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1. 無骨なカプセル

ジリリリリリリリ...ジリリリリリリリ...


けたたましい音が鳴り響き、壁に反響した。

ゼンマイ仕掛けの時計が大音量で鳴っている。


「ふぁーあ...うーん...」


僕は眠い眼をこすって起きだした。

 

「ウギ...ギャオース...」

 

どうやらみんなも起きてきたようだ。

僕たちの朝(?) は遅い。日没の少し前に僕たちは起きる。

そして朝食を済ませると、僕たちは真空ポンプの点検を行う。この真空ポンプがとても大切なのだ。真空ポンプは下水道の壁の中に掘ったトンネルにつながっており、トンネルの内側を常に低い気圧に保っている。この内部はニスで壁からの水の漏出を防ぎ、さらに潤滑油を塗ることで、滑りやすくなっている。ここを、気圧差を用いてカプセルに乗って移動することで、僕たちや地上から拝借してきた物の高速輸送を可能にしている。これがないと僕たちは下水道を延々と歩くことになる。本当に文明の利器様様である。そしてこんなすごい機械を作るのが、ゴブリン随一の技術者、カーシンさんだ。


「カーシンさんおはよう。ポンプの気圧計には問題なかったよ。カプセルとかは大丈夫そう?」


「グギ、グギギギ、ギャーギ。ギギギ。」


多分みんなはゴブリンがなんて言っているかわからないと思うから、今後は人間の言葉に書き換えていこうと思う。ちなみに今回は、

「おうジェリー、そうか確認ありがとな。こっちは特に問題ないぜ。」

と言っている。


「了解、大丈夫そうだね。じゃあみんなと準備をしてくるね。」


「そうか。今日からお前も素材探しに町に行くんだっけな。最近物騒だからな。特にシグルズには気をつけろよ。」


「わかっているよ。じゃあ、きっといいもの見つけてくるから待っててね、カーシンさん。」


「おう!」


そういって僕は素材探しの一団のところにかけていった。



みんなはもう準備を進めていた。


「ジェリー。別に無理に参加しなくてもいいんだ。俺はお前のことが心配だよ。」


僕を育ててくれたアティカスさんだ。


「何言ってるんだよ。僕はもう十分大きくなっただろ。僕もアティカスやみんなと一緒に行きたいんだ。あと、いつも話してくれる地上ってところに行ってみたいし。」


「はっは。アティカスも心配性だな。俺たちはそう簡単には人間なんぞに捕まりやしないよ。だが小僧、油断はするなよ。逃げ遅れたら殺されちまうからな。」


リーダーのマイロさんだ。僕たちゴブリンの中でも頼りがいのある人だが、マイロさんの戦略の十八番は、『戦う』ではなく『逃げる』である。まあ、体の小さくて非力なゴブリンが人に勝るのは、技術力と逃げ足だけだからしょうがない。


「ジェ、ジェリーが来るなら、ぼぼ、僕行かなくてもい、いいんじゃないかな...。ぼ、僕怖いよ。」


ルカさんだ。年下の僕よりもビビりで臆病だけど、素材の優劣や価値を見出すことには長けている。あと、逃げるのは速くないのだが、逃げる判断をするのがとても早い。アティカス曰くそのおかげでまだルカさんは捕まっていない。


「はー...」


マイロさんがため息をついた。


「にしてももう素材集め隊も新人も入ったとはいえたった4人までに減ったか...。いいか、絶対捕まるなよ。いざとなったら集めたものを放り出してでも逃げ切るんだ。別にそれは悪くない。また日を改めて集めに行けばいいんだからな。」


「了解!」


僕たち三人は元気よく答えた。



「おーい。カプセルの準備ができたぞ。」


みるとカーシンさんが手を振っている。


「ありがとよカーシン。今日はベルス通りのマンホール近くまで送ってくれ。あそこは空き瓶が多くて、ガラスの調達にはいいからな。」


「ほー。マイロの旦那はガラスで何作るんで?もしよければこっちで作りますよ。」


「そうだな。」


そういうとマイロさんは僕の背中をドンとたたいた。


「こいつももう一人前だしな。帰ったらこいつの部屋を作ってやらなきゃと思ってな。壁を掘って新しく部屋を増やすにしても明かりがいるからな。まだ銅や電球のフィラメント用の植物の線維はあったはずだが、ガラスは少なくなっていたと思うから取ってくるぜ。」


「わかりましたぜ旦那。じゃ、部屋はこっちに残るもんで作っておくんで、ガラス頼みましたよ。」


「おう。任せときな。」


なんだかとてもうれしかった。みんなに僕も認めてもらえた感じがして、あと新しい部屋が楽しみで、ついほおが緩んでしまった。


「へ、へへ。ジェ、ジェリーがニヤついてるな。」


ルカさんが薄ら笑いしながら僕を見ていた。


「そ、そんなニヤけてなんてないって。もー。」


「なんだ?ジェリー照れてるのか?ほんとお前は子供だなー。」


アティカスまで僕を笑っている。

みんなに笑われて少し恥ずかしかったが、なんだか悪くない気分だった。


「さて、そろそろ人間が寝静まったころだ。出発するぞ。気合入れていけ!」


マイロさんの号令の下、みんなカプセルに乗りこんだ。


「ではカプセルを閉めるぞ。全員無事に帰って来いよ。」


カーシンさんが蓋を閉じると、カプセルはすごい速度でトンネルの中に消えていった。

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