プロローグ
二十一世紀、世界は唐突にそのルールを変え、突如として1部の人間は不思議な力に目覚めた。そして、その変化から数年経った今日。西暦にして2021年4月14日。
極東のとある国で、またも歴史が動こうとしていた。
その日は、上がりきった太陽が夏への準備と言わんばかりに日差しを強くし、風もないため春にしてはやけに暑い日だった。
日本政府は数年前から現れ始めた超能力者たちに対して国が取った対策として超能力の住居がある街が出来た。そういった場所は各都道府県にそれぞれ1つ存在し、東京では東京都に属する島の1つに超能力者が住めるような建物などを作ったのである。
その場所の総人口は一応東京都に属してはいるが東京から少し遠い島なのもあって他の街に比べて居るのは数百人程。その中でも、超能力を使える人間はたった十人程度しかいない。
超能力者の数は全国を含めても百人ほどしか居ないが、これでも世界中を見れば一国としては多い数だった。1番超能力者の数が多い中国ですら二百人という少なさである。
毎年だいたい150人程の能力者が見つけられてはいるが総人口としては数ヶ月前にようやく4桁を少し越したところだ。
能力者の人数はほとんどの場合人口に比例し、例外と言えるのは日本だけだろう。
そのため日本は人口の割に超能力者が多い国と言える。そのせいか対応も早く、超能力者に対しての街づくりは世界的に見ても最速と言えるレベルの速さだった。
そして今日はそんな能力者が居る町の住民が主に使用しているデパートの出入口の1つが突然、爆ぜた。
辺りに爆音が鳴り響き、それに続いて誰のとも分からない悲鳴が上がる。それらは木霊するように数を増やし、いつしかそれは合唱のようにデパートを埋めつくした。
その絶叫を駆り立てるようにしてまるで真横から聞こえてくるかのような音量の爆音やマネキンなどの飛び散った破片が彼ら彼女らを真後ろから襲っていく。加速した焦りは留まるところを知らず、デパートの出入口は人が押しつぶされんばかりにひしめき合っていた。
そんな状況に対して、従業員の対応も早かった。すぐに避難を促すようにアナウンスが流れ、客が逃げ切ったのを確認してから爆破をした何者かが通れなくなるように非常用のシャッターが降ろされる。
そして、出口へと複数人の従業員がまるで訓練されているかのような素振りで案内を始める。
それからなんと急に起こった危険な出来事だと言うのに10分後には全ての客と従業員がなんと無傷で全員デパートから出ることに成功した。
そう、客と従業員は、だ。つまり当たり前のことだが、爆破を行った人物、もしくは人物たちは居るということである。
ところで、少し疑問に思わなかっただろうか?
例えば、逃げた客の誰もが爆破音や破片が飛び散った様を見ただけで爆破した人間を見ていない事。
例えば、普段訓練をしているのだとしても即アナウンスを流す判断の速さやまるでどうぞおかえりくださいと言っているかのようなほどの従業員の手際の良さ。
例えば、デパートが爆破されていて、それを行った人間が近くにいるというのに怪我人や死人が見られなく全員無事で外に出られたのか。
これらの違和感を組み合わせると、ひとつ見えては来ないだろうか。
爆破を行った人間の目的は、デパートを使って何かを起こす事ではなく、デパートそのものでは無いのか、と。
そう考えると、異常なまでに脳裏を支配する違和感に説明がついてしまう。
そして、爆破を行った人間の目的が分かれば1つ見えてくるものがある。
つまり、少なくとも爆破の実行犯は1人では無いということ。
なぜ?とここで疑問を持つ人も居るかもしれない。ただ、考えて見てほしい。客を出口へと導いた従業員、あれは本物の従業員なのだろうか?
例えば、彼らも爆破をした人間の仲間であれば、異常なほどの手際の良さも説明がつくのだ。
そう、今日このデパートで起きた十数分の出来事が、全て彼ら、もしくは彼女らに仕組まれた事だとしたら説明がついてしまうのだ。
では、それを行ったのはどういった人物達なのだろうか?どういった目的なのだろうか?そして、これからどういった事をしていくつもりなのか。
それはおいおい順を追って話すとしよう。ただ、この事件に置いてもっとも重要なのは、二十一世紀、日本で初めて起こったテロだという事だ。
そして、この日この瞬間を境にして、世界を大いに巻き込む戦いが始まりを告げたという事を。