第五十四話
『昭和三陸地震』から数ヶ月後、被害を受けた東北地方は何とか復興の道を進んでいた。
その最中で原は総理を勇退を発表、後任は被災地出身である元台湾総督の齋藤実が総理に就任したのである。
「齋藤さんなら何とか国民の不満を抑えられるでしょう」
「うむ」
「予科練の採用人数も徐々に増やします」
「今年は何人を?」
「500人を予定となります」
「成る程。開戦予定年には?」
「……前回と同じ年であれば5000人を……ですかね」
「ふむ……分かった」
将和の言葉に宮様は頷くのであった。そして1934年の幕が開けた。
「着物……良いですか?」
「明けましておめでとう加賀、可愛いぞ」
「……気分が高揚します」
「なぁなぁアタシはー?」
「ハハハ、長波も可愛いぞ」
「ニヒヒヒー」
「……親父が光源氏の君をしている件」
「やめとけ兄貴、母さんに怒られるぞ」
将弘と将治はそう言い合うのである。なお、1月には史実では8日に77人の死者を出す転倒事故が発生するが三回目は予め予想されたので日をずらしたりとごった返しにならないよう配慮したので発生せず女優原静枝も亡くなる事はなかった。この頃、将和は前年の1933年9月から第一航空戦隊司令官から第三戦隊司令官になっていた。第三戦隊は『金剛』のみの編成であるが士気は高かった。その中で将和は司令官ながら航空攻撃の回避錬成をしたりと将兵達からは相変わらずの人気であった。
しかし、1月17日の辞令で将和は船から降りて陸へ行く事になる。前回と同じく将和は中将に昇進し海軍航空本部長に就任したからである。
「一に航空機、二に航空機、三、四も航空機で五も航空機の開発だ」
将和の就任一声目の訓示である。各部署の部長課長達にそう訓示し開発開発また開発とさせたのであった。更に将和は生産性を向上させるために部品の規格統一を調整した。
前回もしていたので今回も早くしようとしていたが思ったより根強い反発があったのでゆっくりとしていたが将和が本部長になった時点で出し惜しみは無くなったのである。将和は反抗勢力を追い出し部品の規格統一化を進めた、これに呼応したのが陸軍の航空本部であり陸軍も賛同しており前回より早くに陸海共同で実現したのである。
そして将和に接触してきた三菱の技師がいた。
「お久しぶりです三好中将」
「堀越さん……」
将和に接触してきたのはかつて九試単戦や十二試戦闘機を開発しその名を知らしめた堀越二郎だった。
「今回の七試単戦には史実の九試単戦を開発に成功させました」
「何と……ならば」
「はい、大陸で事が起きた場合でも制空権の奪取が可能です」
「有難いです。ならば採用一択ですな」
「……操縦しなくても宜しいので?」
「無論操縦しますよ。堀越さんの機体は信頼していますからね」
「……ありがとうございます」
ちなみに本当に将和は操縦して飛行したのである。それを聞いた将和の部下達である小沢や塚原達は爆笑する。
「隊長……相変わらずの行動ですな」
「まぁそれが隊長ですからね……」
「隊長が推す機体なら大丈夫だな。風呂に行ってくる」
「おい馬鹿やめろ」
そう言い合う部下達であった。それはさておき、将和と堀越は宮様らを加えた会合に出席していた。
「そうか、堀越技師も来ていたのか」
「はい、1928年に。他にも土井さんや本庄、小山さん、深尾さんらもいますよ」
「何と……」
「なので機体はいくらでも作れますが……問題は発動機でして……」
「というと?」
「発動機の開発がいまいち向上していないのです。以前、三好中将らのてこ入れで三式艦戦が早めに採用されましたがそれ以降の発動機開発が前回と同じでして……」
「……成る程。アメリカ等の発動機のライセンス権を早めにか」
「察してもらい助かります。深尾さんも今、金星を開発中ですが……」
「分かりました。直ぐにライセンス権の交渉をしましょう」
「ありがとうございます」
なお、明星のライセンス権は史実より数ヶ月より早くに取得出来た。ついでに将和はホーネットとツインワスプ・ジュニアのもライセンス権を取得して発動機の質が後に向上するのであった。
また、採用された七試単戦の一号型は史実と同じ一号だが後に瑞星発動機を搭載し武装を強化した二号型(22型であり主翼に13.2ミリ機銃2丁を搭載)が1936年から生産されるのであった。
7月、齋藤内閣から岡田内閣へ移行された。史実では帝人事件で齋藤内閣が総辞職して岡田内閣が組閣されるが、そもそも帝人事件の黒幕である平沼騏一郎を枢密院副議長から追いやって警察の監視下に置かれているので事件自体がなかった。
だが中間内閣とも目されていた齋藤内閣であり元老の西園寺は更に中間内閣を組閣する事にした。西園寺としてもそろそろ政党内閣をと思案していたが犬養らは統帥権問題で陛下から怪しむ声があったので断念した経緯があったのだ。
更に鈴木喜三郎や鳩山一郎らにも問題があった政友会に政権を渡す必要はなかった。そして大陸の問題もあった事から岡田内閣ーー挙国一致内閣が成立したのである。
「そろそろ中国共産党が長征をしますな」
「うむ……もしかして……」
「はい、国民党軍に支援を具申します」
会合で将和はそう主張した。
「……理由は?」
「前回の張作霖爆殺も少なからず奴等が関与していました。まぁ大元はグルジアの髭親父ですが……ですが日本の仕業にされるのは我慢なりません。幸いにも満州事変は発生していませんし石原らは射場の的になりました。ですが懸念はあります。万が一、万が一奴等に踊らされては……」
「むぅ……」
宮様は東條らに視線をチラリと向けるが東條らも頷いていた。
「陸軍としても賛同します」
「ただ、反中感情を考慮すれば武器の提供くらいにはなると思いますが……」
「既にフィンランド軍を支援しているからな」
最終的には岡田の判断となる。結局、岡田も賛成になった事で国民党軍に武器を売却する事となる。
「……日本は何を考えているのかね?」
「敵の敵は味方という諺もあります。実は先年の上海事件の発端……中国共産党が関与しているという未確認情報も在りました故……」
蒋介石と岡田内閣の外相である廣田弘毅は南京で会談をしていた。
「……何を望む?」
「中国共産党の撃滅」
「それは表向きだろう……裏は何かね?」
「……我が国の反中感情は下火ではありません。それは貴国の反日感情もまた然り……そうでしょう?」
「………」
「武器の売却で受け渡しの際に暴発等があっては堪ったものではありません。貴国もそうでしょう?」
「……確かに」
「そこで、受け渡し場所として海南島を提案します」
「……成る程(狙いは資源……か)」
廣田の言葉に蒋介石は日本の腹が読めた。日本は武器を売却する、だが中国に購入する資金はそれ程無い。そこで資金の代わりに資源を貰う、そういう事だった。
「義勇軍の派遣は無理かね?」
「無論、それは軍でも検討したそうです。ですが国民党軍上層部が我慢はされても末端の兵士は日本に我慢しますか?」
「………」
煽りに煽っている反日感情だ、暴発は起こるのは高確率だろう。
「ならば航空機の爆撃でも構わない」
「一応軍にも伝えます」
「それだけでも十分だ」
斯くして日中は合意した。後に『南京交換条約』と言われるこの条約は日本が中華民国(国民党軍)に対し武器を売却し代わりに資源を譲渡してもらうという事だった。なお、これには前例があり中独合作でハプロ・中国間物資交換条約があった。
それは兎も角、日本製の武器を満載した船団が海南島に向かい帰路は『何かを』満載して帰還するのが数十回続いたのである。
「まぁ本命はフィンランドですけどね」
「そうだな。奴等は大陸でやり合っておけばいい」
将和らはお茶を啜りながらそう言い合う。
「フィンランドへの支援は継続しているな?」
「無論です。ソ連の力を一つでも削ってもらわないといけませんからね」
細々とであるがフィンランドへの支援は継続しておりマンネルヘイムらを喜ばす要因にもなっていた。そこへ部屋に慌ただしく入ってきた者がいた。板垣ら数人だった。
「どうした板垣?」
「宮様、三好中将。大変な事が起きた!?」
「……ソ連が動きました」
「何……?」
板垣の後ろにいた片倉少佐がそう口を開いた。
「ソ連が満州へ侵攻へした。ソ連の公式発表では国境線付近で演習中に満州側から発砲及び砲撃が浴びせられたという事で正当防衛を理由に反撃を開始したとの事だ」
「……何でさ……」
板垣の言葉に将和は思わずそう呟くしかなかったのであった。
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