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閑話 地下珍道中

 地下通路は、シノンが思っていたよりも長く、そして整備されていた。

 床は平たい石が敷き詰められており歩きやすく、道幅は3人が横並びになれるほど広かった。大変な労力を用いて建設したことは明らかだ。

 そんな道が人に知られていないことがシノンには不思議でならなかった。


「別れ道だ」


 アスターが言う通り、道が2つに分岐していた。一方はこのまま真っ直ぐ進む道、もう一方はこの道から垂直に右に折れ曲がっていた。


「どっちに進むんだ」


 リベスがシノンを見やる。

 リベスはシノンの決定を待っているが、シノンもどちらを選ぶべきかなど分かるはずもなかった。


「えーと、ここは右ね!」


 何の根拠もなくシノンは右の道を指さす。


「……適当で言ってるでしょ。なるべく遠くの場所に行きたいならここは真っ直ぐ進んだ方がいいよ」


「アスターは適当じゃないって言うの?」


「勿論。俺は昔この道を通ったことがあるから」


「王都にいる前はここら辺に住んでたってこと?」


「そう、イズール村にね」


「それならもっと早く言ってくれたら良かったのに!知り合いに会いに行っても良かったのよ?」


「どっちにしろ知り合いは皆引っ越していたみたいだよ」


「そう、引っ越し先を教えてもらえなかったのね……」


「憐れんだ視線を向けないでくれる?」


 会話も切れてまた彼らは無言で歩き出す。

 1刻、2刻と刻々と時は経つが風景は代り映えしない。

 シノンの左右を歩くアスターとリベスはアウラと別れた時から変わらない歩調で淡々と歩いているが、温室育ちのシノンはそろそろ限界が近づきつつあった。


「アスター、さすがにもうそろそろ、出口、よね?」


 息も絶え絶えにシノンは僅かな希望にかけた。

 しかし帰ってきた言葉は絶望的なものだった。


「そうだねぇ……あと5分の4ってところかな」


「5分の4……?」


 その言葉に目の前が真っ暗になる気さえした。

 とてもじゃないがそんなに歩けない。歩けないが、いかに体力があるからと言ってアスターやリベスにまたおぶってもらうのもどうだろう。リベスはきっと嫌な顔をしないでおぶってくれるだろう。だがそれだと移動の度に誰かにおぶってもらうのことになってしまう。

 生きること全力を費やしているシノンといえど、それを少し恥ずかしいと思える羞恥心は残っていた。


 現代だったら自転車で楽に移動できるのに……

 中世にありもしない乗り物の名前を思い出して、余計に現実を辛く感じる。

 いや、だけどもしかしたら作れるかもしれない。私の物質生成なら!

 唐突にシノンは右手を前に突き出した。手の平から幾何学的な模様を描いて鉄が生成される。鉄は本体を形作り、タイヤの部分にはゴムを。シノンはマウンテンバイクを見たことがない。ゴムはハンドルの前にも伸びてママチャリのカゴを作った。そして最後に痛いシールが張り付けば、あっという間に過去の愛車の完成だ。


 始終をきょとんとした顔で見ていたアスターは、何それ?と自転車を指さした。


「自転車よ。歩かなくても移動できる乗り物」


「ジテンシャ?」


 リベスが興味深そうに観察する。

 だがアスターには自転車がとても奇妙なものに見えたらしい。


「新手の見世物かい?」


「ちゃんと実用的なものよ、見てなさい」


 シノンはスカートの裾をたくし上げると、自転車に跨り漕いで見せた。

 スーと自転車が進む。


 それを追いかけて、アスター、リベスが走った。

 シノンに簡単に追いついたアスターが面白そうに言う。当然ながら息は切れていない。


「その乗り物、変だけど早いね。俺も後で乗せてよ!」


「構わないわよ」


「乗り物を使うなら、僕たちがおぶって走った方が速かったんじゃないか?」


「俺を早く走る乗り物扱いしないで」


「もう移動で2人を頼ることはしないから安心なさい。これからは元愛車がいるもの!1人で走り切って見せるわ!!」


 自信満々にママチャリを飛ばすシノンにアスターとリベスが並走した。




 3時間後。


「ねぇ…………あと…どれくらい?」


 再び息を切らして自転車を漕ぐシノンの姿があった。その隣には疲れなど全く見せないアスターとリベスが歩いている。


「あと5分の1ぐらいじゃないかな?もう少しだよ」


 5分の1。つまりこの3時間で5分の3という計算だ。残りの5分の1を走りきるには少なくとも1時間半は走り続ける必要がある。

 それを聞くとシノンは無言で自転車から降り、愛車を道の端に投棄した。


「誰か、このか弱い令嬢を出口まで運んでくれないかしら……?」


 アスターは吹き出し、リベスは任せろと頷いた。





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