2. ラ・カンパネラのオルゴール
コツ...コツ...コツ...
梯子を上っていく。
「よし、開けるぞ。」
ズ、ズズズズズ...
マンホールのふたをマイロさんがおもむろにずらしていく。
「よし。誰もいないな。今のうちだ。みんな出ろ。」
外に出ると、空にはたくさんの電球がぶら下がっていた。
「アティカス、人間も電球作れるんじゃないか。ほら、上にあんなにたくさんぶら下がってる。」
「ああ、あれは前に話した星ってやつだ。地上には天井がなくてな、代わりに空っていう無限の空間が広がっているんだ。その空間の中に、幾千もの星があって、その中でも光っている星が今俺達には見えているんだ。」
「へー。」
なんだかとてもわくわくした。見たこともない風景や、嗅いだことのない匂い、踏みなれない石畳の感触。すべて新鮮だった。
「さ、おしゃべりしてねーでさっさと素材を集めるぞ。いつシグルズの野郎に見つかるかわからないからな。」
僕たちは素材を集め始めた。
一見通りはきれいだが、少し路地に入るとそこにはいろいろなものが落ちていた。
バナナの皮や犬の死体、割れた酒瓶や壊れた人形、他にもいろいろなものが落ちていた。その中から使えそうなものを回収し、持ち帰るのだ。
「ひっ...!」
何かと目が合った。
よく見るとそれは首の取れかけたクマのぬいぐるみだった。
「どうした!」
アティカスが来た。
「いや、人に見つかったのかと思ったらクマのぬいぐるみだったよ。」
「なんだ、ほんと驚かせるなよ。今の声聞いてルカがどこかに隠れちまったぞ、もう...」
「ごめんって。」
こんな会話をしていると、突然近くに積み上げてあったごみがぬいぐるみの上に落ちてきた。
ガッシャ―ン...ポロロン...
一瞬きれいな音がした。
「アティカス、今の音は何?」
「さあ、俺もこんな音は聞いたことがないな。」
見るとぬいぐるみの首が完全にもげて、中から小さな箱のようなものが見えていた。
「なんだこれ?」
僕はぬいぐるみの胴体を引きちぎって中の箱を取り出した。
「これはオルゴールってやつだな。」
アティカスがのぞき込んできた。
「ほら、ここに取っ手があるだろ。ここをひねるんだ。何回かひねって手を離すと、音楽が流れてくるんだ。」
アティカスに言われたとおりにすると、心地のいい音が流れてきた。そうか、これが音楽なんだ。美しくて、心をきれいにしてくれる音だ。
「初めてでこんなものを見つけるなんてジェリーは運がいいな。大事に持っとけよ。」
「うん、部屋が出来たらそこに飾っておくよ。アティカスもいつでも聞きに来ていいよ。」
「そりゃあよかった。」
「おい、隠れろ。奴が来たぞ。」
突然マイロさんが走ってきた。
「何が来たんですか?」
僕が聞くと、
「シグルズの野郎だ。ここは少しマンホールから遠すぎて、逃げるのは間に合わねー。とりあえずこの崩れたごみ山の中に隠れるんだ。」
僕たちはごみ山の中にもぐりこんだ。
「なんだか臭うなー。くさいなー。クソ溜めに住んでるゴブリンどもの臭いがするなー。どこかなー。出ておいで―。ひっひっひ。」
なんだか恐ろしい人影がこっちに近づいてくる。
ドキドキが止まらなかった。
「お頭、ほんとにここにゴブリンがいるんですかい?」
その人影の奥から別の男の声がした。
「うっせーな。お前は黙ってろ。ここから地下の蛆虫どもの臭いがプンプンしてんだろうが。」
「す、すいやせん。あっし鼻が悪いもんで。」
「へっ、お前は鼻じゃなくて頭が悪いんだ。」
「そんな、お頭ひどいですよ~」
そんなことを言いながら男たちはごみ山の前を通り過ぎた。
はー、よかった
そんなふうに安心したのもつかの間、
ポロン...
手に持っていたオルゴールが鳴ってしまった。
「そこか!クソ虫ども。」
男がごみ山を蹴散らすと、網を振りかざした。
やられる!
そう思った瞬間、僕は突き飛ばされていた。一瞬何が起きたのかわからなかった。
振り替えると、アティカスが網の中で暴れていた。
「今だ、逃げるぞ。全力で走れ!」
マイロさんが叫んだ。
「でも、アティカスが、」
「そんなこと言ってんじゃねえ。さっさと逃げるんだよ。」
そういってマイロは僕を力いっぱい引っ張っていった。
「こいつは檻にぶち込んで工場まで運んでおけ。俺はあのにげてる2匹を追う。」
「了解ですお頭。」
その声の後、すごい速度で走ってくる足音が聞こえた。
「まずい。このままじゃ追いつかれるぞ。もっと全力で走れ。」
「こ、これ以上は...はぁ、はぁ、...無理ですよ。」
「死ぬ気で走れ!」
僕たちはしばらくして気が付いた。
後ろから追ってきた足音がぴたりとやんでいたのだ。
僕とマイロさんは忍び足で恐る恐る様子を見に戻ると、シグルズは何か白い、きれいな布切れを持って立っていた。
「こんなところにこんなものが飛ばされてくるとは。フフッ。これは届けてやらねばな。」
そういうと男は夜の闇に紛れていった。
「あの野郎。アティカスをどうするつもりなんだ。追いかけないと。」
僕はその男を追って走り出した。
「おい、まて、やめろ。危険だ。あの男を追うな。」
マイロさんの声が背後から聞こえた。