第二十九話
ランツァウ外相の発言に連合国は混乱する。なお、日本(伊藤)は前回の事もあったのである程度は予想していた。
「他の事には我がドイツも連合国は従います……が、これに関しては何者にも譲れる事はありません」
ランツァウ外相の言葉に伊藤はチラリとロイド・ジョージ首相を見る。ロイド・ジョージは少しだけ頷いた。
「……分かりました。ですが外相、我々はスカパフローに繋留の艦船ではなく未成艦を頂きたい」
(……ほぅ、ドイツの面目を保たせたか)
伊藤の言葉にロイド・ジョージは内心、伊藤に感心していた。
「未成艦を……ですか?」
「はい。貴国が建造途中の『マッケンゼン』級をと思います」
(何? 『マッケンゼン』級は未成だったのか?)
ロイド・ジョージは驚いたように目を見開いた。イギリスが掴んでいた情報では『マッケンゼン』級は完成していたという認識だったのだ。
「……分かりました、日本がそれで良いというのであれば『マッケンゼン』級をお渡ししましょう」
「ありがとうございます」
(ムムム……日本の情報能力を誤っていたな……侮れないな……)
そう認識するロイド・ジョージである。また、それを端から見ていたフランスとしては面白くない。クレマンソー首相は即座に反論した。
「果たして日本が連合国にそれ程貢献出来たどうかではないかね? 我々が一番貢献したと思うが?」
クレマンソーの言葉に伊藤はジロリとクレマンソーとロイド・ジョージを睨む、更にクレマンソーが何かを言う前にロイド・ジョージに押さえられた。
「反論するのは国民の願いか? それとも一個人の感情か? ユトランド沖に参加していない国の口出しは遺憾ながら御免被る」
「………」
ロイド・ジョージの言葉にクレマンソーは反論する事なく黙ったままだった。その後の会議はほぼ史実通りになる。
ほぼというのはドイツの軍備縮小を伊藤と随伴していた秋山が疑問を唱えたのである。
「戦争に負けたからドイツの軍縮をするのは正しいと言えるだろう。だが東に新たな脅威が生まれている。その脅威に対抗するには10万や20万では対抗出来ないだろう」
伊藤の言葉は明らかにソ連を指していた。だが日本の疑問にフランス側(フォッシュ元帥の軍縮委員会)は猛反発した。
「馬鹿な事を言うな!! 国内世論が黙っちゃいない!!」
「日本は分かって言っているのか!?」
「火種を残していてはやがては大きな禍根を産むぞ。やるなら徹底的にやるべきだ!!」
これには伊藤達も予想していたのでそれ程反論せずに終わりを告げた。伊藤達にしてみれば日本が何をしていたか求めていたかを欲していたからである。
ちなみに日本の領土に関しては前回と同じく南洋諸島とニューブリテン島にニューアイルランド島だった。
遣欧軍等を派遣した成果が徐々にだが出てきていた。しかし、これに異を唱える国がオーストラリアである。オーストラリアの主張は「ビスマルク諸島等は我がオーストラリアが大戦が始まると占領した領土でありそれらの領土は我がオーストラリアとするべきである」との事だった。
流石に二島もは強引だとは伊藤も思った。しかし、イギリスとしては「わざわざ極東から十数万の援軍と艦隊を派遣し更には遠い欧州の地で血を流してくれたのだからその恩に報いなければならない」のでありオーストラリアの要求は甚だ却下とされる。
また、山東問題では袁世凱との交渉で日本が一時的に青島を占領していたが中華民国に返還する事になる。此処までは順調だった。(人種差別撤廃案は史実通り否決されている)それを乱す国がいた。
「我が亡命大韓帝国は日本及びロシヤに有利な条約によって外交権及び領土を接収された。是非とも連合国には中華民国及び大韓民国を打倒してもらい共に我が亡命大韓帝国の外交権及び領土回復を御願いしたい」
ウラジオストクに亡命政府を構える亡命大韓帝国の皇帝純宗からの密命を帯びた密使が講和会議となるフランス外務省の前に陣取り公然と活動を始めたのである。
「何で大韓帝国が此処にいるんだ!!」
伊藤は思わず叫んでしまうほどである。そして大韓帝国の活動は直ぐに終了させられたが会議でオーストラリア首相のビリー・ヒューズは改めて二島の割譲は承知しないと叫ぶ。
「躾が出来ない国に二島を渡す事は出来ない」
「………」
まさかの大韓帝国の登場に伊藤は頭を抱えてしまう。此処で日本と大韓帝国の関係を改めて説明しよう。
1904年の日露戦争時、何とか戦力が拮抗していた日露両軍だったが黒溝台会戦で日本軍が敗北すると親露派の皇帝高宗らがロシヤ軍と内通をして日本と結んできた条約等を全て破棄を通告しロシヤ製や旧式の小銃等で武装した一個連隊が漢城府にて徹底抗戦の構えを見せたのである。
そのため満州軍は奉天決戦を捨て旅順、半島の付け根である平壌等に後退して徹底抗戦を構えたのである。その後、日本海海戦で海戦史上類を見ない歴史的勝利を収め日本は講和への道を歩む事が出来たのである。
その後、高宗ら両班等の処断は清に任せて日本は半島の全てから撤退したのである。
それが何故此処に来たか? それは清が状況をややこしくさせたからである。というのも清はウラジオストクにいる純宗らの身柄要求を以前からロシヤに通達していた。が、ロシヤーーニコライ二世は日本を警戒のためにあえて要求に応じる事はなかった。
そのため清もそれ以上の事はしなかったが西太后の死後、史実と同じく辛亥革命が起こり色々とゴタゴタが発生するが……此処で厄介な事をしたのが孫文率いる中華民国である。
彼等は清国内で保護(という名の軟禁)していた李垠を新たな大韓民国初代総統として共和制国家として荒業プレイで発足させたのである。
そのため半島に大韓民国、ウラジオストクに亡命大韓帝国という二つの韓国が成立してしまうのである。(流石の将和も大韓民国が成立した時には「嘘だと言ってよバー○ィ……」と呟いた)
味方が欲しかった中華民国としてはこれ以上ないものであり以後、中華民国と大韓民国が密接になるのは言うまでもなかった。
そんな紛争地帯を新たに抱えてしまう日本である。それでも伊藤は気を取り直す。
「それならばニューアイルランドはオーストラリア領で構わないです」
「……うむ(くそ、日本に借りが出来てしまう。ヒューズめ……)」
伊藤の提案にロイド・ジョージは頷く。しかしヒューズは譲歩した事に活路を見いだせたと判断したのか更に捲し立てる。
「我がオーストラリアが要求するのは二島だ。それ以外にない!!」
「我がフランスも賛同だ。それに亡命大韓帝国の主張も日本は取り入れるべきではないのかね?」
そこへこれまで口を出さなかったクレマンソーが口を開いて反撃する。クレマンソーの反撃にロイド・ジョージは内心舌打ちをする。
(日本との仲を引っかけ回す気だな……)
「何か勘違いされてませんか? そもそも亡命大韓帝国の宗主権は清であり我が国は何も関与はしていない。見当違いも甚だしい」
伊藤はそう告げるもヒューズとクレマンソーは納得していなかった。そこでロイド・ジョージは一旦休憩としてヒューズを呼び出して怒号を含む叱責した。
「貴様は日本とイギリスの同盟を潰す気か!! わざわざ極東から援軍を持ってきた恩に報いなければならないのに貴様はどうしようもない要求をしよって!! そもそもオーストラリアは自治領だろう!! 貴様こそ何様のつもりだ!! 場合によって東洋艦隊を編成してシドニー沖に向かわせるぞ!!」
ロイド・ジョージの怒号にヒューズも流石にマズイと思ったのか漸く二島の割譲を取り下げるのであった。
そして六月二十八日、連合国とドイツの間で講和条約が締結された。ヴェルサイユ条約である。なお、その七日前の六月二十一日にスカパ・フローに抑留されていたドイツ艦隊は全艦艇が接収され分配されるのを恐れて一斉に自沈してしまう。
しかし、日本が賠償艦として通告された『マッケンゼン』級は未成なため座礁以外で唯一の残存艦である。なお、他にもUボートのU-125を筆頭に七隻のUボートが賠償艦として日本に与えられ日本に回航されたのであった。
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