壱之五 強権発動!徳川にして生徒会長 其の弐
半径3mなんて普通に声が届く範囲やんけ…orz
学校が終わり、屋敷に戻ったあたしは地下にある天蓋さんの部屋に向かった。こないだ直したものの中にノートパソコンがあったのを思い出した。
「んん?ノーパソとな?確かに箱の中にあったのう…どうせトノサマガエルに返してもすぐに壊すだろうからオマエさんにやるわい」
天蓋さんにもらったパソコンをあたしの部屋に持っていくと、今朝ほど手に入れたメモリーカードを差し込んで「解析」を始めた。
確かにフォルダーを開こうとするとパスワードを聞いてくる。あたしは一度パスワード入力画面を伏せてキーをすばやく打ち込んで特殊なコマンドを入力した。するといくつもの「6文字の単語」がずら~っと並んだ。この中に「正解」があるんだな、よ~っし…
まずは適当に単語を選んでみる。3文字当っている…つぎに同じ文字が3つ含まれている単語を選んだ、正解数が2つに減った…一文字間違えたんだ…先ほど入力したふたつの回答を見ると、「トリ」という文字が含まれていた。他に「トリ」という字が含まれているものは…これかな?
「タットリタン」
入力すると「正解」の文字が表示されてフォルダーの「中身」が表示された。
フォルダーの中は陸上部の女子の「恥ずかしい写真」でいっぱいだった。おそらく服部先輩はこれらの写真を使って女子生徒たちを脅して服従させてたんだろう。フォーム云々なんて嘘っぱちだ!あいつらドローンを盗撮に使ってたんだ、許せない!
あたしは怒りに任せて別のコマンドを入力してエンターキーをぶっ叩いた!
「protect broken password is lost」
と表示された。プロテクトをぶっ壊してやった!これでパスワードがなくてもフォルダーが開ける。
そこへ十乃蜜さんたちも帰ってきた。すごく疲れた様子だ。
「おかえり~、そっちはどう?なんかわかった?」
「半日じゃ思ったほど集まらないわね…あした、もう一日かけて調べてみるわ」
「さすがに放課後はほとんど人がいないので収穫は少ないですね…」
こっちはけっこうな収穫があった。明日の朝、根津君に会うのが楽しみだ。
翌朝、校門の前で根津君に会った。
「おはようさん…そっち、何かわかったのか?」
「フォルダの中が見れたよ。女子部員たちの弱みにつながる写真だった、服部部長はこの中の写真を使って女子部員たちを脅してたんだよ」
「とんでもねえド外道だな!しかし、耕一たち男子も元気がなかった理由が気になるな…あいつらは一体…」
「男子は暴力でねじ伏せられていたのだ」
「えっ?」
そこに三好先輩も合流してきた。昨日の放課後、耕一君と丁組の陸上部の子をはじめ、何人かの部員たちから相談を受けていたと言う。
「部員たちから相談された内容をまとめておいた。目を通してみてくれ」
三好先輩から渡された巻物を見ると、まあ出るわ出るわ、悪行三昧のオンパレード。
ろくに運動もしていないから記録が落ちてきてるのを棚に上げて、自分よりいい記録を出した部員を様々な手段を用いてつぶしている。
女子に対しては、例の盗撮写真をみせてばらまかれたくなければ次の競走で自分より遅くゴールしろと脅したり、
丁組の女の子のみならず、気に入った女子は執拗に言い寄ってきてデートに誘ったり、体を触ったりとセクハラもしばしば、
男子にいたっては制裁と称してボコボコにする、将来が有望視された部員が服部先輩に足を折られて走れなくなったケースもあったそう…
しかも、あのドローンは盗撮だけでなく妨害工作にも使われていて、マイクの代わりについていたあの管は針の射出口だったんだって。
今年の春の地区大会では、服部先輩が走る番になると夷助くんにドローンを操縦させて他の走者に針を打ち込むようにしてたんだって。しかも針には疲労感を増大させる薬が塗られていて、服部先輩が順調に走ってるのに対して他の走者は2米も走らないうちに倒れちゃって、中には狙ったかどうかはわからないけど、首に針が刺さって意識がやばいことになった人もいたみたい。
それでも服部先輩はルックスがいいから、事情を知らない他校の女子は独走でゴールした服部先輩に黄色い声を浴びせてた。
コイツ…とんでもない奴、アスリートの風上にも置けないじゃん…あたしはそう思った。
でも、このときのあたしはなにやらいやな予感がした。巻物を三好先輩に返して、メモリーカードを根津君に渡した。中身を見ないように釘をさして!そしてこれらを生徒会長…すなわち十乃蜜さんに渡すように頼んだ。そのあとあたしたちは校舎の中に入っていった。
いやな予感は的中した。靴箱に手紙が入っていた。差出人は服部先輩。
『親愛なる石川君へ、
今日の昼休みに陸上部の部室にて特別映写会を執り行います。
ぜひ見に来てください。
追伸
付き添いのガキを連れてきてもかまいませんが、
騒ぎを大きくしたくないならひとりで来ることをお勧めします。
敬具』
キモすぎ!何が「親愛なる」だ!!親しくなった覚えはないんですけど!?
*
昼休み、あたしひとりで向かうと陸上部の部室にそいつらはいた。諸悪の根源服部先輩にその腰巾着の夷助くん。
「やあ、よく来てくれたね。夷助くん?例のものを」
「へい」
そういって夷助くんは部室のノーパソを開いた。なにかの動画を再生しようとしている。
「こないだ学校サボって知らない街でドローンを飛ばしていたら面白い物が撮れたんスよ」
動画には奉行所が映ってる…まさか、これって!?
「なあ、これオマエだろ?」
服部先輩と夷助くんがニヤニヤしながらこっちを見ている。
ドローンのカメラにはマイクがないから動画には音声がないけど、お奉行さんがこっちを指差してなにやら口を動かした後、被告人が顔を上げる。間違いなくあたしの顔だ!この動画はあたしがお裁きを受けている様子を撮ったものだ。
「や…やだ…どうして…」
視界がぼやける、震えが止まらない…頭の中が真っ白になる…動画を直視できない。しかし、服部先輩は追い討ちをかけるように言う。
「あいにくこのパソコンは動画再生用で回線が繋がってないんだよねえ。ボクのケータイは教室にあるし、だから放課後、この動画をSNSにアップして拡散しようと思うんだ~♪そうしたらお前は外も歩けなくなるぜえ?止められるもんなら止めてみなあ!」
これがこの男の本性か!でも、このときのあたしはもう正常な思考を保てなくなっていた。
「い…いや…やめて……もう…うわああああああああああああああああああああああああああああ!!」
あたしは取り乱して部室を飛び出した。部室からは服部先輩と夷助くんが手を叩いて笑う声が聞こえる。
「見たかよ、アイツのあの顔」
「傑作でしたねえ、写真に収めたいくらいっすよ」
どこをどう走ったかわからない、気がつくとあたしは校舎の壁に手をついて息を切らしていた。あたしは怒りに任せて校舎に拳を叩きつける。はらわたが煮えくり返る思いだ。許せない…すぐにでも戻ってあいつの顔をぶん殴ってやりたい!でも、暴力沙汰で騒ぎを起こしたくない。だから別の方法であいつの鼻をへし折ってやるんだ!みてなさい、あたしを怒らせるとどうなるかわからせてやるんだから!!
* (ナレーション交代:五月 → 十乃蜜)
かねてより相談があった服部丹蔵について調査していたけど、今朝ほど五月のクラスメイトの根津僧次郎君と3年の三好慶凱先輩から提出された証拠の他にも、私とひよりが昨日からほぼ1日かけて手分けして集めた情報を昼休みにまとめてみたわ。その結果、アイツは部活のみならず様々なところでも問題を起こしているみたいね。
授業中に携帯電話で大声で話して授業を妨害するなんて日常茶飯事。
他の生徒にカツアゲしてお金を巻き上げたり、パシリでゲーム機など購買部に売っているはずのないものを買いに行かせたりとやりたい放題。
性格も気が短くてキレやすく、気に入らないことがあると他人やモノに当り散らしたりするため、無銭飲食や設備破壊で出入り禁止になったお店は数知れず。
さらに、これだけ悪事を働いておきながら裁かれるどころかお役所案件にもならないのは、お兄さんが徳川ほどではないけど、お城でかなり身分の高い役職についていて、高い示談金を被害者に支払って揉み消していたの、それもお城のお金を勝手に使って…兄弟揃ってとんでもない外道野郎ね!
これは裁かないといけないわ!こんな奴を野放しにしてはいけない!私はそう思った。でも、もうすぐ昼休みも終わる…だとすると裁くのは放課後か…私は立ち上がり、ひよりに声をかけた。
「ひより、職員室に行って放課後での講堂の使用許可をもらってきて!演劇部の先約があったら部活を中止するよう伝えてちょうだい」
「はい!」
私はひよりと同時に生徒会室を出た。そして放送室へと向かった。
「邪魔するわよ」
放送室では二人の放送委員がお昼の校内放送を流していた。驚く放送委員をよそに私はかまわず放送席に向かう。
「マイク、いいかしら」
「あ、はい」
「ほ、放送の途中ですが、ここで生徒会から連絡があるそうです…」
おそらく今、学校中がざわめいていることだろう。私が放送室にいくのは滅多にないことだから。私はマイクを受け取ると大きく息を吸った。
「生徒会長の名において命じます!2年丁組の服部丹蔵、1年甲組の猿飛夷助両名、放課後講堂に来なさい!!以上!!」
私のマイクを通じての怒鳴り声は学校中はもちろんのこと、学校から半径130米先まで響いたことだろう。
「ごめんなさいね」
私の怒声を至近距離で聞いて目を回している放送委員の一人にマイクを返すと、私は放送室を後にした。
*
放課後、生徒会室にいくとひよりがノートパソコンを凝視していた。服部が自分のSNSに動画をアップしたのだと言う。先日、私たちが立ち会った五月のお裁きの様子だ。あのやろ…五月を追い出すつもりね?私の怒りは頂点に達しようとしていた…
「ですが十乃さま、この被告人の顔は…」
「あらまあ…」
動画に映った被告人の顔を見て私は冷静さを取り戻した。とにかく、私はこのノートパソコンを持って講堂に向かうことにした。