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冤罪アスター

 その後、宿屋の女性は男性の方へ向かってしまった。彼らを救うためにも早くアスターを止めて、イズール村の住民たちの前に突き出さなければならない。

 ぎこちなく歩くリベスを連れて、シノンは山林に入った。

 しばらく歩くと辺りから血の生臭い臭いが漂う。一歩足を踏み出すと、チャプと水溜まりを踏んだかのような音が聞こえる。足元を見れば、血を含んで真っ赤にぬかるんだ地面と数えきれないほどの動物の亡骸が転がっていた。抉り取られた動物たちの眼の窪みが、シノンは自らを睨んでいるように感じられた。


「ここは今朝私たちが山菜を摘みに来た場所よね」


「確かそうだったはずだ」


 今朝の状態とは様変わりした山に、シノンはせりあがる吐き気を押さえて、より臭気の強い方角へ進んだ。



 日は傾き、穏やかな赤い光に照らされながら赤黒い地を進む。

 少し木々が開けた場所に、探し人は居た。黒髪に白いローブを纏った男がこちらに向かっていた。紛れもなくアスターである。ただし、白く上品な刺繍が入ったローブは見る影もないほど血で赤黒く染まっていた。

 アスターはシノンを見つけると、


「なんだ、シノンも山にいたんだ」


 と言って笑いかけた。今の彼の顔にはべったりと(自分でつけた)返り血がついている。シノンとリベスには動物の死骸の山に囲まれるアスターの笑顔がひどく狂気的なものに見えた。アスターは尚も続けた。


「宿まで行く手間が省けたよ」


 それを聞いたリベスはシノンの前に進み出て庇おうとした。シノンも戦えないなりに戦闘態勢といった様子である。一方わけが分からないのはアスターだ。


「…………何してんの?」


「兄弟、惚けるのはよくない」


 リベスが追及する。


「何が??」


 だが生憎とアスターにはシノンとリベスに感謝はされても、このような態度を取られる謂れはなかった。


「言っても無駄よ。数日の付き合いだけれど、アスターはきっと罪の意識を何一つ感じていないのよ」


「事の発端はまるで分らないけど、シノンが俺のことを最低な奴だと思ってることは分かったよ」


「そうね、罪の意識を芽生えさせるには物事をきちんと理解することから始めるべきだと思うわ。まず貴方が貴方自身をクズで最低な人物だと正しく認識すること」


「俺はクズだった…?」


「ええ。倫理観がまるでないし」


「そう」


「サボり癖があるし」


「うん」


「おまけに欲張り」


「へぇ」


人工生物(ディミズ)


「それは仕方ない」


「動物を虐殺する」


「それはやってない」


「虚言癖」


「嘘じゃないって」


「この惨状を作り出した犯人は白いコートを赤く染めた人物なのだそうよ。言い逃れはできないわ。とにかく、こんなことはやめてすぐに宿に行って。このままだと宿の夫妻とアウラが冤罪で殺されてしまうわ」


「俺が今まさに冤罪で殺されそうなんだけど!?」


「もし本当にやっていないのだとしたらその血はどうした?今朝は何をしていたんだ?」


 その質問に待ってましたとばかりにアスターは答えた。


「今朝、仕事が始まるまで山を散策していようと思ってね。そしたら偶然俺たちを追ってきた追手を見つけたんだ。激戦の末、辛くも勝利を収めてシノンに報告しようと宿に戻っている途中、シノンに会ったというわけさ」


「その血は戦いで付いたものなのか?僕にはまるで血だまりに浸したかのように見えるが」


「…カンチガイジャナイカナ」


「嘘っぽい……」


 シノンがジトっとアスターを睨む。その件に関しては真実なのでアスターは目を逸らすばかりだ。


「あ、これはどうかな。今から俺たちがこの事件の真犯人を探すっていうのは。アウラも俺も助かる名案でしょ?」


「真犯人がいなかったら永遠に見つからないじゃない」


 ……こういうときは鋭いなシノンは。

 アスターは言葉に詰まる。


「それならこういうのはどうかしら?」


 代案を出したのはシノンだった。


「アスターが犯人として住民に名乗りを挙げつつ、真犯人も探すっていうのは」


「それ捕まったら俺殺されるよね…?」


「頑張って逃げればいいんじゃないかしら」


「非情だ!」


「きっとできるわよ、アスターなら」


 お気楽にシノンが言う。



 どうしたものかと、思案しているとふわりと風に乗って強烈な血の香りがアスターの鼻を突いた。リベスも風上に顔を向けていた。シノンは突然2人が同じ方向を向いたので困惑しているという様子だったが。

 人工生物(ディミズ)は人間よりも数倍五感が鋭い、シノンが血の匂いを感じ取れなくても無理のない話だ。


「ほら、本当だっただろ?」


 ようやく弁明のチャンスが回ってきた。アスターは笑みを浮かべた。


「どうやらそのようだな」


「どういうこと?」


 シノンの問いにリベスが説明する。


「先ほど強い血の匂いがした。つまりアスターがここにいるにもかかわらず、動物を狩っている者がいるはずだ」


「アスターは本当に犯人じゃなかったってこと?」


「そうだよ。君からの謝罪の言葉は後で聞くとして、今は真犯人を捕まえに行こうか」


 アスターはシノン、リベスを連れ立って死骸が転がる山を進んだ。




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