第六十六話
「全く、三好君は羽目を外し過ぎではないのかね?」
いつもの会合で宮様は苦笑する。廻りの東條や杉山達もそうである。視線の先にある新聞には将和の記事が書かれていた。
『あぁ天晴れ。世界の撃墜王、未だ衰え知らず』
『長春爆撃を企図したソ連爆撃隊を三好隊が撃滅』
『更に撃墜数を伸ばした』
長春爆撃の件が報道にさっぴかれており陸海関係者は苦笑せざるを得なかったのだ。ちなみに撃墜数は更にもう一度迎撃戦に参戦したので356機になっていた。流石に将和も塚原達に「頼むからやめよう」と言われたので実戦は諦めたが誰かが語呂合わせで「356(皆殺し)」と言ったのでパイロット達からは
「ソ連機を皆殺しにする三好の旦那」
「いやいや立ち憚る敵を皆殺しにする三好の旦那だぜ」
「女の撃墜数は増やさないのか?」
「それは言わぬが仏だぞ」
「ちくわ大明神」
「誰だ今の」
そんなこんなで話題持ちきりだったりする。
「まぁそれはさておきだ。やはりハルピン攻略を?」
「取り敢えずはそこまでやってから再度守勢に回ります。相手はソ連ですから攻勢を続ければ限界点が出てきます」
「チチハルまでは行けない事もないですが……補給を分断される恐れもあるので」
「フム。まぁ撫順と鞍山も無事だったから良しとしよう」
撫順と鞍山には日米共同で出資している炭鉱と満州製鋼所(史実の昭和製鋼所)があり日米共同で運営していたのだ。しかもアメリカも出資していたので生産力は1938年の時点で300万トンの生産が可能となっていたのだ。
「長春の米軍も今のところは我が軍の動きを支持しています」
「だろうな」
長春に駐屯する米第一騎兵師団(旅団から格上げされ本国から更に部隊が増加されていた)も今のところは何も行動はしていなかった。ただ、騎兵師団に配属されていた第一戦車大隊では司令官のパットン大佐がしきりに日米共同で当たるべしと叫んでいたとか。
「追加の師団はいけそうか?」
「内地防衛を考えますと……新規師団しかないかと……」
「どれくらいになる?」
「ソ連相手ですと十個師団は最低です」
永田の言葉に宮様達は唸る。
「そうなると歩兵連隊も四個から三個に減らして三単位師団になると思います」
「……一先ずは五個師団創設でやってもらいたい。出来るか?」
「分かりました、やってみましょう」
なお、予算は増額されるので五個師団の創設も問題はなく行われた。これにより第21師団、第22師団、第23師団、第24師団、第25師団が歩兵三個連隊の三単位師団として創設された。また、書類上ではあるが第26~第30師団も念のために創設されている。
それはさておき7月7日、七夕と世間では言われているがハルピン郊外では日ソ両軍の戦闘が展開していた。
「チハを先頭に前進せよ!!」
関東軍総司令官の寺内大将は後方で指揮をしていた。ハルピン攻略には四個師団と三個独立旅団を主力に第一戦車連隊に一個野戦重砲兵旅団も参戦していた。更に上空では日ソ両軍の戦闘機が熾烈な空戦を展開していたが日本側が押していたのは目に見えていた。
「こいつで……2機目っと」
『それ、先日も言いましたね』
『流用じゃないから』
(メタい事言うなよ……)
将弘は試作5号機の十二試艦上戦闘機に乗る将弘は2機目を撃墜しながら地上を見ると低空を這うように3機の航空機が飛行していた。
「あれは……ハンナさん達か」
低空飛行していたのはハンナとシルヴィアにグレイスだったが主に低空飛行していたのはハンナである。
「ハハハハハハ!! コイツはいい!! コイツはいいぞ!!」
十一試艦上爆撃機試作3号機(防弾装備を施し金星発動機を搭載)に乗るハンナは笑いながら両翼下に搭載された試作毘式40ミリ機関砲(『長門』等に搭載していた毘式40ミリ機銃を対地攻撃に改装した物)を発射する。単発で左右一発ずつ撃ち出された40ミリ弾はハンナが狙っていたBT戦車の砲塔上部に命中、走行していたBT戦車は動かなくなった。
「よしよし、撃破1だな」
『当たり過ぎだろ……』
『天賦の才というやつか……』
ハンナの後方を飛行するグレイスとシルヴィアがそう呟くがハンナは笑う。
「ハハハハハハ。天賦の才ではないな、マサカズへの執念というやつさ」
『まぁ昔を見たらそうだわな』
『確かに……』
「それにマサカズには昨日仕込んでもらったからな!! おかげで身体が調子良いってものだ!!」
『貴様!! 昨日いないと思ったら……』
『狡いではないか!!』
「ハハハハハハ。早い者勝ちというやつさ!!」
ハンナはそう言いながらもソ連軍戦車を発見しては攻撃しまくるのである。なお、この攻撃にはソ連軍も悩ませておりしかもパイロットが女性と知った瞬間にはスターリンも激怒をして賞金を掛ける程だったという。(賞金3万ルーブル)
(やっぱルーデルの生き写しじゃね?)
ハンナからの報告を聞く度に将和はそう思うのであった。それはさておき、ハルピンは結果として7月17日には陥落しブリュヘルら残存ソ連軍は後退するのであった。
「ここいらが限界点だ。此処から守勢に回る、今のうちに食糧弾薬の備蓄を急がせろ」
チチハルの司令部で寺内大将は守勢の準備を急がせていた。また、ソ連軍でもブリュヘルは更迭され新たに白ロシア軍管区副司令官になっていたゲオルギー・ジューコフが総司令官となる。ジューコフは現有戦力では太刀打ちが出来ないと判断しスターリンに直接直談判をして戦力の補給と後退を要請。
スターリンもその主張を受け入れスペイン内戦から帰還したパイロット約70名、30万の兵力、戦車300両をジューコフに預けるのである。
だが日本も守勢に回る事で兵力、食糧弾薬の備蓄を進めていた。そんな中でどちらもまだ動かない9月15日に日本はソ連に和平提案を申し込んだ。
「和平と?」
「はい、日ソは相互な行き違いがあったと思います。そこでここいらで和平をと思いましてな」
モスクワでモロトフと駐ソ大使である東郷茂徳はそう話す。会談を申し込んできたのは日本側だった。
(勝ち続けている筈の日本が……何が狙いだ?)
モロトフは東郷の日本の狙いが分からず困惑するが東郷はそれに気に止めず口を開く。
「奉天軍の張学良と中国共産党がソ連を上手く嵌めて日本と戦わせようとしていた……このような情報を入手しまして、我々日本もソ連とそこまで事を構えるつもりは毛頭ありませんからな。そこでここいらで……と思います」
「ほぅ、そのような情報を入手していましたか。やはり日本は侮れませんなぁ(何だその情報……? だがこれは好機かもしれない)」
無論、ソ連はそのような裏は無い。だがモロトフは好機と捉えたのである。つまりは奉天軍と中国共産党の仕業にしてしまえばソ連としても逃げれる可能性も出てきたのだ。
「和平となると現段階で日本が占領地域を認めよ……と?」
「いやいや……そもそも我々が占領したのは日本の脅威となるかもしれない可能性があったからでありそれ以前はソ連が奉天軍を懲罰のために占領していた……そうでしょう?」
ハルピン等はソ連が以前に元々の満州国境線で奉天軍から射撃されたからという正当防衛の理由で軍を進めハルピン等を占領していたからである。東郷の言葉にモロトフは苦笑しながら頭をペチりと叩いた。
「ハハハ、これは確かに。これは一本取られましたな」
「そこで日本としてもソ連に御返しをしようと思います……が」
「が?」
「此度の戦争で我が日本も少なくない死傷者を出しています。彼等のための弔慰金等が必要でしてな」
「成る程(……カネで満州を買え……か)」
要するに土地は返してやるがその代わりカネをくれとせびったのである。過去にも戦争ではないがアメリカと帝政ロシアの間でアラスカ購入の事もあった。
「分かりました。一先ず今日はこの辺りで、我が書記長に相談しませんとね」
「分かりました。良い返事を期待しています」
その日は両国とも上々の会談とも言えるべき終わり方であった。モロトフは会談後直ぐにスターリンに報告した。
「フム……成る程。奴等は日ソが戦う理由を横に反らしたというわけだな」
「ダー同志」
スターリンはパイプタバコに新しく葉を入れて火を灯す。灯され煙は上に上がっていきややあってからスターリンは動いた。
「宜しい、その話で交渉しろモロトフ」
「ダー同志。それで賠償金は如何程に……?」
「賠償金ではないぞモロトフ。弔慰金だ、そうだな……金銀で用意をしよう。無論、反革命罪で強制収容所行きをした者達を使い鉱山で採掘させろ」
「ダー同志。直ちに」
モロトフはそう言って下がる。誰もいなくなった書記長室にはスターリンのみだったが不意にパイプタバコを握り潰した。
「良いだろう……今回のところは勝ちを譲ってやる。だが見ておれ……次は……次は必ず勝ってやる……」
怒りに震えるスターリンだった。
「あっちゃァ!?」
なお、その直後にパイプタバコの火で火傷をしたのは言うまでもない。
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