第六十話
時は少し戻り1936年12月26日開会の第七十回帝国議会にて新型戦艦「A140-F5」4隻分(1隻9800万円)の予算が提出された。ただし予算規模から艦の大きさを諸外国から推定されないよう架空の駆逐艦9隻(1350万円)、架空乙型潜水艦4隻(609万円)が計上されており、これらを含めた予算1億9600万円が、実際のA140F5艦予算だった。
そして時を戻して1937年4月1日の呉、将和は呉海軍工廠の造船船渠にいた。この日、この船渠(5メートルも掘り下げて長さ380メートル、幅60メートル、深さ18メートルに拡張された)に一隻の戦艦が起工するのである。
「……『大和』……」
将和が起工式を終えた後、工事を開始する工員達を尻目に脳裏には『あの時の』戦艦が甦っていた。
(今度こそ……今度こそお前は沈ませはしまい……)
改めてそう誓う将和であった。さて、この新型戦艦。無論関係するのは海軍軍備計画である『マル3計画』に基づいて建造が開始されていた。
この『マル3計画』には以下の艦艇が建造される予定だった。
戦艦9隻
一号艦 二号艦 三号艦 四号艦 五号艦 六号艦 七号艦 八号艦 九号艦
空母12隻
十号艦………二十一号艦まで。
巡洋艦(超甲巡)4隻
巡洋艦(甲巡)3隻
巡洋艦(乙巡)8隻
駆逐艦(甲)39隻
駆逐艦(乙)22隻
等々となっている。また、この軍備計画では敷設艦等の補助艦艇の建造は全て中止されその予算は戦艦や空母等に流れていた。将和曰く「余計な物を作りたくない」である。ここまでの建造計画、予算はどうなのかと言いたいが予算は一先ずあった。一つはユダヤ自治政府からの献金である。これに関してはユダヤ自治政府からの感謝の気持ちとして世界中に散らばるユダヤの同胞達から少しずつ資金を提供してもらい日本に献金していたのである。この献金により日本政府は献金を陸海軍の軍備に全てを投入、不足分を本来の帝国予算から抽出する事でまかりなり得ていた。そのため民生への予算は大幅に増えておりその分の工業力等も向上しているのである。
もう一つはタチアナとアナスタシアが個人的に貯めていたロマノフ王朝の財産である。今日でのロマノフ王朝の財産はよく言われる『すっからかん』であったが前回の記憶を持っていた二人は「将和(日本)のために」とコッソリと貯金をしていた。その量、金塊約8トンと宝石類が入った袋(1袋2000点)16袋を貯めていた。革命後は一家は移送されたり等ソ連に中々入国出来なかったが明石中将の潜入機関である『明石機関』の潜入により二人が貯めていた財産の回収に成功。金塊はそのまま日本に引き渡され陸海軍の資金となり宝石類は二人が厳選した宝石だけが二人の物となり後は日本に渡したのである。
なお、ロマノフ王朝の隠し財産があると言った二人は将和に満面の笑みを浮かべてVサインをする程であったという。
それはさておき、一号艦……後に『大和』型戦艦となる超弩級戦艦は以下の性能だった。
『大和』型戦艦
最大排水量 15万4000トン
全長 345m
全幅 48m
主缶 九五式艦本式重油専焼水管缶12基
主機 艦本式改二タービン4基(200,000馬力)
速力 30.3ノット
航続距離 16ノットで8900海里
兵装
45口径56サンチ三連装砲3基
97式45口径12.7サンチ連装両用砲16基
97式40ミリ連装機関砲16基
25ミリ三連装対空機銃12基
25ミリ単装対空機銃80基
28サンチ対空噴進砲4基(改装搭載)
水上機4機
同型艦
『大和』『武蔵』『信濃』(空母へ改装)『出雲』
当初、主砲は50口径51サンチ三連装砲だった。しかし、敗戦後に入国し帰化してドイツ人技術者やユダヤ人技術者達の力を借りて研究していれば56サンチ砲の開発が可能となった。それが1932年だった。そこで宮様は56サンチ砲の開発を指示し大艦巨砲主義者達もこれの開発に全面協力をしてきた。56サンチ三連装砲の開発が完了したのが1935年、即ちワシントン軍縮条約が失効する2年前だったが試作三連装砲を基に更なる開発及び改修が続けられ漸く陽の目が見れたのである。
56サンチ砲の開発完了を聞いた将和はこう主張した。
「ならば56サンチ砲搭載の戦艦にしましょう。どうせ46サンチ砲をちまちま建造していたらアメリカは数で揃えるでしょう。ならば一気に倍にさせてやるべきです」
将和の主張に宮様らも頷き、牧野少佐らも56サンチ砲搭載戦艦として修正を行ったのである。
また機関は艦本式タービンをツイン式に纏めた改二タービンであり1基5万馬力を発揮するよう調整されている。
他にも艦底の防御壁は三重へと強化され艦首と艦尾の装甲も強化されていた。更に装甲に関してはイギリスのNCA(非浸炭装甲)等が採用されており(日英同盟が解消される前に何とか技術を受け取る事に成功)防御力に関しては前回よりも大幅に向上していた。だが、まだ一部の装甲に関してはまだ許可が降りていない箇所も存在していた。
イタリアのテルニ社が製造した表面硬化装甲のTCが降りていなかったのだ。最初は将和達も首を横に「?」としていたがテルニ社の後ろにドゥーチェことベニート・ムッソリーニが絡んでいたのだ。だがそれだけではならず更にムッソリーニの横繋がりでヘルマン・ゲーリングも絡んでいたのだ。
「日本の兵器類は中々良いモノが複数ある。イタリアも参考がてらに購入とかしてみては如何か?」
たまたまムッソリーニと空軍の増強等で会談したヘルマンが洩らした言葉をムッソリーニは頭の片隅にあった。それがテルニ社から「日本が装甲の技術力を継承したい」との報告があった時に思い出したのである。そのためムッソリーニからの指示で許可を中々降ろさない引き伸ばし戦術をしつつムッソリーニは外交からの着手に移行した。
『日伊防共協定』
表向きは1936年に締結された日独防共協定のイタリア版と思われた。しかし、裏向きではイタリアに軍事兵器の提供を、イタリアは日本に技術力の提供をとされていた。その協定は1937年5月1日に締結される事にはなるが将和は締結した日の1日、イタリア大使館にいた。細やかながらの締結パーティーという名目だった。
(全く……ヘルマンめ、余計な一言を言うからドゥーチェが乗り気になるんだから……)
ヘルマンからの手紙で真実を知った将和は苦笑しながらもイタリアワインを飲み干し再度入れるのである。
「いたッ!? いたぞ!? アンミラーリオ・ミヨシだ!!」
「ん?」
そこへ小さな女の子が白を基調としたドレスを着、両手でドレスの端を握りながらヅカヅカと将和に歩み寄る。
「貴様、アンミラーリオ・ミヨシだな!? そうだろそうだろ!?」
「お、おぅ。確かに俺はアンミラーリオ・ミヨシだが?(確かアンミラーリオはイタリア語で提督だったな……)」
そんな事を内心思いつつ将和は将和を見て興奮する少女に頷く。
「そうかそうか。やはり余の目に狂いはなかったな」
「それで可愛いシニョリーナ(お嬢さん)はしがない提督に何用かな?」
「フフン。余が直々貴様にダンスを申し込みに来た!!」
腕を組んでムフーと鼻息が荒い少女である。なお、その周囲では大人達がアワアワとしていた。将和は少女の言葉に苦笑しつつも手を添えた。
「ワルツしか踊れないしがない提督ですが宜しいかなシニョリーナ?」
「ッ……無論だ!!」
手を添えられた少女は一瞬、頬を赤らめつつも将和の言葉に笑みを浮かべてワルツを踊るのである。踊り終えると少女はワッハッハッハと笑う。
「よし、これで余もアンミラーリオ・ミヨシの一員だ!!」
「………はい?」
ムフーと満足げな少女に将和は首を傾げる。
「何だ、余の事を知らないで踊っていたのか?」
「……生憎とイタリア事情はそれ程詳しくはなかったものでね」
「フフン。ならば教えてしんぜよう……余こそがかの古代ローマの王朝であるユリウス=クラウディウス朝の末裔、クラウディア・アルベーニだ!!」
漫画であれば少女の後方はババーンとなっていたかもしれないが実際の後方は大人達のアワアワした姿である。
「この馬鹿娘!?」
「アタッ!!」
「ほんとにスミマセンアンミラーリオ・ミヨシ!! スミマセンスミマセンスミマセン!!」
「あぁいや……大丈夫ですよ」
父親なのだろう、少女ーークラウディアの頭をスパーンと叩いてペコペコと頭を下げる男性。それに涙目のクラウディアである。
「な、何をするのだ父上!! 余は余の夫となるアンミラーリオ・ミヨシの……」
「だからってこの馬鹿娘!?」
「アターッ!?」
(吉本かな……)
またしても叩かれるクラウディア。将和は内心、新喜劇かなと思う。話を聞けば父親はアルベーニ氏はテルニ社の社員であり娘のクラウディアが日本に行きたいとせがんだので連れて来たのである。なお、末裔かどうかは伝承であり本当なのかは不明らしい。
「余は諦めないぞ!! 余の夫として相応しいのはアンミラーリオ・ミヨシだからな!!」
涙目のクラウディアはそう叫ぶが将和は苦笑しつつも左胸に付けていたサヴォイア軍事勲章(騎士勲章。今回の締結祝いとしてムッソリーニが受章させた)を取りそれをクラウディアの左胸に付けた。
「クラウディア、今はこうしておきなさい。君の元にいつか素晴らしい人が来たら俺に返す事。良いね?」
その言葉にクラウディアはポカンとしていたがやがてハンカチで涙を拭いニカッと笑う。
「仕方ない、今はそうしておいてやるぞアンミラーリオ・ミヨシ。だが必ずまた貴様の元に来るからな!!」
「ハハハ、楽しみにしているよ。じゃあ最後にもう一度ワルツはどうかな?」
「仕方ない、同伴してやろう」
機嫌が直ったクラウディアに再度踊りを申し出て二人して踊るのであった。
なお、二人の再会は数年後になるとは将和自身もクラウディア自身も思わなかったのである。
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