第四十五話
将和は帰国後は再び霞ヶ浦航空隊副長をしていたが、1926年三月一日に石川清大佐の後を継いで装甲巡洋艦『八雲』艦長に就任した。この八雲艦長時に将和は改装と修理が終わったばかりの空母『鳳翔』『妙義』と幾度となく対空訓練を実施している。
「左舷より敵雷撃機三機接近!!」
「魚雷を落としたら報告しろ!!」
「……落としました!!」
「取舵二十!!」
『とぉーりかぁーじ!!』
三機の一三式艦攻が『八雲』上空を通り過ぎる。『八雲』の左舷から一本の魚雷が船体の底を潜っていく。
「ちっ、一本命中か。まぁ一本命中ならまだ戦闘も可能だな」
将和はそう判断する。
「鳳翔に信号。『魚雷、一本命中ス。我、戦闘可能ナリ』だ」
「は!!」
彼等の訓練はまだまだ続いたのである。そして同年十一月一日、小林省三郎大佐の後を継いで五代目『鳳翔』艦長として就任したのである。
「小沢が飛行長か」
「は、よろしくお願いいたします隊長」
「おいおい、俺はもう隊長じゃないぞ」
「いえ。自分らの中ではまだまだ隊長です」
「はっはっは」
笑いあう二人であった。そして訓練になると鬼になる二人である。
「もっと突っ込め吉良ァ!! 貴様の度胸はそんなもんかァ!!」
「すいません!!」
「もう一回『鳳翔』を攻撃だ!!」
「はい!!」
「次も躱すぞ!! 油断するなよ!!」
『はい!!』
流石に死者までは出てないが二人の努力が実るのはとある航空演習であるがまだ先の話である。
また、三段式空母への改装が終了したばかりの空母『妙義』と加えて第一航空戦隊を編成、初代司令官にはGF参謀長をしていた高橋少将が兼任する形で就任した。
本来は海軍上層部は将和をと考えていたがまだ大佐だった事もあり見送られていたのである。なお、『妙義』級空母の性能は以下の通りである。
『妙義』型航空母艦(1924年空母改装時)
排水量 33000t
全長 230m
全幅 30m
機関 ロ号艦本式缶×10
艦本式タービン×4(10万馬力)
兵装 45口径12サンチ連装高角砲×6
毘式40ミリ連装機銃×8
三年式機銃×16
航空兵装
一四式艦上戦闘機(史実三式艦上戦闘機)×27
一三式艦上攻撃機×27
同型
『妙義』『赤石』『羽衣石』
【概要】
元はドイツ第二帝国が建造していた巡洋戦艦『マッケンゼン』級の三隻である。三隻は進水こそしていたが戦局の悪化で建造はストップしていた。そこへの休戦であり三隻は解体される運命であった。しかし、ヴェルサイユ条約等で賠償艦として日本に譲渡されたのである。
当初は日本もユトランド沖海戦等で喪失した『比叡』『榛名』『霧島』の割り当てにしようとしていたが『伊勢』型や『長門』型が25ノットの高速を出していたので差程気にする事なく逢えての空母への改装が決まったのであった。
この時、空母は『鳳翔』のみだったがジュネーブ海軍軍縮条約等で『天城』『赤城』『加賀』も空母への改装が認められた事で一気に六隻の空母を保有する事が出来たのである。また、六隻は実験艦の役割もしていた。
というのも『マッケンゼン』級ーー『妙義』級は『加賀』と共に三段式に改装され『天城』『赤城』は二段式に改装されたのである。どちらが運用しやすいかで競っていたが後の改装で選ばれたのは一段式に纏めた物である。
また六隻は海軍航空隊初期のパイロット大量育成にも駆っていた。そのため1941年の開戦時にはパイロットの予備兵力が複数存在していたのである。
初期の搭載機に関しては一四式艦戦(史実三式艦戦)と一三式艦攻であり支那動乱やノモンハン事件の時は九四式艦爆等を搭載している。
艦載機に関しては中島飛行機が1923年にはジュピターのライセンス生産が取得されそれ見合う形で戦闘機が開発されていた。それが十四式艦上戦闘機でありほぼ史実の三式艦上戦闘機一型そのものである。
そして1927年三月二四日、北伐の途上において、蒋介石の国民革命軍の第2軍と第6軍を主力とする江右軍が南京を占領した際、日本を含む外国領事館と居留民に対して中国兵士が襲撃したのである。これは後に南京事件と呼ばれる。
原は直ちに外交ルートを通じて蒋介石に対し抗議をしたが蒋介石は原の抗議を無視した。無視された原はイギリスからの出兵に応じて陸海軍の派遣をするのである。
軍の派遣を知った外務大臣の幣原喜重郎は慌てて官邸に駆けつけた。
「総理、不干渉政策では駄目ですか?」
「無理だね幣原君。アメリカもイギリスも蒋介石に怒っているよ」
原は幣原にそう告げる。
「今回の中国はやり過ぎだね」
「しかし……」
「軍を派遣するのも君が主張する協調外交の一貫だよ? これ以上、何があるのかね?」
「………」
原の言葉に幣原は何も言えなかった。
(悪いがね幣原君。君の思惑に乗るつもりは無いよ……)
原は内心にてそう呟いた。幣原ら外務省は大陸浪人らと接触して大陸の重要性を説かれていた。原はそれ以前から南京等の居留民を遼東半島ーー旅順に戻すつもりだったが幣原らは国民党を刺激すると言って反対ばかりしていたのだ。
(そろそろ大陸派を切る頃合いかな)
そう思う原であった。それは兎も角、原から軍の派遣を要請された陸海軍は直ちに編成を行った。
派遣軍で陸軍は第二、第六、第九、第十一師団の四個師団、四個野戦重砲連隊、四個戦車中隊(一個中隊十二両)である。
海軍は戦艦は『伊勢』『日向』の二隻を主力とし空母『鳳翔』『妙義』、装甲巡洋艦『八雲』『出雲』『磐手』、軽巡『長良』『五十鈴』『天龍』『龍田』駆逐艦十六隻の派遣が決定されたのである。
「気を付けてね?」
「あぁ。勿論だ」
「コラー、私達にもキスをしろ」
「はいはい」
将和は出掛ける寸前の玄関にて夕夏とタチアナにキスをするがグレイスに言われ結局は皆にキスをして、見送られながら横須賀に向かうのである。日本軍の派遣に呼応するように米軍と英軍もそれぞれ一個旅団をシンガポール、フィリピンから派遣したが彼等が到着する前に尖端が開くのである。
「艦長!! 国民革命軍からの砲撃です!!」
「くそ!! 正当防衛で撃ち返す!! しっかり記録しておけ!!」
「はい!!」
四月十日、揚子江にいた第二四駆逐隊の駆逐艦柳は突如砲撃を受けた。相手は岸にいた国民革命軍である。
「弱い日本軍等蹴散らしてしまえ!!」
先の事件の際、日本軍が無抵抗だった事に味を締めた彼等は揚子江に停泊している第二四駆逐隊に向けて野砲で砲撃してしまう。しかし野砲はたかが75ミリクラスで駆逐艦柳の主砲は12サンチ砲である。
「撃ちぃ方始めェ!!」
12サンチ砲の他に対空機銃で搭載されていた6.5ミリ機銃二挺も射撃を開始して瞬く間に国民革命軍を蹴散らしてしまうのであった。
「おのれ日本軍め!! 反撃だ、やり返せ!!」
報告を受けた江右軍総指揮の程潜は直ちに反撃を命令。砲兵部隊と第二四駆逐隊が互いに砲撃し合うという珍事が発生する。更に騒ぎを聞き付けた英海軍の練習艦『ヴィンディクティヴ』と米海軍の『クレムソン』級駆逐艦『ノア』も第二四駆逐隊に協力して艦砲射撃を開始する。かの国にも襲撃で死者は出ており仇討ちのようである。
「何? 第二四駆逐隊が?」
「はい、正当防衛を元に砲撃しているとの事です。更に臨時の陸戦隊を編成、米英軍と共同で上陸するとの事です」
上海に停泊していた第一遣外艦隊司令官荒巻二郎少将は第二四駆逐隊からの報告に驚く事はなく指示を出す。
「『保津』『安宅』『勢多』の三隻を向かわせろ。米英軍と協力して遣支艦隊到着まで粘れと伝えろ」
「はっ!!」
直ちに上海から臨時編成した追加の陸戦隊を載せた三隻の砲艦が南京に向かうのであった。そして東シナ海を航行していた遣支艦隊は第一遣外艦隊からの報告を受け取っていた。
「一航戦の三好大佐を向かわせる」
「成る程。鳳翔の上空援護ですね」
遣支艦隊司令長官谷口尚真中将の言葉に参謀達は妙案とばかりに頷いた。
「空母『鳳翔』に発光信号。一航戦は軽巡『天龍』『龍田』及び駆逐艦四隻を率いて先行せよ。三好大佐に航空戦の指揮は任せる」
「航空戦の指揮も任せるのですか?」
「我が海軍で一番航空戦に精通しているのは彼だよ」
参謀の言葉に谷口中将はそう告げた。発光信号を解読した空母『鳳翔』は『妙義』と護衛艦艇を率いて増速する。
「さぁて『鳳翔』の初実戦だ。お前ら、褌締めて気を引き締めろよ!!」
『はい!!』
将和の訓示にパイロット達は声を揃えて叫び、攻撃隊が発艦を開始したのである。
(今回は張作霖は動いていないが……警戒は必要だな)
前回は攻撃隊を出す寸前に満鉄が爆破されたり張作霖が爆殺されてはいなかった。そのため将和は攻撃隊を多めに出す事が出来たのである。
「頼むぞ海鷲達……」
将和は水平線から見えなくなるまで見送るのであった。
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