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6 神様が相手だと、なぜだか気楽に話ができるのは、自分でも不思議。


 光が収まった。前にも来た真っ白な空間だ。前にも、なのか、今また再び、なのかは言葉選びが難しいところだけど。


 肩にずっしりとかかるかばんの重みを感じて、ほっと一安心。3つのスキルを犠牲にして準備してきた物はばっちり異世界へと持って行けそうだ。


 ふっと顔を上げる。


 おっさん神様には礼を一言、言っとかないと……あれ?


 なぜか、僕の前には超絶イケメン好青年っぽいのが一人、立っていた。いや、神様だったら一柱か? 頭の上に光る輪っかがあるのはおっさん神様と同じだし。


 ん? おっさん神様、まさか自分を時間遡行させて若返った? いや、それにしても、あの時のおっさん神様とは造形美に違いがあり過ぎるな? いくらなんでも、あのおっさん神様が若返ったとして、ここまで美形になるとは思えない。ビフォーアフターだったら間違いなく詐欺広告だろう。


「君たちはリーデスガルドという世界へと、勇者召喚という秘儀によって集団で転移することになりました。界渡りをする者たちには、その先の世界で生き抜くことができるよう、この場で、わかりやすく言えば、スキル、と呼ばれる能力を与えることになっています。あなたの目の前にある、いくつかの選択肢の中から、3つ、選んでください」


 ……ええと、どういうこと? 3つ、選べるの? マジで? あれ? 僕は、その3つのスキルを犠牲にして、放棄したことで、その代わり時間遡行で準備期間をおっさん神様からもらったんだけど?


「……突然過ぎて、呆然としてしまう気持ちは分かります。先程、あなたが召喚の魔法陣に巻き込まれたことは覚えていますか?」


 どうも、おかしい。僕が時間遡行したことを知らないのか?


 いや、そもそも、なんで、あのおっさん神様じゃない?


「私は、こう、名乗るのは少し恥ずかしいのですが、神の一柱なのです。このような界渡りが発生した場合に、転移者を補佐する役割を担っています」


 ……というか、このイケメン神様、あのおっさん神様よりもずいぶんと丁寧な感じだよな? どう考えても別人……いや、別神だろ?


「不安になるのは当然です、ゆっくりと考えてください。どのみち、あちらへと転移するタイミングは同じですから」


 どうする?


 おっさん神様にお願いして、スキルをあきらめる代わりに時間遡行させてもらって、たくさん準備をしてきたんですって、正直に言った方がいいのかな?


 相手は神様。正直は美徳。正直者は……あれ? 意外と、マイナスじゃないか? 馬鹿をみる、とか、損をする、とか。そういう感じで。正直者って、いったい……。


 それに、そもそも、おっさん神様と話した時間遡行の条件は『時間遡行について話すと僕は死ぬ』だったはず。話すだけでなく、書いたりするのもダメ。直接的でなく、間接的な表現でもアウトだったと記憶してる。異世界転移する未来をみんなに教えたら時間遡行がバレてアウトなんだからな。


 ……神様相手でも、これが適用されるとしたら、時間遡行を説明した時点で、僕は死ぬことになるよな。


 あ、これ、一択じゃん! ここまでやって、今さら死ぬなんて絶対にお断わりだし?


「……あの、質問、いいですか?」

「はい、何でしょうか?」

「僕たち、クラスメイトがたぶん、みんな巻き込まれたんですけど、みんな、その、あなたがこうやってお世話してくださるんですか? 40人近くはいるんですが?」

「ああ、実際は、何柱かの神で、分担してお世話していますよ」


 ビンゴ! キタコレ!


 時間遡行で歴史が変わった影響か何か、ひょっとしたら、その瞬間の教室内の立ち位置とか、そういったレベルで。


 僕の担当になった神様がおっさん神様から別のイケメン神様になったんだ。たぶん。


 しかも、時間遡行について話したら死ぬ、という条件もこの場合、最高。誰だって、死を選びたくはない。もちろん僕も、できれば長生きしたいです。悪いね、おっさん神様。あなたとの約束、守りますから!


 それを理由に……はっきり言えば、それを言い訳にして、このままスキルをもらっちゃうことが、できる。


 というか、する。絶対、する。こんなチャンス、逃す訳にはいかない。


「ええと、その、リーなんとかって、世界は、どういう世界か、うかがっても?」

「リーデスガルド、ですね。まあ、いわゆる剣と魔法の世界、と言いたいところではありますが、魔法はかなり、希少価値があります」

「……時代とか、社会とかの成熟度は?」

「あなたたちがいた地球で言えば、中世社会がもっとも近いでしょうか」


 現代とか、未来とか、古代とか、近代とかではなく、やっぱり鉄板の中世か。


 そうなると……。


「僕たちは、そのリーデスガルドの、どこに呼び出されたんでしょうか?」

「フェルミナ王国という国の、王都、王城の地下に用意された円形広間にある魔法陣の上になります」


 細かっ! かなりピンポイント!


「王制、ということは貴族制も……王権は、強いんでしょうか?」

「何を基準とするかによりますが、あなたたちの地球でいう、絶対王政のような状態には至ってないとも言えます。王権の強さは国によりますが、少なくとも、フェルミナ国は、そこまで王権が絶対的ではないでしょう」


 めっちゃ質問に答えてくれるじゃん!


「……こんなに、質問にくわしく答えてくださって、いいんですか?」

「スキル……能力を選ぶための、必要な情報かと、考えています」


 いや、これ、おっさん神様はハズレで、イケメン神様、大当たりじゃん? あ、ごめんなさい、おっさん神様。僕にとってはあなたも大当たりでしたよ、マジで。


 ちらりとイケメン神様に言われた、スキルの表示を見る。まるでプロジェクターによって映写されているような感じで、僕の目の前に、横長の長方形の枠があって、そこに、9個のスキルが示されている。


 雷魔法、火魔法、水魔法、身体強化、情報収集、体術、料理、説得、仮病、か。


 魔法関係が3つ、先にあるのは、レアスキルだからか? あと、料理はまだしも、説得と仮病ってなんだこれ? なんか、最近、頑張ってたことと、関係がありそうなものなのか? いや、説得を頑張った覚えは……まさか、佐々木さんや野間さんとのメッセ交換が説得なのか? それにしても仮病スキルって何? 役に立つの? ネタスキルでウケを狙えと? 確かに最近仮病はよく使ったけど!


「もっと、たくさんのスキルから選ぶようなイメージでしたけど、9つですか」

「ああ、それは、本人の適性によって、そうなっています」


 ……人によって、選択肢が違うのか。え? 本人の適性? この9つが? これが僕の適性ってこと? 魔法とかもあるのに?


 そうだとすると、レアだと言われた魔法スキルが3つ、最初にあるのは、まるでそこへと誘導されてるような気がする。魔法スキルが地雷パターンか? それとも……。


「……魔法の希少価値は、ひょっとして、僕たちみたいな転移者しか使えないから、なんでしょうか?」

「鋭いですね。正解とも言えますし、そうでないとも言えます。魔法スキルを得た転移者の子には、魔法が使える者も誕生しています。確率は高くない上に、転移者よりも魔法の威力が落ちますが」


 ……それ、種馬ルートの地雷スキルじゃん。いや、それでもいいから童貞を捨てたいとか、ヤりまくれるならラッキーとか、考える人もいるかもだけど!


 それでも確かに魔法は魅力的ではある。ラノベ読者、みんなの憧れ魔法無双。特に、一番にある雷魔法は強力そうな感じがビンビンしてる。エレクトリカルサンダーボルトーーっっ、とか、ライジングインパクトーっっ、とか、叫んでみたい。


 でも、間違いなく、魔法スキルがあるとわかれば、呼び出した王国に取り込まれる形で生きていくことになる。しかも、戦力扱いで戦場行き。戦後は種馬人生か。


「……呼び出した理由は、魔王や魔物を倒せとか、もしくは戦争、ですか?」

「後者が正解ですが、一部、前者も含まれますね」


 ……人殺しの覚悟を決めとかないと、こっちが死ぬパターンだ、これ。いや、中世ならそれは当たり前か。下剋上の弱肉強食なんだから。


 転移後、どうにかしないと、いろいろ、難しい問題があるかも。隷属系のアイテムとかあったら怖い。


「……召喚先の国で、支配する首輪とかで、無理矢理戦場へ行かされるとか、そういう感じですかね?」

「いいえ。そういう道具が開発できるような、魔法的なことはリーデスガルドではあまり発展しておりません。古くから残されてきた勇者召喚の魔法陣くらいでしょうか。その魔法陣も、偶然、別の世界から渡ってきたものでしかないです」

「奴隷とか、いない感じですか?」

「奴隷はいますが、魔法による強制などではなく、まあ、焼き印とか、鎖とか、後は契約です」


 うーん。強制が、絶対に逆らえない魔法的な、呪術的なタイプじゃないなら、魔法スキルもありか。魔法スキル持ちなら、戦場へ行かされるのは確定だけど、たぶん後方で、盾役に守られて動くことになるだろうし。


 戦闘系スキルゼロで完全に後方支援? 料理で? ありと言えばありだけど。


 情報収集だと後方とは限らない気がする。逆に敵陣とか敵国への潜入まである。


 そもそも弱肉強食の中世社会で、弱さはイコールで死、だろうから。


 どうしたもんか……。


 シンプルにいくなら、これしかないとは思うけど……。


「あの、神様。この中から、3つ、選べるんですよね?」

「ええ、そうですよ」

「なら、この中のひとつを、3つ、ください、というのも、あり、ですよね? それも、この中から、3つという条件には、当てはまりますし」

「はい?」

「この中のひとつのスキルを、3つ分、重ねてもらえますよね?」

「……あなたは、なかなか、おもしろい考え方をなさいますね。このようにたくさん質問をなさったのも、私が担当した中では、あなたぐらいです」

「それで、できますか?」

「……確かに、条件を外してはいませんが」

「なら、『身体強化』を3つ、重ね掛けでください」

「『身体強化』か……2倍を3つで8倍……まあ、問題はない範囲に収まりそうですね。では、あなたの能力は『身体強化』、それを3つ、重ね掛けするということで」

「ありがとうございます」


 脳筋的思考かもしれないけど、何が起きても力で解決というのは、弱肉強食の暴力社会なはずの中世なら、絶対的な解決策になり得る。


「では、転移します。元の世界でそのまま生きられなかったあなたに、どうか、幸せがありますように」


 そうして、神様が手をかざすと、僕はどんどん、光に包まれていき……。


「あれ? 『身体強化』って2倍じゃなくて5倍なの? え? ということは、ひょっとして重ね掛けだと……」


 最後の慌てた神様の言葉は、光に包まれた僕の耳には届かなかった。


 この後、天界において、二柱の神様が処罰を受けたかどうかは、神ならぬ人の身にある僕には知る由もない。




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