第四十一話
十月二十日、漸く関東は落ち着きを取り戻していた。
「……火災、人的、建物被害はほぼ三好大佐の史実通りか……」
総理である原は被害報告書を読みそう呟いた。ほぼ史実通りの被害を出した関東大震災であるが死者・行方不明者数は史実より異なっていた。
史実の死者・行方不明者数は十万五千余であった。しかし今回も防災訓練等をしていた事と当日の九月一日は訓練日だった事もあり死者・行方不明者数は更に抑えられ三万六千余だった。火災による被害は史実でも九割ほどだったが軍もいち早く出動していた事もあり死者・行方不明者は大幅に減っていた。だが陸軍も殉職者を200名ほど出していた。
避難誘導中で、救助中の倒壊に巻き込まれ等々だった。それでも国民の目には「軍隊が我々のために死力を尽くしている」見えた。
また、地震の混乱で発生した事件は史実通りのもあった。亀戸、福田村等の事件があったが甘粕事件は無かった。
そもそも甘粕大尉は憲兵隊にはいなかった。甘粕大尉は膝を怪我した時に上官だった東條英機と相談して東條と戦車の運用を議論していた牟田口の計らいで戦車科(新たに創設)に移っていたのだ。これにより甘粕大尉は当事者となる事はなく、被害者の大杉栄ら三人はある意味での命拾いしている。
そして将和と夕夏は宛がわれた新しい新居に移動していた。
「此処が新居ね……」
区は同じ麹町区であるが新居は新築だった。元々は所有者もおり、九月三日に此処へ引っ越しする予定だったが震災後、地震から逃れるように地方へ引っ越しをしたので新築は一転して空き家になった。これをたまたま長谷川が見つけて将和に言うと将和は所有者と交渉して半額で家を購入したのである。また、権蔵達も当初は身を寄せていたがまた町工場を再建するために年明けには本所区の元の場所に戻ったのである。
「まぁ心機一転で頑張ろう夕夏」
「そうね。けど、あの二人の事も忘れないでね?」
「ア,ハイ」
震災後、改めて夕夏とタチアナ、アナスタシアの三人は話し合い、四人で生きていく事を決意した。将和も当初は悩んだが三人の熱意に押されて頷いたのである。
「俺も男だ。責任は取る」
そしてその足で将和は東郷の家を訪れて事情を話したのである。
「ふむ……三好大佐、原君と共に相談するでごわすので一緒に来てほしい」
「はっ」
そして将和は原らと共にとある料亭で相談をするのである。
『………』
皆、口を閉口していた。ただの三角関係なら笑って濁す程度だが事が事であった。そんな中、不意に東郷が口を開いた。
「三好大佐、夕夏君に前回と同じく消えてもらうのはどうでごわすか?」
「……やはりそこに行き着きますか……?」
「そいでごわす」
将和の言葉に東郷は頷く。
「死んだふり……今度こそはと思っているのですが……」
「皇族二人に民間人一人……夕夏君には辛い選択だがのぅ。だが一番いい案はそれしか無か。それに今回のおはんの血筋は前回と違うでごわす」
「分かりました。妻と相談します」
「それで次は御主でごわす」
「自分……ですか?」
「御主には爵位が必要でごわす」
「デスヨネー」
東郷の言葉に将和は諦めた表情をし、また原達は頷いていた。
「確かにそれは必要だな」
「し、しかし爵位としましても……」
「三好君、ただの平民と皇帝の血筋を引く者と結婚出来ると思うかい?」
「……まぁですね」
原の指摘に将和は納得した。
「それに君は世界が認める撃墜王だ。爵位を受け取るのには十分匹敵する」
「はぁ、分かりました」
「まぁ爵位は男爵だろう」
とりあえずの方針は決まり、一旦解散したが後に東郷と原が二人で集まった。
「原さんには迷惑をかけるのぅ」
「いやいや」
原は苦笑しつつ御猪口に注がれた酒をクイッと飲む。
「けど東郷さん。貴方の狙いはそれだけでは無いでしょう?」
「はっはっは、総理には参りますな。実は三好大佐の男爵は単なる通過点に過ぎないでごわす」
「ほぅ……それも東郷さんの計画とやらですかな?」
「無論。実はのぅ……」
「な、何と……」
ヒソヒソと話す東郷に原は驚愕の表情を浮かべた。
「こいは坂本翁と三好翁からの発案じゃ」
「やり過ぎではありませんか?」
「やり過ぎでは無か。日本を守るんじゃ、このくらいしにゃなりもはん」
「……大変ですな三好大佐も」
「あやつに押し付けるのは申し訳無かとは思っておる。いずれあの世で文句でも聞くでごわす」
「なら私も御相伴しましょうかね」
『はっはっは』
二人は大いに笑うのであった。そして将和は夕夏に案を話し、夕夏も了承した。
「……良いのか夕夏?」
「四人で幸せになれる案はそれくらいしか無いのでしょ? 私は構わないわよ。それに今回はお父さん達も生きている。だから大丈夫なのよ」
「夕夏……」
「もう、そんな顔しないでよ貴方。私は貴方の傍にいるだけで幸せなのよ」
泣きそうな表情をする将和に夕夏は抱き締めて頭を撫でる。夕夏の行為に将和は堰を切ったように声を出さないように泣き出す。
そんな将和に夕夏は泣き止むまで頭を撫でるのであった。
「……済まん」
「良いわよ。夫婦だもの」
夕夏に抱きついて泣いた事に謝る将和に夕夏は微笑む。
「それで私はいつ頃死ねば良いのかしら?」
「まぁ前回のも考えて震災での救護で肺炎に掛かって病死とはあるな」
「それが妥当かもね」
そして十月二十日、三好夕夏は肺炎にて死去した死亡届が受理され公式になった。将和の部下である小沢らは将和を心配するが将和は「気にするな」と気丈に答えた。なお内心は……。
(小沢らに黙っておくのはキツいなぁ……)
そう思った将和である。そして日本は震災の復興を急がせていた。外国からの救援は史実+シベリアとユダヤ自治からのも義援金が送られていた。政府は救援を差し伸べた国に一つずつ感謝の意を評した。
原内閣は復興計画としては後藤新平の帝都復興計画を元に進められるが資金不足等で結局は七億円強の予算となった。
計画としては火災の延焼を防ぐために防災用の緑地・公園を始め区画整理、下水道整備、アパートの建築等が進められるのであった。
そして年が明けた1924年一月二六日、皇太子裕仁親王(後の昭和天皇)と良子女王(後の香淳皇后)のご成婚で日本中が沸き立つ中、将和と夕夏、それに子ども達はウラジオストクに降り立っていた。
「此処がウラジオストクね。ほら、外国よ将弘、将治」
夕夏はそう言いながら二人の息子の手を引いて用意された車に乗り込んで走り出す。目指す場所は皇帝一家が住む仮皇宮である。
「……君がミヨシ大佐かね」
「はっ、皇帝陛下」
将和はアレクサンドル四世と二人きりでの面会をしていた。護衛もいない二人きりである。
「……話はクロパトキン等からはある程度は聞いている」
「……はい」
「君は我がシベリアに貢献してきてくれたのは確かだ。しかし、それを私人としてはそれは別だ」
「………」
「君は……人を幸せに出来るかね?」
「……月並み程度の言葉しかありませんが二人を幸せにします」
「二人ではない!!」
将和の言葉にアレクサンドル四世が吼える。
「……君もだ」
「………」
「君も幸せになりなさい。君も幸せになる権利はある」
「……はい」
アレクサンドル四世の言葉に将和は深く頷くのであった。
「例えどのような形になろうと幸せになりなさい。汚れは我々が拭うものだ」
「……胆に命じます」
将和はアレクサンドル四世に頭を下げるのであった。その後、将和とアレクサンドル四世はウォッカで飲み合うのである。
なお、一月から皇太子裕仁親王(後の昭和天皇)と良子女王(後の香淳皇后)のご成婚で日本中が沸き立つ中の四月、政府は将和を世界大戦とシベリア紛争、撃墜王の功績を讃えて男爵の爵位を叙せられる事とシベリアの故ニコライ二世の娘であるタチアナ皇女、アナスタシア皇女との結婚を公表した。
なお、将和は部下の小沢達を集めて前もって二人と結婚する事を伝えている。
「今度は二人ですか……」
「皇女、隊長の事をよく見てましたからね」
「夕夏さん公認なら納得ですね」
「というよりよく隊長を落とせましたね」
「浮気したら夕夏さんに報告ですね」
「いつ夜戦するんですか? まさか3P……」(真顔
「最後の奴は誰だ!!」
「吉良でーす」
「てめぇ多聞丸!?」
小沢達は将和に祝福をするのであった。なお、最後に発言した吉良は飲み代を全部奢るはめになるのである。
「そういえば隊長はいつ頃異動ですか?」
「二十日に異動だな」
将和は二月には軽巡『五十鈴』艦長に内定していた。二月の中旬から心得として『五十鈴』に乗艦して堀悌吉大佐から操艦の手解きを習練していたのである。
「飛行隊長から艦長ですか。大変ですねぇ」
「空母の艦長は飛行パイロットじゃなければ出来んからな」
日本もアメリカ同様に空母の艦長はパイロット出身者がする事に決まっていた。しかし、パイロットはまだ少ないので大正十八年頃(まだ昭和では無いのでこのように表現)から導入する事になっていた。
「お前らも空母の艦長に進むだろう?」
「そうですね」
将和の言葉に塚原達は頷く。
「吉良が空母の艦長になったら他艦と衝突しそうだな」
「酷いですよ隊長!?」
『ははは』
憤慨する吉良に皆が笑うのであった。なお、将和の自宅は二人の事を考えてまたしても取り壊しとなり和洋折衷の屋敷を建設していた。それなりに大きい屋敷ではあるがメイドは一人しかいない。まぁ予想通りの夕夏である。
「旦那様、お帰りなさいませ」
メイド服で将和を出迎える夕夏に将和は無言で親指を立てるのである。なお、それを目撃したタチアナとアナスタシアが夜戦で追撃戦をしたのは言うまでもない。そのおかげかは知らないが同年七月に二人の妊娠が判明するのであった。(妊娠三ヶ月)
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