のせいで…両足が」
冒険好きの女の子は謝ります。
「なくなってしまったものは仕方がない……足だったのは、むしろ幸運。手があれば本の頁をめくれるから。自分で本を棚から取る事はできなくなるけど……」
そのくらいは手伝ってくれるでしょ?と、本好きの女の子は脂汗を垂らしながら笑いかけます。
「……ごめん」
しかし彼女は断りました。
「2つ隣の町の外れに、人の願いを叶える魔法を使える人がいるんだよね?」
それは本好きの女の子が先日語って聞かせた噂話でした。
「行って、足を治して貰ってくる」
それを聞いて本好きの女の子は血相を変えました。
「そんな話、本当にあるわけない!」
「でも本当に何も無かったらこんな噂立たないと思わない?」
冒険好きの女の子は本好きの女の子を置いて、出口に向かいます。
「お願いだから待って!」
本好きの女の子の制止の言葉も聞かずに、冒険好きの女の子は部屋の外に出ました。
彼女は最後に振り返って笑顔を作ります。
「絶対に足を元に戻してみせるから!期待して待っててね」
そうして冒険好きの女の子は走り去ってしまったのでした。




