第三十三話
一方、ソビエトはソビエトで諸外国軍ーー連合軍への反撃の機会を探していた。だがソビエトもソビエトでポーランドとポーランド・ソビエト戦争を展開しており兵力は少なかった。それでもソビエト軍は二十万を集めて米英軍が占領したハバロフスク奪回を企んでいた。
「我々の目標は皇帝の子ども達を捕虜としてニコライ三世を我々で裁判にかけて処罰する事である」
史実より早期に建国された極東共和国の人民革命軍総司令官になったヴァシーリー・ブリュヘルはそう訓辞する。チタに構えた司令部でブリュヘルは早期の増援を要請していた。
「早めに連合軍を叩かねば脱走者が増える」
一部の皇帝派は亡命帝国政府に参加するために脱走をしたり亡命をするので士気は低下していた。レーニンらもそれを分かっていたのでシベリア方面に新たに10万の兵力と三個航空隊を増援として派遣させた。
特に航空隊は日本義勇軍に将和が航空隊にいたのを知るとソビエトでも選りすぐりのベテランパイロット達を派遣したのである。(賞金が掛けられたからである)
そして連合軍はハバロフスク攻略後、コムソモリスク・ナ・アムーレやアムール川下流に軍を出して攻略していた。これは万が一、ウラジオストクに帰還出来ない場合を想定して樺太に逃げ込めるようにしていたからである。これにより沿岸州は完全に連合軍が手中に治める。
そして日本の義勇軍は今のところはウラジオストクでの治安警備や配属されたばかりの新兵の訓練をしていた。航空隊も米英の連合軍航空隊との訓練をしており、将和はヒヨコパイロット達を指導していた。また、それを見るためにタチアナ皇女とアナスタシア皇女の二人がこっそりと御忍びで飛行場に来ていたりする。
「またかよ……」
「あら、何か悪いかしら?」
「いえ……」
「フフッ……ところでらぁめんはまだ無いのですか?」
「我慢しろい」
帰ってきたらタチアナ皇女とアナスタシア皇女、護衛の兵が自室の前で待ち構えているのは何度もあったりする。今日もそうであった。護衛兵は扉前で警備だがただ単に三人は他愛ない話をするだけである。そして皇女は二枚の写真を見つけた。
「あら、これは……?」
「あぁ、出しっぱなしでしたね。それは妻と子どもですよ」
「違うわよ、それは前回も会話したじゃない。この写真よ」
タチアナはそう言って指指すのはグレイスらが写った写真だった。
「あれ? 言ってなかったか? これはーーー」
将和は二人にグレイスらの事を説明するとタチアナはムスッとした表情をし、アナスタシアはあらあらとしつつもボルシチを食べていた。
「? ど、どうしたーー」
「どうしたじゃないでしょ!!」
将和の言葉にタチアナは将和の両頬をつねる。
「あたたたたたッ!?」
「グレイスーーシェリルの気持ちは前回から知っていたから良いとして、そうホイホイと他の女を引き寄せるのはやめなさいっての!!」
「いひゃいッ!? いひゃいから!?」
「少しは反省しなさいっての!! 此方にも家とか受け入れる準備があるでしょうが!!」
「受け入れる前提なんですね御姉様……あ、お代わりで」
「どうせ女を引き寄せるのはこいつの性格上、いつもの事よ!! あんたは磁石かっての!!」
「なら私達はN極でしょうか……取り敢えずボルシチお代わり」
色々とタチアナとアナスタシアに見透かされている将和である。
「全く……少しは予定というものを考えなさいよ」
「ア,ハイ(え、俺が悪いのか……)」
多分悪いのは作者である。(何)
それから数日後、ニコライ三世はハバロフスクにて負傷した連合軍の兵士達の面会をする事にしてタチアナ皇女とアナスタシア皇女も同行した。その際、将和らの第一航空隊も戦線の参加のためにハバロフスク飛行場へ駐屯する事になり将和は一足先にハバロフスク飛行場へ降り立っていた。そしてハバロフスクにニコライ三世が現地入りをした事を知ったブリュヘルは航空隊にハバロフスク爆撃を命じたのである。
「ニコライ三世を抹殺しろ!!」
ソビエト航空隊はドイツから格安で購入したアルバトロスD.3戦闘機やフランスから購入したスパッド7等が主力であり爆撃機はこれもドイツから購入した双発重爆撃機ゴータG.4であった。かくして戦闘機32機、爆撃機19機はスミドビチの飛行場から離陸して一路ハバロフスクへ向かう。その一方、負傷兵達と面会したニコライ三世とタチアナ皇女は飛行場を訪れて航空隊の見学をしていた。
「ふむ、流石ですね。流石は大佐です」
そう頷くニコライ三世である。ニコライ三世は将和に疑問がある事を一つずつ問いては将和が答えていった。
「ところで大佐、あの穴は何ですか?」
「あれはタコツボです」
「成る程、これがタコツボですか。話には聞いていましたが一人か二人ぐらいしか入らないですね」
「これは空襲に備えて掘った物です」
「成る程」
「………(説明する将和の姿も良いわね)」
ニコライ二世に説明する将和を横目にタチアナ皇女は将和を見ていた。なお、その視線は捕食者の目線だったとアナスタシアは後に語る。そして複数の飛行機音が聞こえてきた。
「ん? まだ着陸していない機が――」
飛行機音の方角を見た将和は徐々に大きくなる複数の飛行機に驚愕した。
「あれはドイツの爆撃機!?」
「な――」
「皇帝陛下は早くタコツボに!!」
将和はニコライ三世と護衛兵をタコツボに入れて自身もタコツボに入る。ヒュルルルと風切り音が聞こえズン、ズンと大地を震わせる爆弾の音に将和はスッと頭を出すとタチアナ皇女とアナスタシア皇女がまだタコツボに入らず地面にペタリと座り込んでいた。
「二人とも!! 早くタコツボに!!」
「こ、腰が……」
「ごめんなさい貴方……」
アナスタシア皇女はいきなりの事で腰が抜けて立ち上がれなかった。タチアナも同じであり右目から一筋の涙を流していた。そうするうちに爆撃の音は近づいてくる。
「くそ!!」
将和はタコツボから這い出て二人を両脇に抱き抱えるをする。
「ちょ――」
「口は閉じて!!」
将和は反論しようとするタチアナにそう言ってタコツボに入り込み二人の頭を自身の胸に寄せる。
「大丈夫、大丈夫。タチアナ、あの時も生きていたろ?」
「………うん……」
「………」
怯えるタチアナに将和は抱き締めながら頭を撫で、それに安堵したのかタチアナはゆっくりと頷く。その様子を良いなぁという表情をするアナスタシアであった。
その上ではソビエトの爆撃隊が爆弾を落としていく。飛行場も無論爆撃目標に入っており時折、爆発で砂が巻き上げられて将和らの頭に降りかかる。だが十分もすれば爆撃は収まり辺りは待機していた戦闘機が破壊されている等の被害を出していた。
「大丈夫か二人とも?」
「………」
声をかける将和だがタチアナは顔を真っ赤にしていた。
「タチアナ?」
「ん。ごめんなさい、久しぶりに貴方の匂いにクラッときたわ」
将和の声で漸く我に返ったタチアナは服を整える。
「一先ず爆撃終わったからアレクセイと共に避難してくれ」
「分かったわ、アレクセイ!!」
タコツボを這い出た三人は他のタコツボを見て廻る。だがニコライ三世が入ったタコツボが中々見つからない。
「……まさかッ」
嫌な予感を覚えつつ将和はタコツボを探し廻る。そして漸くそれらしきタコツボを見つけた時、将和は目を伏せてしまう。
「貴方? アレクセイはいたのーー」
「見るなッ!!」
「……ッ!?」
問いかけが怒号で返ってきた時、タチアナは気付いてしまった。将和の足元に一本の右腕が落ちておりその右腕の服は先程まで笑顔で笑っていたニコライ三世本人の服だった。
「アレクセイ!?」
「…………………」
二人が右腕だけとなったアレクセイに抱きつき嗚咽を流す。ニコライ三世と護衛兵が入ったタコツボにソビエトの爆撃隊が投下した爆弾が直撃したのである。
無論、ニコライ三世らは即死であり遺体もバラバラに吹き飛んでいた。将和は泣きじゃくる二人に頭を下げた。
「済まない……落とし前を付けてくる」
将和は反撃しようとしていた。無事な機体に歩み寄ろうとする将和に塚原が走って追い付いた。
「隊長!!」
「無事な戦闘機はあるか?」
「全部で十機しかありません」
「構わん、それで十分だ。司令、これより敵戦闘機を駆逐して落とし前をつけて参ります」
「うむ、頼んだぞ」
将和は高橋司令に敬礼をし十機のスパッドS.13戦闘機は急いで離陸して爆撃隊の後を追いかける。そして爆撃機の速度が遅かったもありスミドビチの手前で追い付き、空戦を展開した。
「クソッタレがァ!!」
ヴィッカース七.七ミリ機銃弾をゴータG.4のエンジンに叩き込む。エンジンから火が出たゴータG.4はグラリとひっくり返って落ちていく。将和の後方にアルバトロスD.3が回り込もうとするが将和は操縦桿を前に倒して急降下して難を逃れる。
「爆撃機は生きて帰すな!! 全機落とす覚悟でやれ!!」
結果として戦闘機三機、爆撃機七機を撃墜して被害は無しだった。
「済まないアレクセイ……」
帰還してから将和は亡骸となって安置室に横たわるニコライ三世にそう呟くのであった。
「汚れちまった哀しみに……か」
とある本の出だしをつい呟く将和。空は曇天だった。
「……一雨来るかな……」
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