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激鐡!! ~ヒノモト妖撃譚~  作者: 甲賀野カッパ丸
章之壱 黒い鉄も磨けば光る!【新参編】
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壱之八 永永無窮 姫組の長い1日 其の弐

スミマセン、今回少し書き足しました…

 魔方陣に転送された先は見たことのない街道だった。スマホの地図アプリを確認すると、目的の農村はここから北にかなり歩く距離にある。

 ふと、あたしは他の二人がどこに飛ばされたのか気になった。ふと見ると、腕についてるブレスレットにいくつかボタンがある。そういえばこの戦闘服について何の説明もされていなかったなあ…仲間と連絡するのに無線機は搭載されていないのだろうか。そう思ったあたしはブレスレットのマイクの絵が印字されているボタンを押した。

「みんな、どこにいるの?」

 とたんにあたしの声が大音響で街道中に響き渡った。これは拡声器のボタンかい!やばいかも…周りには民家がある、このままだと人が出て来ちゃうよ…あたしは走ってこの場から立ち去ることにした。

 てえ、速い速い!いつも走ってるスピードの何倍も速い!この戦闘服。着ている人の身体能力が格段に跳ね上がる仕組みになってるのぉ?あたしはブレーキをかけたが、ちょっと走っただけでも鉄砲の弾と同じスピードが出てしまうのですぐには止まれない。これで民家の壁なんかぶち破っちゃったら絶対大騒ぎになっちゃう!何とか軌道を変えて木にぶつかるようにしたけど、勢いで木をへし折ってそのまま下を流れる川に落ちた。

 川が浅くて助かったけど、これじゃあ危なくてむやみに走れない…どうしたものか…


*(視点変更:鐡 → 白銀)


 私が魔方陣で転送された先はどこかの集落…いや、正確にはかつて村だった場所…といったところかしら。幸い赤銅も一緒だった。

 赤銅がスマホの地図アプリを見せる。ここは目的の農村から1里ほど北にある森の奥。寂れてて今にも倒れそうな家がほとんどだ。人はおらず、あちこちに骨が転がっている。これらがかつてなんだったかは考えたくもない。至る所に雑草がぼうぼうに生えていてカラスの鳴き声があっちこっちから聞こえてくる。


「う…!」

 あたりに漂う死臭で吐き気を覚える。四方を森で囲まれているため、村中に臭いが充満しているのだ。

 何軒かの家の中にはミイラのように干からびた死体があり、蝿がたかったり、カラスが死体をついばんだりしていた。彼らは飢え死にしたのだろうか…

 

 ふと、6年前の出来事が頭をよぎった。その年は日照りが続き、ほとんど雨が降らなかったため、どこの農村でも不作が相次ぎ、深刻な食糧不足に陥った。俗に言う大飢饉だ。作物が実らないとわかると、問屋やスーパーなどに人々がなだれ込んで保存食や米俵を買い占めていった。そのため国中の食料が減っていき、飢饉の規模がさらに拡大していった。

 その結果、この大飢饉で村人たちが全滅し、地図から名前が消えた村は優に100を超えたといわれている。もしかするとここもそのうちのひとつかもしれない…

 赤銅が一緒じゃなかったら、今頃私はこの異様な光景に正気を奪われていたかもしれない…私は赤銅と一緒にこの村を出ることにした。


*(視点変更:白銀 → 鐡)


 迷ったっぽい…

 行けども行けども同じ風景しか見えない…この街道、迷路みたいなんだもん…いや、あたしが方向オンチなのかも知れない…

 どこをどう歩いたかもわからない…目的の農村は未だ見えない。戦う前から歩き疲れてもうへとへと…あたしはその場に座り込んだ。

 ふと、腰に下げたポーチが気になった。開けてみると中にはスティック状の忍者食が何本か入っていた。一本食べてみる。うまい、これだけで腹いっぱいになった。

 再び歩こうと立ち上がったとき、近くで物音がした。みると子供がひとり、街道を歩いていた。この子には見覚えがあった。確か…磯之助くん。

「キミ、こんなところで何してるの?家はこの辺?」

「ご、ゴメンナサイ…オイラ、あの…」

 あたしが聞いてみると、磯之助くんは何かに驚いた表情であたしの後ろを指差す。振り向くと背丈が8尺5寸はあるであろう大男が二人、あたしの後ろに立っていた。一人は牛の顔をしていて、もうひとりは角の生えた馬のような顔をしていた。

「ひっ!?」

 こいつらも妖怪なんだろうか…でも、あたしは驚いて腰を抜かした。

 二人の大男が口を開く。

「人間よ、どけ!我等は今、我等を呼ぶ者の元へと向かっている」

「道中で腹が減っていても、わっぱ二人では腹の足しにもならんからなあ…がははは!」

 そういうと二人の大男は笑いながら去っていった。妖撃隊になるとあんな大物とも戦うんだろうか…でも、白銀さんたちと違って今のあたしには戦闘経験がなければ武器もない。あたしは…震えながらその姿を見送ることしかできなかった…

「おねえちゃん、大丈夫?」

 磯之助くんの呼びかけでふと、我に返る。

「ね、こういうコワ~イ妖怪も出るから君も家に帰りなさいね」

「う、うん…」

 磯之助くんと別れると、あたしは高く跳びあがって農村の場所を探した。ここから真北にその農村はあった。あたしは家々を飛び越えながら農村に向かった。


*


 農村に着いたが、まだ白銀さんたちの姿が見えない。あたしが先に到着したようだ。餓鬼もまだ出てきていない。でも、これだけ農村がだだっ広いとどこから餓鬼が出てくるかわからない。あたしは警戒した。五感を研ぎ澄ませ、出方を伺う。

 しばらくして、地面から這い出るようにそいつらは現れた。餓鬼だ!今朝ほど、写真で見たのと同じ顔で、胴は風船みたいに膨れていて、肉がついているとは思えない細くて短い手足。しかし、その手の爪は鋭く、こんな手で引っ掻かれたら肉がえぐれてしまう。

 その数、なんと11匹。まさに多勢に不勢だ。出てきた場所はばらばらだが、彼らは一斉にこっちを見た。そして気味の悪い声を上げながら一斉に飛び掛ってきた!


「ウボエエエェェェェェ!!」

「ひいっ!」


 対抗しようにも武器がない。あたしは間一髪でよけたが、何匹かは着地する際、歯をガチンと大きな音をたてながら石を噛み砕いていた。まさにプレス機のように強力なあごだ。あれに咬まれたら最後、肉を食いちぎるまで離さない。あたしは今朝ほど見た、あの死体を思い出した。

 そのうちの何匹かは急にあたしに向かっていくのをやめ、畑に向かっていった。農作物を食い荒らす気だ、させない!

 あたしは餓鬼の角を掴んで放り投げるなどして、できるだけ餓鬼を畑から引き離した。食べ物を目前にして邪魔が入ったため、餓鬼たちは激高して再びあたしに狙いを定めた!


「シャギャーーーーーーーーーーッ!!」

「くっ!」


 奴らが飛び掛ってくる!でも腕でガードしてはいけない、腕を噛まれてしまう。だったら方法はひとつ、コブシで抗う!攻撃こそ最大の防御って言うもんね!


「せいっ!」


 でも、正面から向かってくるヤツに拳を繰り出しても餓鬼には届かなかった。戦闘経験のないあたしは相手との間合いのとり方がわからなかった。逆に相手に間合いをとられて咬まれたり引っ掻かれたりされそうになり、すんでのところで身をかわす。


「あっぶなあい…」


 ぶん殴るにしても顔を狙ってはいけない。ヘタしたら手を噛まれてしまうからだ。

 不意にモニターに「危険!」の文字が表示された。餓鬼の1体があたしを引っ掻こうと背後から両腕を大きく広げて飛び掛ってきたのだ。


「見えたッ!」


 餓鬼が腕を動かすタイミングを見切って身をかがめた。


「ふんっ……、だあっ!」 


 立ち上がると同時に拳を突き上げる。アゴにヒット!殴られた餓鬼は打ち上げ花火のように高く宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられた。そんなに力を入れてなかったのにすごい威力だ。これも戦闘服の効果なのかな?

 とにかく、周りの畑に被害を出さないようにするには、餓鬼が畑に行く前に片っ端からぶん殴って気絶させるしかない。しかし、彼らの原動力は空腹による本能。すぐに目を覚まして起き上がってくる。こんなの夜通しやってたらこっちがくたくたになっちゃう。でも他に方法が浮かばなかった。

 武器を持ってたとしても彼らを殺すことなんて、あたしにはできない…だって、こいつらすでに死んでいるとは言っても、もとは人間の子供だったんだから…

 そうじゃなくてもこいつらを殺してはいけない気がした。お父さんが言っていた「餓鬼を殺してはいけないもうひとつの理由」がどうしても思い出せなかった…

 何よりお父さんは盗みは散々働いてたけど、殺しだけは絶対にしない人だったから。あたしも…どんな妖怪であれ、殺す気にはなれない…

 仕方ない、作戦を変えよう。餓鬼たちの相手をしながらできるだけ農村から遠ざかるんだ。そしてそのあとは…そのときに考えよう…そう思っていたんだけど、餓鬼たちの相手をしているうちに…ふと、違和感を感じた。さっきっから襲ってくる間隔が開いていると思ったら餓鬼の数が6匹に減っている。最初11匹いたはずなのに、残りはどこへ…


 その時だった。


「わあああっ!」


 不意にそれほど遠くないところから聞き覚えのある叫び声がした。声のするほうを見ると、なんと磯之助くんが何匹かの餓鬼に囲まれている!うそ、なんであの子がここにいるの!?


 餓鬼の群れから磯之助くんを救い出すと、その足で長らく使われていないと思われる古びた蔵の中に逃げ込んだ。

「なんでついて来ちゃったの!危ないって言ったじゃん!!」

「ごめんなさい。でも、ここは…」

 磯之助くんがそう言いかけたとき、蔵の外で銃声と金属音が響いた。遅れて到着した白銀さんたちが餓鬼たちを倒そうとしているんだ、止めないと!

「キミはここから動かないで!いいね」

「う…うん」

 そして、今の銃声であたしはお父さんが言ってたことをすべて思い出した。


「…間違ってもあいつらを殺しちゃあいけねえ。あいつらはな…昔、飢え死にした子供の成れの果てなんだ。それだけじゃあない、奴らは1体でも死ぬと…残ったやつが金切り声を上げて仲間を増やしちまう。そして大勢の餓鬼が周りのものを手当たり次第に食べはじめて、あとには雑草の一本だって残らねえ。傷をつけるのもダメだ!やつの血は物を腐らせちまう」


 あたしは蔵を飛び出して白銀さんたちのもとに向かった。

 スマホのGPSで白銀さんたちの居場所を探す。向かって左にかなり遠い場所にいる。あたしは高く飛び上がって、白銀さんたちと餓鬼達の間に着地した。幸い餓鬼はまだ1匹も死んだり傷ついたりしていない。

「待って、餓鬼たちを殺しちゃダメ!」

「ええっ!?どうして…」

 あたしは、餓鬼の正体が昔飢え死にした子供の成れの果てであること、1匹でも殺すと残った者が金切り声を上げて仲間を増やしてしまうこと、餓鬼の血が物を腐らせてしまうことを話した。白銀さんたちは驚愕した。

「そんな…それじゃあむやみに手を出せないじゃない」

「何か方法はないものでしょうか…」

 一番手っ取り早いのは餓鬼たちに食べ物をあげることだけど、その辺の畑から作物を勝手に引っこ抜いたらそれこそ畑を荒らしているのとかわらない。ええい、これだけはやりたくなかったけど…あたしは腰に下げたポーチから忍者食を掴めるだけ取り出すと、農村の外に向かって放り投げた。それを追って11匹の餓鬼たちが全員農村を出て行く。勿体無い…できればあの忍者食、もっと食べたかった…

 でも、農村の危機は去ったことにかわりはない。多分、一時的だけど。


「お~い、もう出てきても大丈夫だよ」

 あたしは蔵の中に隠れてる磯之助くんに呼びかけた。おそるおそる蔵の中から出てくる磯之助くんを見て白銀さんたちは少し驚いた様子だった。

「鐡、この子は誰?」

「わけあってここに来たみたいだけど…」

 そういえば、この子がここにきた理由…ちゃんと聞いてなかったな…と、今気がついた。

「ねえ、キミはどうしてここにきたの?」

「実は、この先の森を抜けた先にオイラたちが生まれ育った村があるんだ。最近、この森から人が出てこなくなったって噂を聞いて村の様子を見に来たんだけど…」

 しかし、もう夜もふけてきているので村の様子を見るなら明日の朝がいいと言うと、磯之助くんは納得してくれた。しかし、後ろにいた白銀さんたちはなにやら深刻な表情で顔を見合わせている。

「どうしたの?ふたりとも…」

 あたしが聞いてみると、白銀さんは磯之助くんのほうを向く。

「ねえ、あなた…その村って言うのはここから北の森の先にあるのかしら?」

「うん、そうだけど…」

「…おそらく、今のあそこはあなたの知っている村じゃなくなっているわ……」

 あたしと磯之助くんは白銀さんの言葉の意味がわからなかったけど、夜も遅くなってきたので、この日は南の街道に戻り、そこの宿で一夜を明かした。


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