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第六十四話







 1938年4月1日0300、一つの報告が日本に転がり込んできた。


「ハルピンから長春へ向かう夜行列車が爆破され横転、死傷者は300名以上!!」

「馬鹿な。今、何処の奴等がそんな事をする必要があるんだ……」

「長春に駐屯する米軍は?」

「直ぐに部隊を派遣し調査中との事です」

「まさか……」

「いや、ただ兵力を増強しているだけかもしれない」

「ただ、万が一の事があります。動員準備を」

「分かった」


 そして爆破事件から数日後の4月4日、極東ソ連軍が臨時の声明を発表した。


「此度の列車爆破事件は奉天軍の仕業と見せかけた日本軍の仕業と判明した。日本政府には厳重な注意と賠償金、並びに今回の騒動を起こした責任として関東州の譲渡を要求する」


 その声明発表に岡田内閣は元より陸海軍は荒れた。


「何でうちがそんなする必要があるんだ!?」

「ふざけるのも大概にしろ!!」

「しかも爆破地域に行くには米陸軍の監視地域を抜ける必要があるんだぞ!!」

「しかも奉天軍に見せかけてとか此方の恥だわ!!」

「そうなるとやはり蒋介石もグルか?」

「馬鹿な、張学良の暴走だろ」


 実際、水面下で蒋介石は日本に接触をしてきた。


「此度の爆破事件に関しては中華民国軍は一切の関与はしていないが満州だけは指揮系統が別なので判断しにくい」


 南京和平条約後、蒋介石は徹底した汚職払拭を図っておりその手際さは内務省も目を見張る程であった。


「取り敢えずの声明には我が日本は一切の関与はしていないし潔白であると場合によって関東軍への査察も受けて良いとしとこう」

『異議無し』


 将和らはそう頷いた。しかし4月8日、今度は長春と奉天間の線路が爆破された。幸いにも脱線転覆等は起きなかった。しかし、米軍が調査しようとしたら既に奉天軍が調査をしており断固として現場を譲らなかったのである。

 そして4月11日、奉天軍は声明を発表した。


「線路爆破は関東軍の仕業と断定した」


 無論、岡田内閣は事実無根であるとしたが将和らは逆に呆れていた。


「奴等……そんなに戦争をしたいのか?」

『…………………』


 将和のポツリと呟いた言葉は会合場所に響き渡る。その言葉を聞いた東條と杉山達も覚悟を決めた。


「陸軍が現段階で動員出来るのは最大でも三個師団、三個旅団、一個戦車連隊です。後は航空隊になります」

「……海軍は?」

「陸戦隊がどうなるかは分かりませんが航空隊なら編成次第では三個航空戦隊が。場合によっては母艦飛行隊も投入出来ます」

「母艦飛行隊をもか」


 将和の言葉に杉山が驚いた。母艦飛行隊は海軍の最高練度を誇る最強部隊に等しい。


「史実のい号やろ号にはならないか?」

「まぁ大陸なので大丈夫でしょう」


 史実のはラバウルに投入したから帰還出来ない機体もあった。だが大陸なら少なからず帰還出来る可能性は大いにあったのだ。


「……分かった。奴等が仕掛けてきたら断固たる処置をすると発表しよう」


 岡田総理も腹を括った。伊達に日本海やユトランド沖を経験しているわけではないのだ。その日の夕刻に岡田総理は声明を発表した。


「我が国は事実無根でありながら誤った情報を押し付けられては叶わない。これ以上、両国がそういった措置を取るのであれば我が国も断固たる処置を取る方向になる」


 岡田の声明にユダヤ自治政府やシベリア帝政国も賛同した。更に中華民国も賛同し蒋介石は場合によっては奉天軍を処罰する対象に入ると警告したのである。

 つまり中華民国は奉天軍を切り捨てたのである。それを聞いた張学良は激怒した。


「おのれ蒋介石め!! 日本と手を組みおってからに!!」


 蒋介石が国共合作を破棄してから張の立場は弱くなっていた。更に中国共産党からも警戒されるように張学良は進退窮まっていたのだ。


「こうなれば……」


 張学良は部下にある命令を下したのである。そして5月1日0135頃、城子疃付近に駐屯していた第二師団歩兵第29連隊と独立戦車一個大隊が夜間演習中に一発の銃声が響き渡ったのである。


「今の銃声は何処からだ!?」

「奉天軍側から聞こえました!?」

「直ちに夜間演習を中止!! 点呼を急がせろ!!」


 点呼後、兵士一名が行方不明であり付近を捜索した結果、死体で発見されたのである。しかも現場は奉天軍との境界線付近であり兵士は日本側に倒れていた。しかも現場からの報告で複数の奉天軍兵士が展開していた。


「奴等……やる気だ。全軍直ちに戦闘準備!!」


 演習司令部で報告を聞いた牟田口少将(関東軍独立戦車連隊司令官)は直ちに配備されたばかりの九七式中戦車に乗り込んだ。しかし0236頃、奉天軍は雄叫びを挙げて境界線を越えて侵入してきた。


「正当防衛だ。射撃開始!!」


 歩兵第29連隊長の飯島信之大佐は戦闘開始を命令、照明弾を迫撃砲から撃ち上げ各隊は射撃を開始したのである。


「奉天軍が乗り越えてきただと!?」


 旅順にある関東軍司令部では関東軍司令官に就任していた寺内寿一大将は板垣らを見る。


「やはり来おったな……」

「一先ずはある程度の戦闘をしてから矛を納めるべきかと」

「うむ。歩兵第29連隊と戦車大隊には奉天軍を追い払うのみと伝えてくれ」

「分かりました」

(さて……こうなると……)


 板垣らが動く中、寺内は誰にも見られないよう深い溜め息を吐いたのであった。後に『城子疃事件』と呼ばれる戦闘は翌2日には日本側が「奉天軍からの射撃があったので正当防衛をしただけ」と発表。しかし奉天軍は「日本軍からの射撃を受けたので射撃を返しただけ」として両者の主張は平行線を辿るばかりであった。

 こうした中で極東ソ連軍は声明を発表した。


「我が極東ソ連軍は奉天軍を支持する」


 これに勢いづいたのは奉天軍なのは言うまでもない。何と奉天軍は軍閥でありながら日本に対して宣戦を布告したのである。だが奉天軍は直ぐに長春を軍事的に占領し満州国樹立を宣言するに至ったのである。


「史実は関東軍に追いやられた張学良が満州国を建国とか……笑える冗談だな」


 会合で将和は呆れたように呟いた。


「取り敢えず我が軍としては満州国内にいる邦人、在留外国人を保護する名目で侵攻を開始する」

「長春の米軍は?」

「長春にいた外国人は何とか米軍の保護下にある……が、張学良が引き渡しを要求しているとか」


 将和の言葉に杉山はそう答えた。


「邦人虐殺は避けねばなりません」

「うむ、米軍にものらりくらりと交わすよう伝えてはいる」


 斯くして史実、前回には無かった日本と奉天軍の戦争が勃発するのであるがこれに乗っかったのはアメリカとソ連だった。アメリカのルーズベルトは日本を支援すると表明し岡田総理もすかさず外国人保護した際は米軍にお預けすると発表していた。

 だがこの事態をややこしくしたのが5月15日にソ連が発表した事だった。


「我がソ連は奉天軍を支援するため日本に宣戦を布告する」


 ある程度予想はしていたがまさか此処で打ってくるとは将和らも思わなかったのである。だが日本側も動員は進めていた。その間にも奉天軍は断続的に関東州の玄関口でもある城子疃、普蘭店を攻撃していたが関東軍がそれぞれ防衛しており一歩も踏み込ませないようにしていた。


「クソが。増援の部隊は?」

「既に佐世保を出港した。もう暫くだな」


 増援部隊は以下の陣容であった。


 第一師団

 第四師団

 第六師団

 三個独立旅団

 第一戦車連隊

 第二戦車連隊

 二個野戦重砲兵旅団

 三個飛行戦隊


 海軍

 第21航空戦隊

 高雄海軍航空隊 鹿屋海軍航空隊 東港海軍航空隊

 第22航空戦隊

 美幌海軍航空隊 第2航空隊 第15航空隊

 第24航空戦隊

 第三航空隊 千歳海軍航空隊

 特設航空戦隊

 第765実験航空隊


 海軍陸戦隊(三個大隊)



 なお、海軍側は三個航空戦隊は統合して基地航空艦隊とされ第十一航空艦隊とされた。その初代司令長官には将和が海軍航空本部長と兼任で抜擢されたのである。兼任としているのは空技廠の指揮下で創設された第765実験航空隊が試作機等で編成されていたからである。

 この中には後に採用される零戦や九九式艦爆、一式陸攻等が混在している程であった。


「まさかこうなるとはなぁ……」


 旅順に到着した将和はそう呟きながらも旅順に対空電探基地を建設させつつ航空隊の編成を急がせるのであった。

 なお、増援部隊が到着した事で関東軍は守勢から攻勢に転じたのである。

 5月29日、普蘭店会戦では5万の奉天軍を二個師団と一個戦車連隊、更に飛行戦隊が攻撃して奉天軍が程なくして後退を開始した。

 翌5月30日には城子疃で守勢に回っていた関東軍も増援を経て攻勢に転じていた。それにより奉天軍の戦線は崩壊し営口まで後退したのであった。









御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] そこまでして日本と戦いたいソ連。 ここまでされたら許せない
[一言] ソ連は戦わなければ体制が保てないのか? 日本が強くてソ連との盾に使うつもりなら米英は冷戦時代の戦略にシフトした?
2022/02/21 20:17 退会済み
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