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第二十六話







 五月、アメリカ遠征軍(AEF)師団が初めて前線に投入されて勝利を収める。そして夏までには毎月三十万命もの兵士がアメリカから輸送されてくる事で総兵力二百十万になり均衡だった西部戦線に変化が生じるのである。


「前回も思ってたけど……アメリカパネェわ」


 報告を聞いた将和はそうボソッと呟くのも無理はなかった。またドゥラーズ会議において英仏軍は指揮系統の統一に同意して連合国軍最高司令部が設置されて総司令官にはフェルディナン・フォッシュが任命されている。

 七月、第二次マルヌ会戦は史実通りの勝利を収める。その時にも航空戦が発生して将和も参戦して遂に人類初の三桁撃墜を記録した。


「こいつで百機目だ!!」


 アルバトロスD.Vにヴィッカース機銃を叩き込む。機銃で左翼を吹き飛ばされたD.Vが地上に落ちていった。


「隊長!!」


 将和の撃墜を確認した部下のパイロット達が将和の機に近寄る。手を振るパイロット達に将和は照れ臭そうに手を振るのであった。


「そうか、百機撃墜したか」


 帰還後、山崎司令に報告すると山崎司令は将和は日本酒を渡す。


「これくらいしかないが、皆で一杯やってくれ」

「は、ありがとうございます!!」


 司令室から出ると将和は記者達に囲まれる。


「三好大佐、百機撃墜おめでとうございます!!」

「今の感想を!!」

「まだ実感がないです」

「今後も戦闘機に?」

「命令が無い限りは戦闘機に乗るつもりです」


 記者達の追撃を振り切り食堂の前に行くとラッセルがいた。


「おめでとうミヨシキャプテン。こいつは祝杯のブランデーだ」

「ありがとうラッセル」


 ラッセルからブランデーを受け取る将和。


「今日は流石にインタビューは出来んだろう。また後日頼む」

「分かった、済まない」

「良いってことよ」


 ラッセルはヒラヒラと右手を振ってその場を後にするのであった。そしてその日はどんちゃん騒ぎだったが、こっそりと将和は宴会場から抜け出して夕夏と子――将弘の家族水入らずで過ごすのである。

 翌日、欧州の各新聞は将和の百機撃墜の報道を一面で伝えるのであった。フランスなど『日本軍のパイロット、遂に撃墜数を三桁に』とまで報道している。だがその頃、連合から離脱していたロシアである事が起きていた。

 七月十五日の夜半、ウラル地方のエカテリンブルクのイパチェフ館を密かに包囲する集団があった。


「……どうだ?」

「そろそろ効果が出るでしょう」


 十数分後、イパチェフ館の外を警備する兵士達が次々と地面に倒れていく。


「山田隊長」

「分隊ずつ行動せよ」


 部隊長の山田乙三大尉の命令で数個の分隊がイパチェフ館の出入口に取りつく。


「……眠っています」


 扉を開けて中を見ると床で寝ている兵士達が多数いた。


「全隊、イパチェフ館に突入せよ!! ニコライ皇帝一家を救い出せ!!」


 近くの農家の納屋で報告を受けた明石大将は発令させた。それを受けた特殊部隊「忍」がイパチェフ館に突入する。

 だが突入した瞬間、地下から銃声が聞こえた。更に続けて銃声が聞こえてくる。


「隊長!?」

「地下だ、急げ!!」


 山田達は駆け出す。途中、まだ薬が回っていなかった兵士らがいたがナイフや四四式騎銃等で処理していき、地下二階へ突入した。


「ニコライ皇帝!?」


 突入した瞬間、山田の目に飛び込んだのは倒れた兵士(恐らくは銃殺隊)とニコライ一家であった。立っているのは返り血を浴びたのか二人の女性と数人の銃殺隊である。その二人の手には拳銃(ナガンM1895)が握られていた。


「撃て!!」


 山田らは四四騎兵銃等で生き残りの銃殺隊を射殺した。あっという間の事であった。


「皇女……?」

「「ッ!?」」


 山田の呟きに二人は振り返り山田に向けようとしたが銃殺隊で無い事に気付いた。


「東洋人……?」

「日本軍です」


 山田は直ぐに駆け寄る。


「御無事で?」

「私とアナスタシアは無事よ。けど……」


 山田と話す皇女ーータチアナは倒れているニコライ皇帝、アレクサンドラ皇后を見つめる。ニコライ皇帝らは最初の銃撃で死亡したのである。

 タチアナは数分前の事を思い出す。全員が集まるよう言われた時、タチアナとアナスタシアは(早すぎる!?)と思いながらも直ぐに服の中に拳銃とナイフを隠して地下二階へ向かう。

 そして告げられる処刑にニコライ皇帝らは喚く中、一瞬の隙を突いて二人は拳銃を取り出し銃殺隊に向けて発砲した。

 最初に山田達が聞いた銃声は二人の拳銃からだった。二人からの銃撃で倒れた数人に銃殺隊は驚きながらも生き残りは直ぐに拳銃を構えて発砲した。この銃撃でニコライ皇帝、アレクサンドラ皇后、召使のイヴァン・ハリトーノフ、アレクセイ・トルップが亡くなった。

 直後に山田らが突入してきたのである。


「兎に角も脱出しましょう」


 山田はそう言って二人と負傷して倒れているオリガ皇女達を保護して納屋にまで移動させた。


「そうか、ニコライ皇帝は……」

「わざわざ此処までありがとうございます。貴方は?」

「これは失礼。私は日本帝国陸軍大将明石元二郎です。日本政府の密命によりニコライ皇帝一家を救いに参りましたが……申し訳ありません」

「いえ、まだ私達が生きていますわ」


 明石大将の言葉にタチアナは優しくそう告げるのである。斯くして彼等はエカテリンブルクを脱出し東へ向かうシベリア鉄道、その終点のウラジオストクに向かう列車の中に明石大将の特殊部隊とタチアナらは乗り込む事に成功するのである。


「暫くは大丈夫でしょう」

「そのようですね。しかし、日本は私達を助けて宜しかったのですか?」

「確かに我々はかつて刃を交えました。ですが、我々日本はボリシェヴィキを信用していない」

「……私達は信用すると?」

「少なくともですな。まぁ私は上から命令をされてロシアの地を踏んでいるわけですから」

「……ヤポンスキーの独力では私達の救出は出来ない。そうですね?」

「その通りです。南樺太にいる親友達の手を借りたりしました」

「サハリン……成る程、ユダヤ人ね?」

「えぇ。ロシア帝政下で抑圧され続けた民族です」

「……やはり皮肉ですね」


 それ以降、タチアナは何も語らなかった。一方、ニコライ一家が何者かに誘拐された事の報告を聞いたウラジーミル・レーニン初代人民委員会議議長は警戒態勢を敷かせた。


「チェコ軍団がエカテリンブルクに入った報告は聞いてないぞ!!」

「は。生き残っていた警備兵に尋問したところ、夜半に出された夜食後に急激に眠気が襲い気付けば朝を迎えていて死体は皇帝、皇后らのみで皇女達はおらず、他の兵の死体が複数あったのみであります」

「エカテリンブルクを中心に警戒態勢だ!! シベリア鉄道の列車も全て停止させろ!!」


 だが、その命令が届いた頃にはタチアナらと明石大将の特殊部隊はハバロフスクに到着していた。この命令伝達にはかなりの遅れがあり、何者かの関与が当時からあったと言われているが今日でも分かってはいない。ハバロフスクに到着した明石大将らは用意されていた馬で北樺太の対岸であるラザレフに向かい一行は用意されていた船で北樺太に渡るのであった。

 この時、ハバロフスクからラザレフまでの旅をアナスタシア皇女が後に自伝を出す事で日本までニコライ一家の脱出ルートが分かる事になる。


「シベリアに出兵が出来た。これで遣欧軍の帰還も出来るだろう」

「英仏は?」

「イギリスには内密に『話』をした。向こうも帰還を認めてくれるだろう」


 首相官邸で伊藤達はそう話していた。


「しかし……」

「あぁ。今回は子ども達だけしか救えなかった」

「史実とやらを数えたら差し引きは0だ狂介」

「だな……」

「それにどうやら遣欧軍は陸軍にお土産があるようだ」

「はい……三好大佐からの情報で聞いていましたが短機関銃とは……」


 遣欧軍はドイツ軍の春期大攻勢用の決戦兵器として製造されたMP18を前回と同じく数丁を捕獲していたのだ。


「今後の戦闘が少し変わるだろうな……」


 伊藤はそう呟くのであった。九月、第二次ソンムの戦い後、ジョン・パーシングに率いられたアメリカ遠征軍が五十万以上の兵力を投入したサン・ミッシェルの戦いが開始された。それに呼応する形かは分からないが遣欧軍は日本へ帰国する事になる。

 理由はシベリア出兵である。フランスは兵力が減る事に躊躇したがアメリカもいたので気にしなかった。その代わり、重砲、野戦重砲の連隊はそのまま欧州の地に留まらせておく事にした。また、第一航空隊も引き続き欧州の地にいる。やはり将和の百機撃墜が効いていたのだ。

 遣欧軍が引き揚げる中には看護婦の夕夏もいた。


「気を付けてね貴方?」

「あぁ、大丈夫。終わったら親父さんらに挨拶に行くよ」

「……分かったわ。なら御願いがあるの」

「ん?」

「今回も必ず生きて帰って」

「……分かった。必ず帰るよ」


 将和は夕夏の頬にキスをして夕夏は将弘を抱いて輸送船に乗船した。船が港を離れる中、将和は夕夏が乗る輸送船が水平線に消えるまで敬礼をするのであった。

 そして九月下旬、アメリカ遠征軍十個師団がヒンデンブルク線を奪う試みのムーズ・アルゴンヌ攻勢が開始された。第一航空隊も参戦してドイツ軍の飛行場を空襲したのである。


「飛び上がる前に撃破だ!!」


 将和らのスパッドS.13は滑走路にあったアルバトロスやフォッカー等の戦闘機を機銃掃射して炎上、撃破させた。


「後方から敵機!!」


 一機のアルバトロスD.Vが将和らの編隊を崩す。崩れたところで数機のD.Vが乱入して空戦となる。

 ふと将和の視界に1機のフランス軍のスパッドS.7が数機のアルバトロスDr.1に追われていた。

 将和は降下して後方から忍び寄り1機を撃墜しもう1機は遁走した。

 将和がスパッドS.7を見るとパイロットは何やら捲し上げて手を振り回しながら将和を指差す。何やら文句を言っているようにも見えた。


「何だありゃ……?」


 将和は気味が悪いと思い離脱する。そして新たなアルバトロスDr.1を見つけて機銃弾を叩きつけるが横滑りをして逃走する。


「この……!!」


 逃走するDr.1は左旋回をして将和の後方に出る。後方を振り向く将和だが更にDr.1の後方にはスパッドS.7がいた。そのスパッドは一連射でDr.1を仕留め別のDr.1を求めて去っていく。


「ほぅ……中々の腕前じゃないか。俺も負けられないな」


 そう呟く将和だった。







御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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