第八十二話
時間は少し巻き戻り12月8日の東京。将和がいない三好家はいつもの朝が訪れていた。
「メシだぞチビッ子どもー」
『はーい』
今日の料理当番である麗蓮がカンカンとフライパンを鳴らすと将和の子ども達が部屋を飛び出して食堂に入っていく。
「はい、揃ったわね。いただきます」
『いただきます』
「うむ、今日も美味いぞ麗蓮!!」
「へいへい、そいつは有難いこった」
麗蓮が作った目玉焼きをご飯に混ぜ込み醤油をかけて食べるクラウディアに麗蓮は苦笑しながら味噌汁を啜る。ラジオを聞いて夕夏達だが不意にラジオからアナウンサーの声が聞こえてきた。
『臨時ニュースを御伝えします。臨時ニュースを御伝えします』
「………」
アナウンサーの台詞に夕夏が箸を置く。
『大本営陸海軍部発表、大本営陸海軍部発表。本日未明、我が帝国陸海軍は西太平洋上において敵米自英軍と戦闘状態に入れり。繰り返します、本日未明、我が帝国陸海軍は西太平洋上において敵米自英軍と戦闘状態に入れり……』
「……始まったわね……」
「まぁ避けられない運命ね」
そう言って味噌汁を啜る夕夏に漬物をポリポリと食べるターニャはそう言う。
「今回はどうなるんですかね……」
「しかし、本当に戦争になったな。それも前回とやらの事か?」
「えぇ、前回はこの東京にも空襲はあって屋敷も一部は燃えたけどね」
「ほぅ、トーキョーが空襲をか。成る程、さながらベルリンも空襲されるだろうな……んぐっんぐっ……」
夕夏の言葉にハンナは牛乳を飲みながらそう答える。
「よく分からんが……マサカズが勝つから問題無いぞ!! 何せ余がいるからな♪」
「はいはい……」
笑顔のクラウディアに食後の紅茶に突入したシルヴィアがそう答えた。
「まぁ何せよ……今度も厳しい戦いにはなるわね……」
夕夏は食後のお茶を啜りながらそう呟くのであった。そして宣戦布告をされ大打撃を受けたアメリカではルーズベルトが吠えていた。
「真珠湾は半年は封鎖されあまつさえ空母2隻も喪失するとはどういう事だ!?」
「そのままの意味ですプレジデント。ジャップは予想以上の戦力を持っていた上に奴らの計画は開戦以前から用意されていたものでしょう」
12月10日、首都ワシントンのホワイトハウスで吠えるルーズベルトにノックス海軍長官はそう答え傍らにいた大西洋艦隊司令長官のアーネスト・キング海軍大将も頷いていた。
「しかも先頃、マレー沖でジャップと自由イギリス海軍が戦闘をして自由イギリス海軍は破れたというぞ」
「ジャップは戦力を隠していた……そう認識せざるを得ません」
「だがそれは開戦以前にも分かっていた事じゃないか!?」
「想定以上の戦力……という事です」
「……まぁ良い、我々が勝てば良いのだ。それで世論はどう見ているかね? 『リメンバー・パールハーバー』は出来るかね?」
「……残念ながら難しいと思われます。鈎にもジャップはパールハーバーを攻撃する前に宣戦布告をしています。また、記者会見で発表していますので騙し討ちまでには……」
「クソ、忌々しいジャップめ……それで真珠湾が半年は使えないとすれば太平洋艦隊の根拠地はどうするかね?」
「……サンディエゴかダッチハーバーかそれかハワイ諸島のマウイ島です」
「ふむ、マウイ島か」
「はい、マウイ島は近辺にモロカイ、ラナイ、カホオラウェ島の島々があるので各島に水上機基地等を建設して対潜警戒をすれば何とか……それにオアフ島からの航空戦力にも支援は可能です」
「ふむ……宜しい、ならば根拠地をマウイ島にしたまえ」
「分かりました。そのように」
「それで……海軍の建艦計画だが……」
「やはり空母です。空母を第一に建造配備すべきです」
そう力強く主張するのはキング大将だった。そのキングの言葉にルーズベルトは頷く。
「既に『エセックス』級が数隻建造中だが?」
「数が足りません。ジャップに……アドミラル・ミヨシに対抗するなら『エセックス』級は少なくとも30隻は必要です」
「フム……」
既に米海軍は『エセックス』級空母の4隻(『エセックス』『ボノム・リシャール』『イントレピッド』『キアサージ』)を発注し1940年から建造を開始させていた。史実より早い建造は第二次ロンドン軍縮条約のエスカレータ条項を1937年に発動する取り決めをしていた事で『エセックス』級4隻と『ヨークタウン』級1隻(『ホーネット』)を建造する事を決定したのだ。
「分かった。議会には大量建造という形で話を通そう」
「ありがとうございますプレジデント」
斯くしてアメリカも戦時へと動き出す。そしてその隣の国である自由イギリス政府の首都オタワではウィンストン・チャーチルが怒号を放っていた。
「おのれジャップ!? ヒトラーを倒さねばならないこの時にぃ……」
チャーチルは怒りの余り葉巻を握り潰す。
「それで……東南アジアの戦況は?」
「芳しくありません。敵はマレー半島のコタバル等に上陸後はシンガポールを目指しています」
「だろうな。シンガポールを抑えたらその先はインドネシア等の資源地帯だ」
「他にもボルネオ島等にもジャップが上陸しています」
「東洋艦隊は?」
「シンガポールに残っていた部隊はセイロン島に撤退をしました」
「ム。それならまだ戦力は残っているから如何様にも出来よう」
「それと……」
「何かあるのか?」
「実は日本の大使が来ています」
「何?」
部下の報告にチャーチルは眉を潜める。
「何を今更……既に宣戦布告の文書は貰っているぞ」
「我々にもトンと理解が……」
「……まぁ良い。兎に角会おう」
入ってきたのは吉田茂駐自英大使だった。
「おぉ、ミスターヨシダじゃないか」
「御無沙汰していますチャーチル卿」
意外な事にチャーチルと吉田は妙に馬があっていた。互いに葉巻好きであった事も拍車をかけていたのであろう。チャーチルは吉田をソファに座らせ自身が持っていた葉巻入れから葉巻をあげる。
「キューバ葉巻ですな」
「左様。キューバは此処から近いからな」
互いに葉巻に火を付け一服をする。切り出したのは吉田からだった。
「此度の戦……我が日本は落とし処を考えております」
「ほぅ……落とし処かね? 破竹の勢いではないかな?」
「破竹の勢いではありますが限界点というのがあります」
「……何を要求かね?」
「内々より日本から提示を受けました」
そう言って吉田はチャーチルに書類を提出する。書類には以下の内容が記載されていた。
・日本とアメリカが和平を結ぶ際の仲介を任されたい
・仲介を引き受けるならボルネオ島以外は返還する。なおボルネオ島は日本に譲渡する
・日本が鹵獲した兵器、捕虜を返還する
・自由イギリスに対し日本は兵器の供与を行う
等々記載されていた。書類を一読したチャーチルは溜め息を吐いた。
「脅迫ではないかなヨシダ?」
「私もそう思いますよチャーチル卿。当初は占領した地域の返還は無かったので修正しましたよ」
「君の独断でかね?」
「貴方との友情のために」
「……ッ…」
吉田の言葉にチャーチルは手で目を抑えかけたが寸でで抑えた。
「……その友情には感謝をするヨシダ。だが政府を束ねる者として受け入れるわけにはいかない」
チャーチルの言葉に吉田も予想していたのか頷くだけだった。
「分かっておりますチャーチル卿。今日はこれで帰りますが私の窓口は何時でも開いております」
「ウム。それと今度茶会をするつもりだがどうかね?」
「……敵国ではありませんかな?」
「私人としてだよヨシダ」
「成る程。なら私人として私も伺いましょう」
チャーチルの言葉に吉田は笑みを浮かべ退出するのである。吉田が退出した後、チャーチルは再度葉巻に火を付け煙を吹かし一服する。
「……同盟……か……」
チャーチルの心境はどのようなものであったでろうかはチャーチル自身にしか分からないのであった。
12月16日、米太平洋艦隊司令長官にニミッツ少将が大将に昇進してハワイオアフ島の仮司令部に入った。
「お待ちしていました長官」
「傷はもう良いのかね?」
「自分は軽傷でしたので……」
ニミッツを出迎えたのは情報参謀のレイトン中佐であった。
「それで艦隊は?」
「マウイ島で待機しています」
残存艦艇で編成されたウィリアム・パイ中将の戦艦戦隊等はマウイ島で投錨していた。水道を封鎖している『ネバダ』の撤去も暫くは掛かるからやむを得ない処置である。
「空母も持ってきて貰わないとな」
「『サラトガ』だけでは対処出来ませんからな」
「『ワスプ』以外は全部持ってきてほしいがな」
「そこは何とも……」
ニミッツのボヤキにレイトンはそう答えるのであった。
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