第七十二話
「え、正門で問題が?」
『はい。頻りにアンミラーリオ・ミヨシ……三好長官ですね、三好長官を出せと……』
数日後の朝、将和を送り出した後に正門からの電話を夕夏が受け取る。
「アンミラーリオ……あっレティシア?」
「あらどうしたのユーカ?」
そこへ子ども達の洗濯物を洗濯かごに入れて洗濯機(芝浦製作所製)に行こうとしていたレティシアに声をかけた。
「アンミラーリオって言葉知っている? 多分ヨーロッパだと思うのだけれど……」
「アンミラーリオアンミラーリオ……分からないわね。マサカズ絡み?」
「いつもの如くね」
レティシアの言葉に夕夏は苦笑しながら肩を竦める。
「仕方ないわね、中に入れて待っててもらいましょうか」
「それもそうね」
夕夏はそう言って正門の陸戦隊員に女性を通すように伝え自身が会いに行くのである。そして将和はというと、空技廠に視察に来ていた。
「フム……これがネ12か」
「はい、現時点では最良のターボジェットエンジンです」
将和にそう説明するのは種子島少佐であった。
「推力は?」
「凡そ350kgです。ユンカースユモ004の試作機には現時点では負けていますが現在開発中のネ20では推力700kg、更に永野大尉のグループがJ3の開発で予定推力1500kgとしています」
「ん。何とか順調ではあるな……」
これもヘルマンが防共協定でハンス・フォン・ オハインを日本に派遣してくれたおかげでもあった。更にヘルマンは004の設計図も提供してくれたおかげで日本のジェットエンジン開発は順調であったのだ。
また、種子島少佐と永野大尉も前回の記憶持ちだった事もあり開発は障害とかもなかったのだ。
「俺の後任の片桐にもネエンジンの事は伝えてあるし予算も都合を付けてくれるだろう」
「ありがとうございます。それとこいつらを載せる機体ですが……」
「ウム、ネエンジンは今のところは橘花だろうな」
「やはりそうなりますか」
「あぁ……だがJ3については……初鷹の機体を元に作らせている」
「成る程……あの機体ですな」
将和の言葉に種子島少佐は頷く。初鷹ことT-1は史実でも練習機として航空自衛隊の若鷲達を鍛え大空へと舞い上がらせていた実績を持っていた。
「あの機体なら第一次ジェット戦闘機世代に数えられるし暫くは大丈夫だろう」
「確かに……分かりました。永野君にもそう伝えておきます」
「急がせるのは良いが無茶はするなと伝えておいてくれ」
「本部長、そろそろ……」
傍らに控えていた秘書官役の少佐がそう告げる。
「時間か、次は愛知の三菱に行かんとな……」
「例の……あれですか?」
「そうだな」
種子島少佐の言葉に将和は頷き、そのまま空技廠を出て輸送機で各務原飛行場へと向かうのである。その各務原飛行場では堀越達が将和を待っていた。
「済まない、遅くなったな」
「いえ、問題ありません。早速お見せします」
そして堀越の案内で1機の試作艦上戦闘機が鎮座する格納庫に向かう。翼を休めている機体を見て将和は感慨深いように深く息を吸って吐いた。
「やはり……この機体になるか……」
「ですが前回よりも性能は向上しています。後は三好中将が制式採用の書類に判子をPONと押してくれたらこいつは……零式艦上戦闘機22型として採用されます」
堀越はニヤリと笑いながら鎮座する十二試艦上戦闘機11号機に視線を向ける。以下がその性能諸元である。
『零戦22型』
全幅 11.0m
全長 9.121m
全高 3.57m
翼面積 21.30m2
自重 2,700kg
正規全備重量 3,400kg
発動機 栄32型(離昇 1380hp)水メタノール噴射装置付
最高速度 586km/h
航続距離 1220km(正規)/2350km(400L増槽付)
武装
主翼 99式20ミリ機銃2挺(各200発)
99式13.2ミリ機銃2挺(各350発)
30kg又は60kg爆弾2発
97式一番二八号噴進弾6発
【概要】
堀越二郎が本命とも言える開発した零戦22型である。元は史実の零戦五三型がモデルであった。
堀越は前回と同様に防弾にも力を入れており、一式戦『隼』を開発した小山技師と航空業界の重鎮になりつつあった三好中将に協力を仰ぎ、防弾装備はほぼ『隼』を真似ている。そのため史実五三型より多少の重量が増加している。(例 操縦席後部に13mm厚・合計三枚・合計48kgの防弾鋼板(12.7ミリ弾対応))
発動機は中島が社の威信をかけて開発した栄シリーズの最新作である三二型でありしかも水メタノール噴射装置付である。発動機は開戦前から開発に成功していた事もあり稼働率は常に90%以上を確保していた。
武装は94式艦戦から引き続きの97式13.2ミリ機銃を二丁、20ミリ機銃は更に見直しにより弾数を増やした20ミリ二号機銃四型が零戦に搭載され整備の観点から主翼に全て搭載している。
航続距離については胴体下に400Lの陸海統一型一型増槽を搭載する事で2350kmの航続距離を何とか保有する事が出来てはいる。
開戦時には一航艦の全空母全てに搭載しており発艦は小型ロケットによる発艦だった。更に基地航空隊の第十一航空艦隊にも配備されており比島を航空攻撃している。
また通信装置は史実の三式空一号無線電話機が99式空一号無線電話機として開発・採用され搭載している。
開戦時から戦争中期まで第一線で使用され後期からはビルマ方面や大陸方面に行動を移したがベテランパイロットが操る22型は連合軍の新型機(スピットファイア、F6F、P-38等)を寄せ付けぬ程であった。特に空戦性能については自動空戦フラップを採用した事で機体の重量増加をものともせずに軽快な空戦が可能となり連合軍パイロットからは「気付けば後ろを取られていた」と証言しているのが多々ある。
また、新型無線機のおかげでサッチ・ウィーブへの対策も容易となり現に考案者のサッチ少佐は後のミッドウェー海戦でサッチ・ウィーブを試すも途中から参戦してきた1機の零戦22型に隊形を崩されそのまま撃墜している。
なお、サッチ少佐を撃墜したのは宮部というパイロットらしいが乱戦で入り乱れているので確たる証拠は無かったがサッチ少佐が撃墜されたのはハッキリとしている。
なお、中期には金星発動機と更に防弾装備を見直した53型が投入されるのである。
「こいつなら何とかやれます」
「ウム。ところで……」
「大丈夫です。乗っても良いですよ」
「そうか」
堀越の言葉に将和はニヤリと笑い返し飛行服に着替えてそのまま乗り込んで離陸するのであった。その日、将和は各務原飛行場に一泊してから翌朝に自宅に戻ると出迎えたのはメイド服姿のクラウディアと夕夏だった。
「お帰りなさい」
「お帰りなのであるアンミラーリオ・ミヨシ!!」
「……何でいるの?」
フンスと鼻息を荒く将和を出迎えるクラウディアである。
「貴方が蒔いた種でしょう」
「ウグッ……心当たりがあの時しか無くてどうしようも無いが……」
夕夏の言葉に将和は言い返せなかった。将和は溜め息を吐きながらもクラウディアに向き合う。
「戻る気は無いんだな?」
「無い!!」
将和の問いにニカッと笑い答えを返すクラウディアであった。
「あ、父上から手紙を預かっているのだ」
「それを先に言いなさい」
手紙を渡された将和は手紙の封を切り中身を見る。
『本当にスミマセンスミマセンスミマセン。言い出したら言うことを聞かない娘です。でもアンミラーリオ・ミヨシなら娘を幸せに出来ると私は思います。少なからずイタリア本土が戦場になる可能性が大のこの御時世……アルベーニの血筋を残したい私の我が儘も多少含まれております。私達の大切な娘を……よろしくお願いします』
(お父上はイタリア本土が戦場になるとまで予測している……見殺しには出来んわな……)
この瞬間、将和はイタリア支援の案を練り出す事になるのであるがそれはさておき、将和は手紙を仕舞いクラウディアに視線を向ける。
「あー、クラウディア」
「ディアで良いぞ」
「そうか……ディア。本当に俺で良いのか? 話は聞いているんだろ?」
「それは愚問というべきだぞアンミラーリオ・ミヨシ」
そう言ってクラウディアーーディアは胸を張る。
「古代ローマの王朝であるユリウス=クラウディウス朝の末裔がニホンの英雄と夫婦になるのだ。むしろドンと来いである!!」
ニヒィと笑うディアに将和は苦笑しソッとディアの唇に這わせた。ディアは一瞬の事にポカンとしたが将和の行動を理解して一気に顔を真っ赤にするのである。
「ちょ、ちょっと恥ずかしいな……」
(そっち方面は弱いのかな……)
そう思う将和だった。なお、夕夏は「はいはい、いつもの事」と新しい家族に満面の笑みを浮かべていた。そこへシャーリー(メイド服)がパタパタとやってきた。
「お、いたいたマサカズ。宮様から電話が来て0900に緊急の会議を行いたいから海軍省に来てほしいってさ」
「緊急の会議?」
シャーリーの言葉に首を傾げながらも翌日に海軍省に向かうのであった。ちなみにその日の晩にはディアとよろしくやったのは言うまでもないのである。
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