第八十一話
「撃ち方初めェ!!」
『伊勢』に搭載された50口径41サンチ連装砲4基が交互射撃を開始する。それに続いて『日向』『但馬』『越後』も射撃を開始する。
「『高雄』を沈めさせるわけにはイカン!!」
『高雄』の自己犠牲精神に二艦隊の将兵は涙を流し怒りに震えながらその士気を起たせた。その効果があったのかは分からないが『日向』が放った砲弾は『プリンス・オブ・ウェールズ』の後部砲塔のターレットに突き刺さって爆発、後部砲塔は射撃不能になってしまった。
だが『ネルソン』が御返しにと『越後』に4発の砲弾を叩き込む。
「『越後』炎上!!」
「構うな!! 狙うは旗艦ただ1隻のみ!!」
『愛宕』の艦橋で近藤が吠える。
「二水戦の田中と四水戦の西村に下命!! 『突撃せよ』!!」
近藤のある意味で簡単な命令にそれを受け取った二水戦司令官田中少将と四水戦司令官西村少将は苦笑する。
「良かろう、ならば『神通』が道を開く。探照灯照射!!」
日付が12月10日に変わった0021、第二水雷戦隊旗艦『神通』は貴下の駆逐隊の突撃を支援するため最大戦速で自由イギリス艦隊に突撃し大破した『高雄』同様に探照灯を照射したのである。そして『神通』から貴下の駆逐隊に向けて隊内無線が流れた。
『全艦突撃せよ!! 神通に続け!!』
更に『神通』に遅れて10数秒後には第四水雷戦隊旗艦『那珂』も探照灯を照射しながら突撃を開始するのである。
「クソッタレ!! 奴等は恐いもの知らずか!! 先に奴等から片付けろ!!」
探照灯を照射しながら突撃してくる二水戦と四水戦にフィリップスは罵倒しながらも照準を『神通』『那珂』に向けさせたのである。
『神通』は『コーンウォール』から砲撃を受けた。三斉射目までは被弾しなかった『神通』だが四斉射目で遂に被弾した。
Mark8 20.3サンチ砲弾が『神通』の後部カタパルトを吹き飛ばし煙突も二本吹き飛んだ。『神通』は炎上するもそれでも14サンチ砲での砲撃を止める事はしなかった。
「司令、退艦を。『神通』は大破してこのままではいつ爆沈するかも分かりません」
「ならん。二水戦は引かん!!」
「ならばこそです。ならばこそ司令は退艦をして頂きたい。おい、お前ら司令を連れ出せ」
「待て河西!? おい、離せ、離すんだ!?」
大破炎上した『神通』から田中少将は二水戦司令部要員や『神通』艦橋要員達から引き摺られる形で退艦がなされたのである。なお、『神通』は大破炎上しながらも海戦が終わり沈むまで砲撃が絶える事はなかった。
また、『那珂』も『ドーセットシャー』からの執拗な砲撃に被弾炎上し往き足は停止し負傷した西村少将が田原艦長に支えられながら退艦するのである。
だが、この2隻の時間稼ぎによって各駆逐隊は最適射点に到達し必殺の酸素魚雷を次々と発射したのである。
「時間!!」
最初に酸素魚雷が命中したのは『神通』を大破炎上させた『コーンウォール』だった。『コーンウォール』は右の土手っ腹に4発の酸素魚雷をマトモに命中して爆沈したのである。
「甲巡爆沈!!」
「良し、次発装填急げ!!」
「敵艦発砲!!」
次にやられたのは『早潮』だった。『早潮』は『アンソン』から放たれた38.1サンチ砲弾をマトモに食らい『早潮』は爆沈したのである。
「『早潮』爆沈!!」
「クソッタレ!!」
爆沈報告に近藤が吠える。
「二戦隊の様子はどうか?」
「現在、『但馬』『越後』が被弾炎上中ですが砲撃は続行中との事です。また『伊勢』『日向』は無傷であり引き続き砲撃中です」
「第十六駆『雪風』より入電!!」
「読め」
「『二水戦所属駆逐隊、次発装填完了。我、再突入ス』以上です」
この時、一旦は戦場を離脱した二水戦と四水戦の駆逐隊は酸素魚雷の次発装填を完了し再度突入を開始していた。
「敵駆逐隊、接近します!!」
「蹴散らせ!!」
フィリップスはそう叫び、『アンソン』『レパルス』らは駆逐隊に砲撃する。この砲撃で二水戦八駆『荒潮』十五駆『夏潮』四水戦二駆『春雨』『五月雨』九駆『夏雲』が撃沈するも各駆逐隊は自由イギリス艦隊との距離7200で酸素魚雷を次々と発射する。
「てめぇらの命……後数分…だ……ぜ……」
沈み行く『春雨』の酸素魚雷発射管の外で致命傷のため退艦を拒否した古参の水兵が自由イギリス艦隊の方向を見ながらニヤリと笑い息を引き取る。
水兵が呟いた数分後、自由イギリス艦隊は酸素魚雷の攻撃を浴びる事になる。
「被害知らせ!!」
「右舷に魚雷命中!! 速度11ノットまで低下!!」
「『レパルス』被雷!! 右舷へ大傾斜!!」
この魚雷攻撃で『ネルソン』は右舷2発、『レパルス』は右舷4発が命中し大傾斜となる。
(……此処まで……か)
フィリップスは負けを悟り脳内に撤退の二文字が流れてきた時、水上レーダーが北上してくる艦隊を探知したのである。
それこそ、南雲中将率いる南遣艦隊であった。しかも南遣艦隊は41サンチ三連装砲を搭載した『河内』型戦艦の五番艦『備前』六番艦『常陸』が配属しておりマトモにぶつかれば自由イギリス東洋艦隊も危うかった。
「全艦、バラバラでも構わないからこの戦場から離脱!! 殿は『ネルソン』が引き受ける!!」
この時点で自由イギリス東洋艦隊は巡戦『アンソン』甲巡『コーンウォール』『ドーセットシャー』駆逐艦4隻を喪失しており『ネルソン』『プリンス・オブ・ウェールズ』『レパルス』も被弾炎上しており艦隊行動に支障を来していた。
「逃げようとするか……だが遅かったな」
南遣艦隊旗艦『備前』艦橋で南雲中将は遁走しようとする自由イギリス東洋艦隊を見てニヤリと笑う。『備前』『常陸』はまだ動ける『プリンス・オブ・ウェールズ』に狙いを定めて砲撃を執拗に繰り返す。この砲撃で7発が命中した『プリンス・オブ・ウェールズ』は大火災発生となる。それを見た三水戦司令官橋本少将は突撃を発令した。
「三水戦は突撃せよ!!」
三水戦が突撃しそれを確認した自由イギリス東洋艦隊の生き残りも砲撃する。この砲撃で十二駆『東雲』『白雲』二十駆『朝霧』『夕霧』が撃沈されるがそれでも三水戦は最適射点から酸素魚雷を次々と発射して離脱する。この雷撃で『プリンス・オブ・ウェールズ』に4本、『レパルス』に3本が命中しこれが致命傷となったのである。
更に流れ弾として『ネルソン』の艦尾にも1本が命中、この1本が『ネルソン』の運命を変えたのである。
「駄目です、このままでは半島に……」
『ネルソン』の舵が破壊され半島ーークアンタン方面に進むしか選択が無かったのである。そうこうしているうちに駆逐隊(三水戦)が接近していた。『ネルソン』の周囲には味方の駆逐艦はいない、フィリップスが退避を命じていたのだ。
「構うな、このままクアンタンに座礁して固定砲台と化して敵軍の進撃を遅らせる」
「敵駆逐艦発砲!!」
その時、接近してきた駆逐艦ーー『雪風』ーーが発砲してきた。その砲弾は『ネルソン』の艦橋に飛び込んできたのである。幸いにも砲弾は不発弾だったがフィリップスを負傷させる事には成功するのであった。
その後、『ネルソン』は駆逐隊に包囲された。反撃しようにも撃てる砲は無に等しく抵抗も無駄だった。
「降伏する。日本国旗と白旗を掲げよ、それと平文で降伏すると伝えよ」
軽傷だった『ネルソン』艦長は乗員を救うために降伏を決意、直ちに日本国旗と白旗が掲げられたのである。そして重傷を負ったフィリップスの意識が回復したのは第二艦隊旗艦『愛宕』の医務室だった。
「トーマス・フィリップス司令長官ですな。私は日本海軍第二艦隊司令長官の近藤です」
「……如何にも。私はトーマス・フィリップスだ」
「傷が思ったより深かったので『ネルソン』から『愛宕』に移乗しました。あぁ『ネルソン』は沈んではおりません故御安心を」
「沈んでいない……となると鹵獲ですかな」
「察しが早くて助かります。『ネルソン』は現在、戦艦『伊勢』が曳航しています」
降伏した『ネルソン』は比較的損傷が軽い『伊勢』に曳航されて海南島へ向けて航行していた。海南島には『明石』型工作艦二番艦『三原』三番艦『桃取』が待機しており損傷艦艇は海南島で修理を受ける予定だった。
「それと捕虜の取り扱いについてはジュネーブ条約を遵守致しますので御安心を」
「分かりました。アドミラル・コンドーを信じます」
ベッドに横たわるフィリップスは近藤にそう言うのであった。
マレー沖海戦の被害は以下の通りであった。
日本海軍
沈没
乙巡
『神通』『那珂』
駆逐艦
『早潮』『荒潮』『夏潮』『春雨』『五月雨』『夏雲』『東雲』『白雲』『朝霧』『夕霧』
大破
戦艦
『但馬』『越後』
甲巡
『高雄』
中破
戦艦
『日向』
小破
戦艦
『伊勢』『備前』
超巡
『伊吹』
自由イギリス東洋艦隊
沈没
戦艦
『プリンス・オブ・ウェールズ』
巡戦
『レパルス』『アンソン』
甲巡
『コーンウォール』『ドーセットシャー』
駆逐艦7隻
鹵獲
戦艦
『ネルソン』
「そうか……トーマスが捕虜……か」
将和がマレー沖海戦の全容を知ったのは内地に帰還途中だった。
(まぁトーマスが生存出来たから良し……とまで言えるもんかな……)
将和はそう思うのであった。斯くして日本軍は真珠湾作戦、マレー沖海戦を乗り越える事に成功するのである。
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