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第七十三話







「お待ちしていました三好中将、会議室は此方になります」

「ん」


 翌朝、将和は0700には海軍省に来て佐官からの案内の元で会議室に入室する。まぁ2時間も前なのでまだ誰もいなかった。だが、数分後に将和の来訪を聞き付けたのか宮様が一人で入ってきた。


「宮様」

「済まんな、緊急の呼び出しで……」

「いえ……何かあったので?」

「ウム……ひとまず言えるのは前回の戦争で我々は戦略的な構想を持っていなかったという事だ」

「……となると緊急の会議というのは……」

「まぁそう言う事だ。後、貴様には4月からまた一航艦を率いてもらう」

「……まぁ運命でしょうな……」


 宮様の言葉にそう呟く将和であった。そして0850には多くの将官が会議室に勢揃いしていた。


 海軍大臣 吉田善吾中将

 海軍次官 豊田貞次郎中将

 軍務局長 井上成美中将

 海軍艦政本部長 豊田副武中将

 海軍航空本部長 三好将和中将

 横須賀鎮守府司令長官 長谷川清中将

 聯合艦隊司令長官 堀悌吉中将

 支那方面艦隊司令長官 山本五十六中将

 軍令部総長 伏見宮博恭王大将

 軍事参議官 米内光政大将



 等々以下の面々が勢揃いしていた。最初に立ち上がったのは宮様だった。


「本日は緊急の会議に参加して真に嬉しく思う」

「宮様……本日の召集は如何なる事でしょうか?」


 最初に口を開いたのは軍務局長を継続中の井上中将であった。


「ウム。諸君らも知ってはいるが……現時点での仮想敵国はアメリカ……この認識で良いかな?」


 宮様の言葉に将和らは頷くが山本や井上らは苦々しそうに頷いていた。彼等にしてみれば公言はなるべくやめてほしかったのだろう。


「そこで諸君らに問いたい……仮にアメリカと戦うとして、かつての日露のように短期で戦争が終わるかそれても長期間になるか、諸君らの意見を聞きたい」

『………………』


 宮様の言葉に部屋の空気が一変した事を将和は肌で感じた。いや、それはこの部屋にいる全員であろう。沈黙が続く中で口を開いたのは山本五十六だった。


「恐らくですがもし米英と戦になれば半年から一年程度は暴れてはみせるでしょう。然しながら2年、3年となれば私は全く確信は持てません」

「本官も賛同します。アメリカの工業力を侮ってはいけません」


 山本の考えに井上も賛同し米内も頷くだけ見せた。その様子に宮様は頷き周囲を見渡す。


「他には?」

『………………』


 誰もが沈黙を通す……と思われていたが椅子から立ち上がったのは将和だった。


「三好中将」

「自分の見立てでありますが……短期的に見れば山本中将の意見に賛同します。しかし、前後をシッカリと組み合わせれば少なくとも5年程度は戦えるでしょう」

『5年!?』


 将和の言葉に山本達は驚愕し将和の顔を伺う。それに対して口を開いたのは米内だった。


「三好中将、その根拠は勿論あるのであろうな?」

「無論です」


 将和はそう言って端に添えつけられた世界地図に歩み寄る。


「貴方達に問いたい……日本は何に囲まれている?」

「何をとは……海でありますが……」

「そうです。我が国は四方を海に囲まれています。そのため、我が日本は明治より海軍力の整備に務めてきました」

「それで?」

「要は……我々はイギリスを真似したら良いのです」

『イギリスを?』

「貴官の言葉には今一つピンと来ないが……」


 米内は苦々しく告げるが将和は何処を吹く様子だった。


「ではイギリスの地図を見ましょう。今、イギリスはドイツと戦争をしていますね、つい先日からバトル・オブ・ブリテンも始まりましたしドイツは『海を四方で囲まれたイギリス』に包囲網を敷こうとしています」

「……成る程、そう言う事か」


 将和の言葉に答えを見出だし、納得したように頷いたのは清だった。


「長谷川中将、何か分かりに?」

「なに、簡単な事だ。イギリスは包囲網を敷かれているが落ちていない、その理由は? 護衛艦隊が踏ん張っているからだ」

「その通り」


 将和はニヤリと笑う。


「ドイツはイギリスと戦争を始めた時、Uボートによる通商破壊作戦を展開していますがイギリスは護衛艦隊を編成する事で輸送船団をUボートから守っています」

「成る程。前後というのは前が聯合艦隊、後ろが護衛艦隊か……」


 将和の言葉に堀は納得したように頷く。まぁ堀も前回を知っていたから堀を味方にする事が出来たようなモノである。


「そうです。ww1もイギリスはUボートに苦しめられましたが前後をシッカリとしていたので戦争から脱落する事はありませんでした。なので我が海軍は前後がシッカリとしておけば、米英との戦の時は5年程度は戦える。自分はそう認識しています」

「成る程。他には?」

『……………』


 宮様は周囲を見渡すが誰も沈黙を通した。


「分かった。最短でも半年、長くて5年を想定しよう。それで次だが……仮に戦争になったとして……どの辺りまでの占領地域になると思われるか?」

『………………』


 宮様の言葉にまたしても誰もが沈黙を通した。特に山本や井上に至っては視線がそれだけで人を殺せたら……という程の視線であった。無論、宮様はその視線も気付いており苦笑する。


「言っておくがワシとて無闇に占領地域を拡げるつもりは無い。だが日本は四方を海に囲まれている島国だ。護衛艦隊が守る輸送船団が無いと日本は干乾しになるからな。そこを考慮してほしい」


 宮様にそう言われ山本達も成る程と頷き、井上が立ち上がる。


「燃料の観点から南方の資源地帯は攻略の対象に入るでしょう」

「北樺太の油田では無理か?」

「平時の場合はやれなくはないでしょう。しかし、有事であれば燃料の消費は大きくなるのは世の常です」

「その資源を内地に持って帰るには多数の輸送船が必要です。そしてそれを護衛する艦隊もです」

「護衛艦隊については4月に総司令部と共に創設予定だ。司令長官には長谷川中将……君にやってもらいたい」

「ハッ、船団護衛についてはお任せください」


 宮様の言葉に清はニヤリと笑う。その様子に米内は面白くない表情だったのを将和は見逃さない。


(フン、自分の掌で踊らないから気に食わない……か……)


 将和はそう思いつつ温くなったお茶を啜り口を開く。


「海軍航空本部としての見解を述べる。海軍航空本部としては航空機のエンジン部品の開発にニッケルやコバルトの資源が必要であるという事は主張する」

「では三好中将、ニューカレドニアまで攻め込むと……?」

「そうは言っていない。しかし、航空機の製造に必要な資源がある場所はそこだという事だ」

「グッ……」


 将和の答えに井上は表情を歪める。部屋の空気が重くなり始めた事で宮様が口を開いた。


「……まぁそう言った意見もあろう」


 取り敢えずはそう濁す宮様であった。そして会議も休憩を挟みつつ1900頃には終了したが将和は宮様に呼ばれた。


「やはり占領地域は前回と同じか」

「ハッ、北樺太や遼河油田があろうと民間で必要になる量もあります。故に……」

「ニューカレドニア……引いては豪州を此方側に引き込むか……」

「豪州は広大です。海上封鎖しかありません」

「だろうな」


 宮様は溜め息を吐きながらお茶を啜る。


「……4月の人事異動は楽しみにしておきたまえ」

「お手柔らかにお願いします」


 そう言う将和だった。








御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 小物感丸出しの海軍三羽烏。 三周目はより物語が深いです。
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