幕間 王太子の破滅 中
この国を継ぐべきなのはどちらか。ジェードがそう言った途端、会場がにわかに騒がしくなった。父親の死で茫然自失していたジェラルドはようやく我に返り怒りをあらわにした。
「どちらが継ぐべきか、だと?そのようなことが、今、重要なことだと本気で思っているのか?」
「はい」
「そうか……」
ジェラルドは深いため息をつき、侮蔑を込めた持てる限りの眼力でジェードを睨みつけた。美しい顔を歪ませ、喉は地の底を這うような声を震わせる。
「失望したぞジェード。権力に溺れて父の死を悼むこともしないとは。お前を弟とは思わない、もう二度と顔を見せるな!」
「構いませんよ。それより早く決めてしまいましょう」
「ああ。とは言っても結論は決まり切っているだろう?王位は長子である俺が継ぐ。皆も異論はないな」
一時は騒がしかった会場も、今やすっかり落ち着きを取り戻していた。
「ジェラルド殿下、いえジェラルド陛下、御即位おめでとうございます」
来賓の誰かがそう告げると、皆がそれに倣った。ジェードの即位を望む者はただ一人を除いていなかった。
「ジェード、アルシネゴ国王として命じる、そこをどけ」
「いいえ、二つだけこの場にお集まりの皆様に聞いて頂きたいのです。国王を決めるのはどうかその後に!」
ジェードは自らホールの中心に躍り出て、声を高らかに張った。
「一つ目は、我が兄ジェラルドの犯した罪について!!」
罪という単語に再びダンスホールはざわついた。
「兄上、忘れたとは言わせません。昨晩の出来事です。兄上が在学していた学園で、一人の貴族の女学生を独断で処刑しようとしていたことを!その女学生は間一髪で逃げ出すことに成功したようなのですが、兄上はさらにアルシネゴの軍部を勝手に動かし彼女を指名手配したのです」
「だがそれだけのことをその女学生が殿下にしたのでは……」
遠巻きにジェラルドとジェードを眺める群衆からそんな囁きが漏れた。耳聡いジェードは即座に反論した。
「彼女の罪は王太子妃の名誉を辱めたこと、大方虐めでもしたのでしょう。本来死罪になるはずもないひどく小さな罪です。しかし兄上は自らの妃かわいさで、未来ある貴族の女学生を徹底的に殺害しようとしました。権力の乱用もいいところだ!!こんな人物に一国を任せられるはずがありません。国のためを思うならこの私を国王にすべきです!」
芝居がかった身振り手振りでジェードは熱弁を振るう。
「だがあの女は――」
シエスタ家の者、と続けようとしたジェラルドを遮り、ジェードは更に声を張り上げた。
「そしてもう一つの皆様にお伝えしたいことは………………入りなさい」
開いたままの扉へ向けてジェードはそう指示した。すると扉から続々と30人余りの人物がダンスホールに押し入り、来賓たちを取り囲んだ。年齢、性別は様々だが、一様に黒を基調とした軍服を纏っていることから一つの団体であることは明らかだった。
彼らは統一されたデザインの剣を腰元から引き抜くと来賓たちに向けた。突如剣を向けられた来賓たちは大いにどよめき逃げ惑った。ダンスホールの出入り口には全てその正体不明の軍人が立ち塞がっているのだから、来賓が会場外に逃れることなどできるわけがなかった。
あちらこちらから聞こえる悲鳴や命乞いの言葉にジェードは客人を落ち着かせるためか、人好きのする優しい好青年の笑みを見せた。
「落ち着いてください、初めに言った通りすぐに終わります。協力して頂けるのなら危害も加えません」
「私がお伝えしたいことは以上です。さぁご判断ください、どちらが王にふさわしいかを!!」
「ジェード陛下万歳!!」
取り囲まれていた来賓の中から大声と割れんばかりの拍手が響く。年老いた男、マートラであった。そして彼に続くように渋々と一人、また一人と拍手の音が増していく。
会場全体が拍手で包まれるまで時間はそう掛からなかった。




