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9/21

クラス転移前日譚 親友と書いてライバルと読む、女の子ふたりの恋のさやあて ~恋に恋する不器用女子は、未だ、彼氏いない歴イコール年齢の、立派な処女です~




 強敵と書いて「とも」と読む、なんて、世紀末なバトル漫画の中だけにしてほしい。


 どちらかと言えば、親友と書いて「ライバル」と読むとでも言えそうな状況だけど。


 私とキリコ――佐々木理子が仲良くなったのは、中学校1年生の時。


 当時の学級担任の先生が、「世のため、人のために、動ける人になろう」と呼び掛けて、主に道徳の授業で、いろいろなことを教えてくれた。

 その頃は、今よりもずっと純粋だった私は――今でもそれなりに純粋だとは思うけど、さすがに高校生になって、小学生レベルに近い純粋さはない――日頃から、世のため、人のために、何かをしようと頑張った。


 世のため、人のためにしていたのは、とても簡単なこと。

 授業と授業の間に、黒板を消している友達がいたら手伝う。

 落ちているゴミがあれば拾う。

 配布するプリントがあれば配る。

 バスや電車でおじいさん、おばあさんに席を譲る。


 それを七夕の短冊みたいな紙に書いて箱に入れておくと、先生が帰りの学活とかで紹介してくれて、教室の後ろに掲示されていく。


 私と競うように、そんな、ちょっとした、いいことを重ねていたのが、キリコだった。


 3か月くらい経って、夏休みが近づいて、クラスの半分くらいが、そういうことに飽きてきた頃。


 私はそういう行動が当たり前のものとして身についていた。

 そんな私と同じように、そういう行動を当然のこととして行っていたのが、キリコ。


 結果、私の隣には、いつの間にか、いつも、キリコが、いた。


 別に、「友達になろうね」とか、言った訳ではなく。


 私とキリコは、自然に、一緒に過ごすようになっていた。


 お互いに何も言わないけど、私はもうすでにキリコのことを親友だと思ってた。たぶん、キリコもそうだと思う。





 二人で過ごすと、関わる人も同じになる。


 夏休みを終えて、2学期にもなると、基本、女の子は、恋バナが中心だ。


 私は本好きで、ラノベ好きのオタク気質で、運動部とはいえ、運動量は少ない弓道部。

 キリコは、私みたいな大人しいタイプと一緒にいるにもかかわらず、運動は得意な方で、でも集団スポーツとかチームワークとかはちょっと苦手な、陸上部。


 サッカー部のイケメン系チャラ男くんとか、野球部のさわやか系スポーツマンとかは、私たちの的前からは外れていたけど、勉強ができて思いやりがある控えめな委員長系男子とか、ラノベ好きでオタク系トークが平気な卓球部男子とかは、的枠の中に入っていて。


 まあ、要するに。


 人としての本質が似ている私とキリコは。


 好きになる男の子も、よく似ていた、ということで。


 そして、いつも一緒にいることで、好きになった男の子と関わる時も、私とキリコは一緒にいて。


 そうすると、話す時は、私よりもコミュ力が高いキリコが、どっちかとというと前衛で、私は後衛となってしまい。


 親友に対して、醜くあさましい女だと自分でも思うけど、私は少なからず、もやもやを感じて。


 結果として、私はいつも、やってしまうのだ。


 キリコが何も言わなくても、キリコも、あの子が気になっていると、知りながら。


「……相原くんって、なんか、いいよね」


 そう、キリコと二人きりの時に、微笑みながら。


「……応援して、ね? キリコ?」


 先回りして、釘を、刺す。


「ま、任せて~。頑張って、ママユミ!」


 キリコがいつも、動揺を隠せてないことをわかっていても。


 私とキリコは、そうやって共に時間を過ごした。


 ………………ま、そうして、釘を刺したからといって、私には、彼らに告白する度胸などなく。


 せいぜい、彼らがキリコに告白しないように、可能な限り二人きりにはしないとか、そんな妨害行為に一生懸命に取り組み。


 高校生になっても、私とキリコは、彼氏いない歴イコール年齢という、恋に恋する乙女歴史を重ねていたのだ。





 高校2年生になっても、私とキリコは、世のため、人のために、動いてしまう。

 そうはいっても、それほど、たくさんのことができる訳でもない。それに、大したことはしていないと思う。

 せいぜい、プリント配りの手伝いとか、黒板消しの手伝いとかぐらいだろうか。


 新クラスになって2か月、6月に入って。


 そんな、私とキリコのプリント配りに。


 王子様が現れた。


 ……いや、王子様は、おおげさな表現だとは思うけど。


 でも、まあ。


 そろそろ、親友のキリコと牽制し合ってないで、本当に、彼氏がほしいと思うようにもなっていて。


 はっきりいって、クラスでは全然目立たない、陰キャでぼっちの渡くん。4月はじめの、クラスの親睦カラオケも不参加だった人。


 髪を切ったらイケメンとか、そういう感じでもない、本当のフツメン陰キャ。でも、プリント配りを手伝ってくれる高校生男子とか、マジメないい人としか思えなくて。


 何度か一緒にプリント配りをするうちに、ちょっとずつ話すようになって。


 いつの間にか、お昼を一緒に食べるようになって。


 スマホでアドレス交換もして。


 好きなラノベの話とか、するようになって。


「『本好きの大出世』は、お、男としてちょっと情けないかもだけど、お母様との秘密の部屋でのやりとりは、ちょっと泣けた……」

「わ、分かります。すごく分かります……」


「『大都会の少年騎士』は、金がない時の、び、貧乏ケチケチ飯が本当に美味しそうで、実際に作ってみたくなるよね」

「なります、なります!」


 ちょっとだけ恥ずかしそうに話す、大好きなラノベの泣き所、感じ所が私と似ていて、共感できて、思わず身を乗り出してしまったり。


 しかも、私よりもコミュ力が高いキリコが会話の中心でありながら、私との話題もラノベを中心に多くて!


 ……それなのに、いつものように、キリコの視線が、時々、渡くんを探していることにも、気付いてしまって。


 高校では、私がキリコを誘って一緒に入部したアーチェリー部の練習が終わって。


 キリコと二人で帰る時に。


「渡くんって、いいよね……」


 私はそう言って、キリコに微笑む。


「だねー……」

「……応援、してね? キリコ?」

「あ、あはは……」


 いつものセリフを繰り出す私に、キリコは隠せていない苦笑いで答えた。


 その苦笑いでのごまかしで。

 実は、いつものように『任せて~』と言っていないことには、気付いていたんだけど。


 ……親友と書いて「ライバル」と読む関係は、もやもやが強くて、ちょっと辛い。














 あたしとママユミ――野間真弓の付き合いは、中1からだから、もう4年以上になる。

 ママユミはあたしの親友。それは間違いない。

 間違いないんだけど……。


『応援、してね? キリコ?』


 中1でひとり、中2でふたり、中3でもふたり、高1ではひとり、合計、6度の好きな人かぶりと応援要請。

 好きになりそうな、または好きになった男の子がかぶった時、いつもいつも、そう、先に言われてしまって。


 ママユミの……中1の時点で既に自己主張が見られて、中2、中3、高1と、あたしの人生を暗くするように、さらなる破壊力を増していったママユミの母性の象徴を自分の部屋で思い出し。

 ちょっとは女の子らしくふくらんできたかなぁ、と思えなくも、なくも、ない、くらいの、あたしの胸を、キャミの首のところに指をかけて引っ張りつつ、見下ろしてみるけど。


「……勝ち目は万にひとつもないよー」


 そんな、女の子としての自信が持てないあたし。


 さすがに高2になって、彼氏いない歴イコール年齢は、あせりがある。


 今まで、応援して、とは言われたものの、結局のところ、ママユミが彼らに告白するという、積極的恋愛行動を進めることはなかった。


 ……まあ、あたしも、その、告白とか、そんな、簡単に、できるとは、思わないけどさ。


 でも、なんていうか。

 無理せず、自然に気が合うママユミとは、きっと、これからも一緒にいるだろうし。


 そうすると、好きな人がかぶり続けることも、十分、ありうるワケで。


 ライバルがママユミだとすると……。


 中3の修学旅行の大浴場で見た、ママユミの破壊力抜群の母性の象徴がぽわわんと頭に浮かぶ。


「……あたしが、女の子の全部を捧げても、アレには勝てそうにないんだよねぇ」


 はぁ、と、ため息が漏れる。


 それは。

 7度目の、ママユミとの、好きな人かぶりのせい。

 いや、まだ、本当にその人が好きなのか、あたしは、はっきりとは、よくわかんないんだけどさ。


「なんで、同じ人に、ひかれちゃうんだろ……」


 そんなの、わかってる。


 あたしと、ママユミが、本質的に、マジメで、一生懸命なところ、そういう人としての本質が、とてもよく似ているから。

 それでいて、ややコミュ力が高いあたしと、ややコミュ障なママユミの自然な役割分担が心地よく、お互いに離れられなくて。


「あたしだって、彼氏がほしいよぅ……」


 そんなつぶやきは、自分の部屋の中で、どこへともなく、消えていく。





 ある日の、お昼ごはんの時。

 教室で机をくっつけて、ママユミと渡くんと、三人で食べながら。


「……そ、そういえば、野間さんは、中学は弓道部だったって、言ってたよね」

「そうですよ」

「ちなみにあたしは陸上でしたー」

「陸上かぁ。佐々木さんらしい感じがするね」

「へ?、そ、そうかな? えへへ……」

「キリコは活発なところがあるから」

「そうだね。佐々木さんは明るいし。あ、それで、弓道とアーチェリーって、どっちも弓矢だけど、どう違うのかな? なんか、気になって」


 渡くんの、そんな、素朴な質問に。


「む、胸に、弦が当たるか、当たらないか……」


 ママユミはそんな、意味不明な答えを……って、渡くん!? その視線はダメだよ!? そこは目をやっちゃダメなとこだよ!?


 わっ! ママユミ! そんな渡くんの視線で頬を染めるとか、あざとい! あざといよ!? ママユミ、今、自分からその話題にしたよね? いや、ママユミ、耳まで赤くなってきた!? 見られて本気で赤くなるなら言わなきゃいいのに!?


 ……ていうか、ママユミが自分の母性の象徴を男の子との話題にするなんて、今まであったっけ? ないよね? なかったよ、うん。絶対にない。


 え? ママユミ? 本気で、渡くん、落とそうとしてる? してるよね?


 わ、話題、話題変えなきゃ!


「二人とも中学生かっ!」


 あたしはそう突っ込みを入れて、ママユミと渡くんの肩をバシバシと叩いた。


 ……せ、せめて、肩ぐらいだけど! 肩ぐらいだけど! スキンシップで反撃しないと!


 ママユミがあの女の武器を使って本気でアタックしたら!


 あたしなんて、処女を捧げてもママユミには勝てそうにないんですけど!?


 どうすれればいいの!? って、あれ? 反撃? なんで、あたし……。





 ある日、渡くんが学校を休んだ。


『おーい、渡くんやーい、大丈夫かーい?』


 心配だから、授業中だけど、ママユミと渡くんとの、三人のグルチャにメッセを入れる。


『渡くん、大丈夫ですか? 心配してます』


 あのマジメなママユミも、授業中なのに、あたしと競うように、メッセを入れてきた。


 たぶん、どうしようか迷いながら、授業中にスマホをいじってたんだろうなぁ。

 そこで、あたしが先にメッセ、入れたから。

 あたしに対抗して、さ。もう。ママユミってば。


『ただの風邪。大丈夫です。心配してくれてありがとう。二人の優しさに感動です』


 渡くんからの返信は、あたしとママユミ、二人まとめて。


 ……感謝とか、感動とか、まっすぐすぎて。本当に、いい人だ。


 なんて返そうかな?


『渡くんって。ええと、どういたしまして?』


 うまく思いつかなくて、ちょっと変な感じになった。失敗。


『心配するのは普通のことです。大丈夫そうで安心しました』


 ……ママユミってば。私が渡くんの心配をするのは当然ですって感じに? あたし、このメッセ勝負で完全に負けてる!? さすが本好き! 文章が! いや、文章あんま関係ないけど!


 こっちからも仕掛けるしかない。応援と見せかけて……。


『苦しいって言えば、ママユミの母性がお見舞いで炸裂したよ?』


 どうだコレ! これでママユミはあせるはず!


『しません! でも、お見舞いには行ってもいいですよ?』


 ママユミが! あのママユミが男の子のお宅訪問に積極的になってる!?


 どうしよう!? ここは煽って、ママユミをもっとあせらせて……。


『あの胸に抱かれて眠れば風邪なんてすぐ治るから!』

『ちょっと、キリコ!』


 よし! 作戦成功! いや、でも、あたしがママユミの母性アピールしてどうすんのさ……。いや、そもそも、なんで勝負してんの、あたしは……。


『すごく嬉しいですが、本当に大丈夫です』


 渡くん……やっぱり嬉しいんだ……。


『嬉しいというのはお見舞いのことで』

『抱かれなくても、嬉しいです』


 ……ホントかな? 胸のことじゃないのかな?


『抱くって』

『きわどいよ、渡くーん』

『まあ、そこは、積極性があっていいと思うけどなー』


 あたしは、つい、ノリで。

 思ってもない方向へ、メッセを入れてしまう。失敗。うん、失敗。


『本当に、お見舞い、いいですか?』

『あ、このいいですか、は、行ってもいいですか、の、いいですか、です』

『えっと、抱きしめたりは、しませんよ?』


 ……ママユミの返しの方が、100倍、女の子らしいよぅ。


『そこは頑張ろーよー』

『頑張りません』

『本当に大丈夫だから。僕のことよりも、テストも近いし、しっかりテスト勉強をして、備えて下さい』


 ……渡くんって、ホント、いい人だ。


『あー、そーだねー。期末だもんねー』

『テスト週間だから部活がなくて動けるというのもありますけど、渡くんが大丈夫そうなので、テスト勉強を頑張ります』


 ……まぁ、ママユミの突撃を防げただけでも、よしとしよう、うん。





 とまあ、そんなことがあった翌日も、渡くんは続けて休んだ。


 二日続けて、渡くんが休んだことが、すごく、気になってる、あたし。


 ……ママユミに巻き込まれて、ママユミに張り合って、あたし、渡くんが好きになってる? それとも、あたしも、もう、自分から、ホントに渡くんが好きになってる? まだ、気になってるだけ?


 どうなんだろ……なんか、もう、よくわかんないや……。


『おーい? 渡くーん? ホントに大丈夫かーい? 2日続けてはさすがに心配なんだけどさ?』

『渡くん? 熱は何度ですか? ちゃんと食べてますか?』


 ママユミのメッセは、母性全開だ。お母さんみたい。あたしも心配してるんだけど、レベルが違う気がする、うん。


『大丈夫です。母が、念のために休め、と。まあ、この方が僕としても、テスト勉強もできるので』


 ……母、とか、ホント、丁寧な人だなぁ。


『念のため休み? もう治りかけ?』

『熱は何度ですか? 朝食は何でしたか? 何時間寝ましたか?』


 いや、だから、お母さんなの? ママユミ?


『今、熱は36.6で、朝食はりんごとヨーグルトで、さっき、ちょっとアイスも食べた。たっぷり寝た。今は数Ⅱのテス勉中。余裕で、大丈夫で、問題なし』


 ……そして渡くんの返信はマジメか。


『あいすー! うらやまー!』


 あたしはよくわからなくなってきた自分の気持ちを誤魔化すように、そんな返しを入れる。


『本当に大丈夫なんですか?』


 ママユミは本気の心配で返す。


 そんなママユミの本気っぽい感じに、なんだか、もやもやする。


『大丈夫です。ありがとう。野間さんが心配してくれて、なんだか心がぽかぽかします』


 あたしとママユミ、二人に向けたメッセじゃなくて、ママユミにだけ、向けたメッセに。


 ……なんで、あたしまで、ドキドキしちゃうんだろ?


 ちらり、とママユミの方を見る。


 授業中なのに、なぜか耳まで真っ赤になったママユミが見えた。


 ……渡くんのぽかぽかメッセの破壊力がすごいよ!?


 ママユミはたぶん、もう、渡くんのことが、ホントに好きだ。


 あたしは、どうなんだろう?

 ママユミの気持ちに引っ張られてるだけ? それとも、あたしも、渡くんが好き?


 ……渡くんが気になってるってのは、間違いないと思うんだけど。


 自分の気持ちに、まだ、結論が出せない。


 それは、今までの、あたしとママユミとの、関係が、あるから。


 もう一度、ママユミの方を見てみる。まだ、ママユミの耳は、赤くなったままだ。


 ……親友で、それでいて、恋のライバルでもある、みたいな、そんな、関係。なんか、いろいろともやもやするけど、でも、ママユミのことは好き。嫌いになれるワケがない。


 人としての、どこか、一番深いところが、すごく、あたしと似てる、人。それがママユミ。


 いつの間にか、自然と、一緒にいるようになった、あたしの、親友。


 大切な、親友。


 だから、よくわかんなくなる。


 あたしは、ホントに、渡くんのことが、好き、なのかな?


 ああ、もう。


 なんか、こういうのって、もっと本能でビュっと、動けたら。


 きっと、楽になれるんだろうなぁ……。






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