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追手

 シノンに動物乱獲の容疑を掛けられているなど露知らず、アスターは手頃な木の幹に足をかけて樹上で寛いでいた。


「シノンもリベスも真面目だなぁ。俺には毎日働き続けるとか無理」


 とは言っても、シノンの用心棒枠をリベスに取られる訳にも行かない。

 はぁ、と1つため息をつくと起き上がった。


「明日から頑張ろうっと」


 樹上から降りようと下を見れば揃いの黒い制服をまとった3人組が歩いているのが見えた。






「なあニム。本当にこの道で合ってんのか?」


「ああ、この方角にシノン嬢とその恋人が屋根を伝って移動していたと報告があった。そして、その方角の先にあるのがここ、イズール村だ」


「それは良いですけどもうお昼ご飯にしましょうよー」


 夜明けからぶっ通しで走り続けてお腹空きました、とヤムナが訴えた。


「そうだな!ヤムナ何か作れよ」


「面倒くさいです!ニナが作って下さい」


「営舎に帰還するまで自炊は俺がやろう。お前たちに任せたらどんなゲテモノが出来上がるか――」


「ニムちょっと待て、ヤムナの料理はマジで美味いって野営訓練中評判だったんだぜ?」


 それを聞くとニムはニヤリと笑みを浮かべた。


「それなら今日の昼食はヤムナに作ってもらおうか」


「ニムまで…!ヤムナは絶対に作りませんからね!」


「こんなに露骨に嫌がるだなんて、本当は「作らない」じゃなくて「作れない」の間違いじゃないか?」


「安い挑発には乗りませんよ!」


 ヤムナは正しくニムの言葉を挑発として受け取ったが、それが理解できない者もいた。


「は?何で「作らない」が作れないって意味になんだよ?」


「ニナ……」


 ヤムナはニナに哀れみの視線を向けると、懇切丁寧に説明してやった。


「それはですね、あえて人が得意なこと、できることを今やって見せないことを理由に実は下手だ、できないと揶揄うことで相手のプライドを刺激するんですよ」


「んで刺激すると?」


「相手がそれを証明するためにやって見せてくれる、という訳です」


 まあヤムナはそんな幼稚な罠に引っかかるほど馬鹿じゃありませんけどね!、とヤムナは胸を張る。ニナはそれを聞いて得心したようだった。


「なるほどな!つまりお前はプライドがねぇんだな!!」


「はい??」


 ヤムナはニナの急な悪口とも取れる発言に暫し呆然とした。


「だってそうだろ?説明通りだと、ヤムナは自分の料理に全くプライドがないから、そんな挑発には乗らねぇってことなんだろ?」


「……………………いいえ、違いますよニナ」


 ヤムナは悟りを開いたかのように穏やかに微笑んでみせる。


「ヤムナは自分の料理に自信を持っているので、極めて!積極的に!昼食を作りまーす……」


「墓穴を掘ったな」


「黙って下さい」


 ヤムナはニナとニムを早足で追い抜かし距離をとった。


「ちょっと待ってくれないかい?」


 不意に背後から知らない声がかかった。慌てて3人が振り返ると、そこには白いローブの内に黒服を着込んだ黒髪の男がいた。アスターである。


「お前は…報告にあったシノン嬢の恋人だな」


 ニムがアスターを警戒しながら確認する。


「いや違うけど」


 ていうかシノンに恋人とかいたんだ、と驚くアスター。


「白々しい嘘だ。見た目が情報と全て合致している。言い逃れできると思うなよ」


「えぇー、そんなに俺がシノンの恋人に見える?」


 言い方はともかく、アスターは満更でもなさそうな様子だった。


「酷い言い方しなくてもいいじゃないですか。彼らはもう指名手配犯じゃ無いんですから」


「どういうこと?」


「昨晩、新国王陛下直々にこの審判は不当性があったとシノン嬢の指名手配をお取り下げなさったのだ」


「それで俺たちは行方不明になったシノンを保護しようと探してるってわけ」


「嬢を付けろ。貴族のご令嬢だぞ」


「 なるほどね。でもお前たちが素直に人探しをしているとは思えないな。それに、いつから国の味方になったんだ?」


「答える義理はないな。こちらの質問にだけ答えろ、シノン嬢の居場所は?」


「教えるのは無理だけど、連れて行くのなら良いよ」


「それは残念だ。悪いがお前は今ここで捕縛させてもらう」


 ニムがそう言うと、ニナとヤムナが驚いてニムを見た。


「何言ってんだよ、指名手配は取り消されたんだろ」


「ニムが間違えるなんて珍しいですね」


「これはシノン嬢の捜索とは別件だ。ヤムナ、軍規を言ってみろ」


「えーと、逃亡者は死刑、でしたっけ?」


「それも正しいが今回は、人工生物は見つけ次第捕獲、の方だな」


「あ、すっかり忘れてました!」


「そんな決まりあったか?」


 キョトンとするニナにニムが大きなため息をつく。


「もういい加減覚えてくれ。ニナ、今晩は軍規の朗読30回だ」


「えぇ?ダリぃー」


 その応酬をただ眺めていたアスターは面白そうに呟く。


「大変そうだね」


「捕らえた後の扱いは最低限保証する。投降する気はないか」


 ニムは腰に差した剣を抜くと、アスターに突きつけた。続いて、ニナとヤムナも同様に剣をアスターに突きつける。


「ないよ」


「そうか、では容赦はしない!」


 ニム、ニナ、ヤムナはそれぞれ別方向からアスターに斬りかかった。

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