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13 そういうイベントは自分で起こしたいけど、よく考えたら僕には無理だよね。


 僕とリコ(・・)の王都生活はおよそ半月が過ぎた。


 そのほとんどは開拓者ギルドで依頼したベテラン開拓者、ギーゼさんによる開拓者修行だった。もはや僕たちにとって、ギーゼさんはギーゼ師匠だ。


 以下、ギーゼ師匠による開拓者語録とともに、ダイジェストで。


 ん? どうかしましたか? 何か、気になることでも?


「開拓者ってのは、森を切り拓いてなんぼってところがあってなぁ……」というギーゼ師匠の開拓者語録。


 40代後半というギーゼ師匠は、かつて森の奥の最前線にいた強者で、今は最前線からは引退して、王都暮らしを満喫しているとのこと。


 現代日本と比較してしまい、どうしても僕と佐々木さんにとっては厳しいと感じる王都生活も、地元の人たちにとっては最高の環境になるらしい。


 さて、開拓者について。


 この世界は、人間たちの暮らすところと、魔物の住処とに分かれている。


 魔物の住処となっているのが、森とか、山とかの大自然だ。


 人間は魔物の住処である森を切り拓いて、人間の領域を拡大してきた。水源を確保し、そこを魔物たちから死守しつつ、周囲の樹々を切り倒して土地を広げ、畑に変えていく。そうやって、町づくり、国づくりが行われてきた歴史がある。


 その先頭に立つのが開拓者だ。


 それと同時に、いくつもの国が存在する今は、森を開拓するのではなく、他国を侵略することで、自国の領域を拡大しようとしている。僕たちは、そのための戦力として、勇者召喚という秘儀で呼び出された。


 元々は都市国家レベルの小国乱立からの戦国時代を経て、ある程度の規模を有する国家対立へと歴史を重ねてきた、らしい。


 まあ、この国で学んだことだけど、どこまで鵜呑みするかは悩ましい。別に疑うほどの根拠もない歴史ではあるしね。


「だからぁ、開拓者ってぇのは、まずは戦力としてどうかってぇ、話になる」というギーゼ師匠の開拓者語録。


 そう言ったギーゼ師匠に案内されて向かった草原で、僕と佐々木さんはフタツノウサギなる最弱の魔物を倒した。


 フタツノウサギは頭部の左右にそれぞれ小さなツノがある。基本的に人間を見たら隠れたり、逃げたりするが、どうしても逃げられない場合は突進してくる。で、頭突きを喰らわせようとするんだけど、左右に分かれたツノという武器は僕たちに接触せず、おでこが向かってくるという、そういう意味不明な弱キャラだ。


 ちなみに二番目に弱いとされるヒトツノウサギは、同じ頭突きでもツノが真っ直ぐ突き刺しにくるので注意が必要です。


「……おめぇらが強ぇーのは、よーくわかった」


 遠い目をしてギーゼ師匠がそう言った原因は、僕と佐々木さんのどっちだったろうか。夕食の時に二人で責任をなすりつけ合ったのはいい思い出だ。


 僕が最初に戦ったけど、フタツノウサギを逃がさないように追いかけ、上から思いっきりメイスを振り下ろした。


 すると、そこにいたはずのフタツノウサギが粉々に飛び散って形もなくなった上に、そこの大地に半径3メートルくらいのクレーターみたいなのが掘り下げられてて、メイスの危険な先端が折れて飛び、それが僕のおでこに衝突して「いてっ」って思った。思っただけでなく口から出たけど。ウサギ爆散行方不明アンド自爆事件だ。


 佐々木さんに折れたメイスの先端という危険なところが当たったおでこを確認してもらったけど、ちょっとだけ赤くなってるだけだった。僕の『身体強化』の性能が異常過ぎる。


 メイスはその日の夕方、買い直した。ぐすん。さようなら、メイス1号。


「おめぇは、メイスをできるだけ横に振るんだ。下に振るのは、でけぇ相手の時だけにしとけ。ウサギが消えてなくなるとか、見たことも聞いたこともねぇよ」


 なるほど、考えればわかることだけど、確かにその通り。いいアドバイスだ。


「そっちは弓使いか。超一流のやつらぁ、ウサギは目とか口とかを一発で射抜いて、ほとんど傷つけずに仕留めるぜぇ」というギーゼ師匠の開拓者語録。


 そうギーゼ師匠に言われた佐々木さんは、フタツノウサギの目を一発で射抜いて仕留めてみせた。佐々木さんはかわいいだけでなく、とてもかっこよかった。


「……おめぇらが強ぇーのは、よーくわかった」


 という訳でこのセリフになった。たぶん、佐々木さんのせいだと思う。きっとそうに違いない。


 僕たちの戦力は、どうやらベテラン開拓者のお眼鏡にかなったらしい。


 鼻先が黒っぽい雄を狙って、鼻先が赤っぽい雌はできるだけ逃がすこととか、どうすればウサギの毛皮にできるだけ血を流さずにさばけるか、とか。ギーゼ師匠にくわしく教わった。いい師匠だったと思う。


 初めてフタツノウサギをさばいた時は、その血の量に、佐々木さんが気絶したのはご愛敬だろう。


 王都で食べられている肉の半分以上がフタツノウサギの肉らしい。すごい繁殖力なのは、雌を狙わずにいるからなのかもしれない。ウサギ世界はハーレム世界だね。


 それからはフタツノウサギだけでなく、ヒトツノウサギも狩り、森へと入って、ミドリイノシシとかクロイノシシとか、シロオオザルとかも狩った。


 二人の連携も大切で。


「佐々木さん! 右からくる!」

「渡くん! 後ろっ!」


 互いに声を掛け合って戦うんですよ。


 でも。


「……おめぇらは、呼び名が長すぎんだよなぁ。あんな高級宿でヤりまくってるクセに、えらい余所余所しいじゃねえか」

「や、ヤってません!」


 佐々木さんがあわあわしながら否定した。めっちゃかわいい。写真に残したい。今はタブレットを出せないから無理だけど。撮りたい。めっちゃ撮りたい。


「隠さなくてもいいってことよ。当たり前ぇのことだろ、男と女なんだからよ」


 にやっと笑ったギーゼ師匠の顔がエロかった。いや、変態おじさんだった。キモいけど、口には出さない。


「とにかく、短く呼び合えるようにしとけ。下手すりゃ、それが原因で死ぬぞ?」というギーゼ師匠の開拓者語録。


 という訳で、ギーゼ師匠の命により、強制的に名前呼びイベントが発生。ちなみに僕らはヤってませんので。本当です。おっさん神様に誓って真実です。イケメン神様の方に誓うと嘘っぽいのでおっさん神様で。


「え、えっと、キリコ、でいいかな? 野間さんみたいに?」

「……ダメ」

「え、なんで?」

「キリコは、あだ名だもん。あたしの名前は理子。リコって呼んでほしい」


 ……何この子のかわいさは? 天使なの、佐々木さん?


「り、リコ……」

「ん。それでよーし。渡くんは、確か……」

「僕の名前は鉄心だから、テツ、で、どうかな?」

「テッシンがいいなー」

「いや、テツの方が短いよね?」

「……せっかく名前で呼び合えるんだから、ちゃんと名前を呼びたいな」


 いやもう、何、この子? 女神なの? それとその上目づかいってワザとだよね?


「テッシン」

「り、リコ……」

「え、えへへ」

「あーうん。な、慣れるまで、照れるね……」

「そうだねー」


 見つめ合って真っ赤になってる僕たちを見て、ギーゼ師匠は盛大なため息を吐いていた。


 そのため息はどんな意味なんですかね、師匠?


 そして、契約した10日間で、ギーゼ師匠からは本当にたくさんのことを学べたと思う。


 ところが……。


「実際、森で寝泊まりできて、一人前なワケよ」というギーゼ師匠の開拓者語録。


 さて、ギーゼ師匠がそんなことを言い出した。


「まー、なんだ。おまえさんたちが、あと5日分、金が出せるんなら、森での野営についてもきっちり教えてやらんこともない。あ、いや、金がねぇなら、無理はすんなよ?」


 もちろん、お金はあるので、無理ではない。


 僕たちは5日間、ギーゼ師匠の指導を延長して、森での野営についても、ギーゼ師匠からしっかりと学んだ。


 服装や防具も更新された。全部、ギーゼ師匠のアドバイスだ。


 足に合うオーダーメイドの編み上げブーツに、けっこう重いマントと、マントの首のところに付けるガード。首の致命傷を少しでも防ぐためらしい。「マントは野宿の最大の味方だぞ? なんで持ってねえんだよ?」というギーゼ師匠の開拓者語録。


 僕は腕をガードする籠手、リコは弓を強く引くための(ゆがけ)を購入した。


 中と外をはっきりと区切ることができるテントと、雨除けのためだけのタープと、どちらも買い揃えた。


 森での宿泊訓練、最終日となる4泊目。


 タープの下で立木を背もたれにして、座って休む夜。


 リコが僕の隣に、自然に座っていた。


「……今日は、ちょっと寒くない?」

「あ、そうかも」

「ね、テッシン」

「何?」

「テッシンのマントの中に、入ってもいい?」

「えっ……」


 リコがその言葉に固まった僕を見上げるように見つめた。だから、そういう上目づかいは反則です。


「ダメ?」

「だ、ダメじゃない……」

「よかった」


 もぞもぞと、リコが僕のマントの中へと潜り込み、首元からひょいと顔を出す。あぐらをかいて座ってる僕の横に女の子座りで座って、寄りかかるような体勢のまま、ちょこんと胸へとすがりつくような感じで。腕は体に回されて抱きしめられて、る、るるる……。


「やっぱり、あったかいねー、テッシンは」


 王都の野薔薇亭では、ずっと背中合わせで寝ていたため、こんな密着度合いはかつてない衝撃の事件だった。


 ぱちぱちとたき火の音が、なんとなく大きくなったような気がする。無意識に『身体強化』を発動してるのかもしれない。1ミリたりとも身体を動かさないようにするために。もうすでに密着度合いで危険な反応は生まれている。これ以上の刺激は劇毒だ。


「ね、テッシン」

「ん?」

「いつも、本当に、ありがとね」


 そう言ったリコは、下から僕のあごの横らへんを、まるで小鳥がついばむようにして、キスをした。アゴチューだ。ほっぺには届かなかったのかもしれない。


 自分の頬が熱を帯び、顔が赤くなってしまったことは理解できている。


 見えないけど、たぶん、リコもそうだと思いたい。リコだけが余裕の表情だったりしたら、軽く死ねる自信がある。


「おい、森ではヤるなよ。森でヤったら死ぬぞ、おめえら」というギーゼ師匠の開拓者語録。


「「ヤってませんから!」」


 僕たち二人の声がそろって、ギーゼ師匠と三人で、わははと笑った。


 僕の下半身に妖怪むっくりもっこりが現れていたけど、リコはそれに気づかなかったんだと思う。たぶん。


 うん。たぶん……。


 正直なところ、破裂しそうなくらい、巨大化してたと思うけどね。気づかれなかったなら、それはそれでいいんだよ。別に小さいとか、短いとか、細いとか、そういうことではないと思うんだよね。あは、あは、あははははは……。




本作はなろう、カクヨムで公開しています(カクヨム先行公開です)。

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