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激鐡!! ~ヒノモト妖撃譚~  作者: 甲賀野カッパ丸
章之壱 黒い鉄も磨けば光る!【新参編】
8/34

壱之七 永永無窮 姫組の長い1日 其の壱

 いままでほのぼの日常回が続いてたのはバトルやアクションのシーンを文章にしたためる自信がなかったのです…

 また、今回より妖怪が登場しますが、舞台が異世界ということもあり、作中の妖怪の設定が皆様ご存知の妖怪のそれとは異なっております。ご了承ください。

 また、今回本当に残酷な表現がございます。ご注意ください。


「ねえ、知ってる?花江戸町には伝説があるの」

 ある朝、あたしが登校すると紫さんが話しかけてきた。

「その昔、花江戸町には度々妖怪がでて人々を襲ってたんだけど、「黄金(こがね)」っていう金色の仮面をつけた謎の女戦士が妖怪を倒していってたんだって。カッコイイよね~」

 うん、ちょっと興味があるかも…

「でも、それからしばらくして花江戸町に結界が張られるようになって妖怪が出なくなったんでしょ?そのせいで黄金さんも現れなくなっちゃって…」

 清原さんも紫さんの話に乗ってきた。

「そうなんだ…その黄金さんて何者だったんだろう…案外結界を張ったのがその黄金さんだったりして」

 あたしがいうと、

「たぶんそうかも…できれば会いたかったなあ…だって私たちが生まれる前の話なんだもん…」

 紫さんが残念そうに言う。なるほど、伝説になるわけだ…


*


 学校を終え、屋敷に帰ると居間で十乃蜜さんが刀の手入れをしていた。

「ねえ、とのっち…その刀、なんていうの?」

「名刀『陽ノ咬(ひのかみ)』よ。太陽神の血でコーティングされた特殊鋼に魔を退ける力のある銀をちりばめて鍛えた刀だってお母様は言うけど、そんな物が本当にあるのかしら…お母様はああ見えて、けっこう怪しいセールスにひっかかることがあるから胡散臭いのよね…」

「その割には大事にしてるよね」

「まあね、でも切れ味は本物みたいだからわりかし気に入ってるの。実際これで何匹かの妖怪を斬り倒したことがあるから、私にとっては良き相棒ってところかしらね」

「ふうん」


 そんな話をしてると、足元から銃声のような物音が聞こえた。この真下に射撃訓練場でもあるのかな?

「ああ、下では今、ひよりが射撃訓練をしているわ」

「練習できる場所があるの?」

「円卓の部屋からじいさんのいる部屋まで続く通路にいくつか隠し扉があるの。そのうちのひとつが射撃訓練場に続いているわ」

 なるほど、それであの通路があんなに長かったのね。あたしは地下の姫組の作戦本部に向かった。確かに、天蓋さんの部屋に続く通路の右側に何かの入り口があった。前に来たときはあんなのなかったのに…

 入ってみるとひよりさんが銃の試し撃ちをしていた。ひよりさんは二つの銃を持っている。どっちが使い勝手が良いのか比べているのかな…

「ねえ、ひよりん…それ、両方ともひよりんの?」

「はい、この2丁の拳銃は浪花ノ町から花江戸町に行く際にお爺上から餞別にもらったものです。黒いのは「流星」、白いのは「一番星」といいます」

 標的を見るとほとんどが真ん中に当ってる。

「すごい、百発百中じゃん」

「たまにこうして試し撃ちをしないと、カンが鈍る気がするんですよ。これでもけっこうの数の妖怪をしとめた実績がありますよ」

 二人ともスゴイ…あたしは感心した。あたしにはまだ武器がないけど、妖怪に勝てるかな…二人はフォローしてくれるかな…そう思っていた。

 でもやっぱり平和が一番、花江戸町には結界が張られているから妖怪は出ないって清原さんが言ってたから、妖撃隊の出番はないのかもしれない…そう信じていた。

 ところが、言葉を返せば結界の外はバリバリに妖怪が出るという事実にあたしはまったく気がついてなかった…


*


 カン!カン!カン!カン!


 翌日の朝早く、屋敷じゅうに響き渡る火事を知らせるようなけたたましい鐘の音に叩き起こされた。

「うーるーさーいー!ナニ、この音!」

「五月、「仕事」よ!すぐ円卓の間に来て!」

 十乃蜜さんに呼ばれて、寝巻きのまま地下の円卓の部屋へ急いだ。

 円卓の部屋には巨大なスクリーンがある。依頼が入るとこのスクリーンに依頼人の姿が映る。ひよりさんが円卓の上にあるリモコンの受信ボタンを押すと、スクリーンに秘芽康様の姿が映し出された。


『十乃蜜はいるかい?』

「お母様!」

「奥方様…?」

 あたしを含め、全員が驚いた。

『仕事だよ。このたび奉行所に相談が入った。最近、あちこちの農村で畑の作物が食い荒らされているらしい。夕べも街のはずれにある農村が被害にあって、今、金七郎が調査に向かっている。協力してやってくんな!』

「「はいっ!」」

 うわ、あたしにとっては初仕事だ。ついに妖怪と対峙するんだなあ…いや、まだ妖怪の仕業だって決まったわけじゃないけど…


 現場となった街外れの農村はお城より遠かった…屋敷から北に2里ほど。秘芽康様の言うとおり、農村にはすでに金七郎さんがいた。

「来たか…」

「おはようございます、捜査の協力しに来ました」

 十乃蜜さんが金七郎さんに敬礼する。

 ふと、辺りを見回すと無残なほどに農村じゅうの田畑という田畑の作物のほとんどが食い散らかされていた。中には収穫を目前に控えたものもあって、農村の人たちは頭を抱えていた。

「うわ、ひっど…何にやられたのコレ」

「鹿やイノシシなどの害獣の仕業でしょうか…」 

「最初、その可能性を視野に入れていたのだが…被害にあった農村の中には鹿やイノシシの生息する山林が付近にない所もあったから害獣の仕業とは考えにくいな…」

 確かにここは山林に面しているけど、仮に鹿やイノシシがいたとしても一晩で食い尽くせないほどこの農村は広い。

「それだけじゃない、あれを見てみたまえ」

 金七郎さんの視線の先には大破したカカシ(ここで言うカカシはカラスよけの人形じゃなく、田畑の防衛システムのこと。監視カメラのほかに軽微な武装が搭載されている)や役人たちに搬送される死体があった。

「お奉行さん、あれは?」

「畑を荒らす『犯人』にカカシを破壊されたり、見張っていた農民が食い殺されることもあるんだ。他の農村でも同じ事象が何件も発生している」

「それってクマの仕業…でもないか…クマは満腹になると山に帰っていく習性があるしなあ…」

「うむ…確かに熊が山を降りて人里にくることも珍しくはないが、こんな広い範囲を喰い散らかしたりはしない…ホトケを見るのはかまわないが、胃の中をぶち撒くなら現場の外にしてくれよ?」

 あたしらは遺体を搬送する役人に無理を頼んで死体を見せてもらった。遺体はクマに襲われたとは思えないほど体のあちこちを喰いちぎられていた。

「………!!」

 思わずあたしと十乃蜜さんは口を押さえる。あたしは不意に胃袋を握りつぶされるような感覚に苛まれ、近くの池で吐いた。

「な…何なのこれ…絶対畑を荒らしたのはクマでもないよ」

「そうだな、これも見てくれ」

 金七郎さんは、被害にあった中でも辛うじて原型が残っている大根を見せた。歯形がついている。ケモノというより人の歯形に近い。しかもひとまわり大きいうえに所々隙間がある。


 そこに金七郎さんの部下が写真を持ってきた。破壊される寸前のカカシが撮った映像だ。写真には人とも動物とも違う顔が映ってる。これが…妖怪?耳まで裂けた大きな口に所々隙間のある大きな歯、顔の半分くらいある大きな目には眼球がなく、頭には2本の角が生えていた。おそらくカカシにしがみついて倒そうとした際、思いっきりカメラに顔を密着させたんだろう。でも、あたしはこの顔に見覚えがあった。


「餓鬼だ…」

「「餓鬼?」」

 

 そう、あたしが6歳の頃、貧民街の隣町にある図書館であたしは餓鬼の本を読んでいた。どんな内容かはほとんど覚えていないけど、畑を荒らしてばかりいる餓鬼に村人が食べ物をあげたら二度と餓鬼が出てこなくなった…そんな内容の本だった。その絵本に出てきた餓鬼がまさにこんな姿をしていた。

 そのとき、一緒にいたお父さんがこんな話をしていた。

「知ってるか?五月。餓鬼ってのはな、夜の間だけ活発に活動するんだぜ。あいつらは明るいところが苦手だから、日が昇ると地面の中に逃げちまう。あいつらは普段は夜になると人を脅かして食べ物を奪うだけだが、ひどく腹が減ってるヤツは人間を食い殺すこともあるんだ。奴らを追い払うなら食べ物をあげることだ。そうしたら何もしないで帰っていくぜ。だがな、間違ってもあいつらを殺しちゃあいけねえ。あいつらはな…」

 …あれ?その先が思い出せない…殺しちゃいけない理由…なんだったっけ…


「ねえ、お奉行さん…被害は夜中に集中してるの?」

「うむ、そうだな…昼間に被害が出たという情報は入っていない」

「他に情報はないかしら、どんな些細なことでもいいの」

「それなんだが…」

 十乃蜜さんが金七郎さんに食い下がるけど、被害が出るのは夜中であるのに加え、カカシが全部壊される上に寝ずの番をして張り込んでいる人まで殺されるので、やったのが餓鬼であること以外はほとんど情報が集まらなかった…被害を食い止めるにはまだ狙われていない農村で彼らを迎え撃つしかない。でも、その農村を探すにしても、花江戸町の周りにあるものだけでもウン十箇所もあるからしらみつぶしに探しても、その間に被害が広がってしまう。

「ねえ、お奉行さん。まだ被害が出てない農村ってわからない?」

「いま、調査隊を派遣して探してもらっているところだ。何かわかったら連絡が来るはずだが…」

 そこに金七郎さんの携帯が鳴った。調査隊からの報告だ。まだ被害が出ていない農村が見つかったみたい。よかったぁ…

 え、ナニ?ここから北東に4里ほど離れた山間部の…ここよりもっと広い農村…?てえ、ちょ…遠いんでない!?


*


 頂前9時ごろ現場検証を終え、屋敷に戻ったころには11時になっていた。あたしはこれが初仕事になるから、花江戸幕府から支給された戦闘服に袖を通しておく必要があった。瞬時に変身?そんなことできません。普通に更衣室で戦闘服に着替えるんです!

 あたしに支給された戦闘服は…えーと、まあ…そっちの世界で言うレオタードに装甲がついた感じ?動きやすそうだけど、冬場は風邪ひきそう…それにバイザーのついたヘルムを被る。これは正体を明かさないようにするためなんだって。もとより妖撃隊は人知れず妖怪を討つのが目的だから素性を知られてはいけないんだって。でもこのヘルム、何も見えないよ?…あ、そうか。スイッチを入れないとモニターが映らないんだ。これかな?


ヴィイ…


 をを~、外の様子が見える。被る前ほど鮮明じゃないけど…あれ?目の前にいるのは誰だろう…西洋兜みたいなヘルムに胸元がはだけている赤い服を着ている…まるで騎士みたいな…

「サイズぴったりみたいですね」

 その声は、ひよりさん?

「この姿の時は赤銅(あかがね)と呼んでください」

 え!?そうなの?あ、そうか…妖撃隊のメンバーは素性を明かしちゃいけないから名前で呼べないんだ…あたしはなんて呼ばれるんだろう…十乃蜜さんはなんて呼べばいい?

「隊長がまだ出て来ませんね。新メンバーに命名するのは隊長の役目なんですが…とりあえず外で待ちましょう」


 あたしとひy…じゃなかった、赤銅さんは更衣室を出ることにした。更衣室の外には天蓋さんがいた。

「どうじゃ?嬢ちゃん、モニターはちゃんと映ってるかね?」

「うん、ばっちし☆」

「そりゃよかった。ところでトノサマガエルがまだ出てこないようじゃが…」

 確かに十乃蜜さんがなかなか出てこない。そうこうしているうちに更衣室から金属がぶつかる音が何度か聞こえたと思ったら、扉が開いて戦闘服に着替え終わった十乃蜜さんがふらふらになりながら出てきた。目を奪われるような美しい銀色のヘルムにいかにも将軍らしいいでたちで。前が見えていないということは、まだモニターをつけていない?

「ヘルムを被ったら前が見えないじゃない、何なのよこれ…」

「隊長、モニターをつけていませんね?」

「モニター?ああ、確かスイッチがここに…」

 十乃蜜さんが額についてるスイッチを強く押すとボン!という音と共にヘルムから煙が出た。更衣室から出る際、いろんなところにヘルムをぶつけてスイッチの部分がべこべこになっていた。このヘルム、思ったほど丈夫じゃないんだなあ…

「けっほ、けっほ…ホントに何なのよ、コレ!煙が目にしみるじゃない」

「だああ、なんてことしてくれた、このトノサマバッタめ!夕方出撃するのに余計な仕事を増やしおって!」

「うるさいわね!このヘルムがポンコツなのが悪いんでしょ?」

 あーあ…十乃蜜さんと天蓋さん、ケンカ始めちゃったよ…この二人、いつもこんな感じなのかな?

「ねえ、おじーさん…触れずに起動するスイッチってできないの?」

「それが出来とりゃとうにやっとるわい!原理がわからんのにどうやって作れと」

「とりあえず、あたし作ってみるよ。そのヘルム貸して」

 あたしは十乃蜜さんからヘルムを受け取ると天蓋さんの部屋に向かった。

 部屋にあるガラクタの山から壊れた拡声器と手を叩くと点灯するランプ、それとなぜか原型が残っているマスカレイドを見つけた。必要な部分は無事みたい。拡声器とランプを分解して必要なパーツをモニターのスイッチに直結させて、余分な部分を切り落として長方形にしたマスカレイドでふたをする。デザイン変わっちゃったけど十乃蜜さん、気に入ってくれるかな…


 作業が終わった頃には越頂の3時になっていた。改良が終わったヘルムを十乃蜜さんに渡す。

「できたよ~♪とりあえず被ってみて」

「うん…被ってみたけどスイッチはどこ?」

「手を2回叩いてみてよ」

「こう?」

 十乃蜜さんが手を2回叩くとモニターがついた。

「ををっ!外が見える」

 これには十乃蜜さんと天蓋さんも驚いた。

「それにマスクのデザインも気に入ったわ。ありがとう」

 どういたしまして。


*


 夜の8時、これから夜が更けてくると餓鬼が地面から現れて活動をはじめるので、そうなる前に行動を開始する必要がある。あたしら3人は再び円卓の部屋に集まった。作戦会議が始まる。

「これから私たちはまだ被害の出ていない農村の防衛に向かうわけだけど…」

 そしてちらっとあたしの方を見る。

「今回、初参戦する子がいます。鐡(くろがね)!」

 え?くろがねって、あたしのこと?

「現時点を持ってあなたを鐡と命名します!私の事は白銀(しろがね)と呼びなさい!」

「は…はい!」

 うう…緊張するなあ…でもこれから餓鬼と戦うんだよね…

「鐡、あなたはメンバー入りして間もないからまだ武器が支給されていないわ。だからあなたは生き延びることを優先して立ち回りなさい。餓鬼たちの討伐は私たちが引き受けます。それでいいわね、赤銅?」

「はい、異議はありません」

 え?討伐って殺しちゃうってこと?それはあまりにも…でも、殺しちゃいけない理由がわからないうちはむやみに口出しはできない。会議を長引かせると、それだけ餓鬼が活動を始める時間に近づいちゃうってことなのだから…

「う…うん、わかった。とにかく生き延びるよ、とのっち」

「な・ま・え・で・よ・ぶ・の・禁止!!」

「…ゴメンナサイ……」


「話はまとまったかね?」

 円卓の部屋に天蓋さんが入ってきた。手に持ったリモコンを操作すると円卓が沈んで大きな魔法陣が出現した。

「すご~い、何これナニコレ」

「魔導どらいぶじゃ。これのためだけにわざわざエウロペ諸島より魔法の専門家を招いて共同制作したのじゃ。これで現場まで送るわけじゃが…到着する場所にバラつきが出るやも知れん。目的地からそんなに遠くはならんだろうから、そのときは自分の足で現場に向かってくれい」

 あたしたち3人は魔方陣の上に乗った。


「転送を始めるぞい!」

 天蓋さんが壁から出現したレバーを下げると、魔法陣が強力な光を放ってあたしらを転送し始めた。

 魔方陣からの光を受けた際、あたしはお父さんが話していたことを思い出していた。それは餓鬼を殺してはいけない理由の「ひとつ」だった…


「…間違ってもあいつらを殺しちゃあいけねえ。あいつらはな…昔、飢え死にした子供の成れの果てなんだ。それだけじゃあない、奴らは1体でも死ぬと…」


 あの話にはまだ続きがあった。でも、どうしても思い出せない…

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