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激鐡!! ~ヒノモト妖撃譚~  作者: 甲賀野カッパ丸
章之壱 黒い鉄も磨けば光る!【新参編】
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壱之三 学問優先?五月、学校に行く 其の弐

 奨学システム…それは、何かに秀でている人を推薦して入学させること。推薦された生徒は入学試験が免除される。また、特定の期間に行われる定期考査で好成績を収めれば学費も免除されるという、お金に困っている庶民にうれしいシステムである。

 …て、十乃蜜さんが言ってたけど…まあ、つまる話、条件さえ整えば貧民層でも等しく学校に行けるってこと。

 十乃蜜さんは、城下学園の毎月の学費が高すぎるせいで、「学校=富裕層の行くところ」という固定概念が人々の間に染み付いてて学校に行きたがらない学生が多いことに頭を悩ませていたんだって。

 で、この奨学システムを取り入れることを提案して見事に学園長に認められたってわけ。このたびそれが試験的に導入されてあたしが学校に行かれるようになったの。それもシステムが適用された生徒第1号として…ていうと、まるであたしがダシに使われたように聞こえるんだけど…あたしの場合は何に秀でてるんだろう…足の速さ?


 この日は初登校なので十乃蜜さんから渡された制服に初めて袖を通してみた。サイズぴったりだ…十乃蜜さん、どこでサイズを知ったんだろう…

 グレーのブレザーにやや白みがかったグレーのプリーツ、水色のブラウスに白いベスト。リボンの色は黄色。コレは一年生のカラーなんだって…対する十乃蜜さんのは特注品で上下白一色のブレザーだ。2年生なのでリボンの色は水色。3年生のひよりさんのリボンの色は赤みがかったパープル。

「うん、制服姿もサマになってるじゃない、似合う似合う」

 十乃蜜さんがべた褒めする。

「ああ、そうそう。あと、ブレザーやベストの胸についてる学校のエンブレムにはICチップが内蔵されているから、それを着て校門をくぐればもう警報を鳴らさなくてすむわよ」

「ありがとう」

 ん?「もう」…といいますと?あのときあたしが制服を着ないで学校に入ろうとしてたの知ってるんですか!?

「だって窓から見えたんですもの?あなたが入ろうとしてたの。警報が鳴って下に降りた頃にはもういなくなってたけどね」

 なんたることか…制服の色が違うからわからなかったけど、十乃蜜さんも城下学園の生徒だったんだ…


*


 頂前7時半、3人で屋敷を出て学校に向かう。歩いて四半刻で学校に着いた。学校が屋敷からこんなに近いなんて思わなかった…

 学校に入ると十乃蜜さんに連れられて学園長の部屋に入った。いかつい感じの厳しそうな学園長だ。十乃蜜さんと一緒にあたしも挨拶をする。まあ、学校でおかしなマネさえしなければこの人の厄介になることはないだろう…そう思った。

 続いて職員室に行き、あたしが入るクラスの担任のもとに挨拶に行った。担任の先生は銭型平一郎先生といって、居眠りしてる人にチョークを当てるのがうまいんだって。あたしを銭型先生に引き渡すと十乃蜜さんは自分のクラスへと戻っていった。そろそろホームルームが始まるからだ。あたしも担任の先生と一緒にクラスに向かう。


 あたしが配属されるクラスは1年丙組。4つあるクラスの3番目、4階建て校舎の最上階にその教室はあった。

 HRで転校生としてあたしが紹介される。クラス中の視線があたしに集まる、緊張する…今まで大勢の人に注目されたことがなかったから。

 先生があたしが座る席を指定した。窓際の一番後ろ、隣の席には机に脚乗っけてるヤツが座ってる…感じ悪そう…でも、第一印象を良くすればきっとふれんどりに接してくれるはず!根拠ないけど…

「はじめまして。あたし、石川五月」

「知ってる。さっき自己紹介しただろ、自分で」

「キミのこともっとよく知りたいな…ねえ、名前なんていうの?」

「根津僧次郎…」

「根津くんって言うんだ。そうだ、キミのことねずっちって呼んでいい?」

 とたんに根津くんがバランスを崩した。

「ふざけろ!なんだその呼び方!!」

「こら!まだHR中だぞ」

 先生に怒られて会話はストップ、とほほ~…好印象どころか根津くん、怒らせちゃったよ…


 HRが終わり、3人の女子生徒があたしのもとにやってきた。

「石川さん、根津君に声かけるなんて勇気があるね」

 最初に声をかけてきたのは文芸部の式部紫(しきべゆかり)さん。髪を下のほうで2つに結わいて眼鏡をかけている。

「彼、学問塾の頃にいろいろやらかして補導されたことがあるのよ…今は落ち着いてるけど、恐くてみんな関わらないわ」

 次に声をかけてきたのは式部さんと同じ文芸部の清原凪沙さん。黒髪の姫カットでお嬢様な感じがする。

「あなた、どこかで見た顔だと思ったら…この前学校に入ろうとした子よね」

 そう言ってきたのは茶道部の千ゆうりさん。結わいた髪を左肩から前に垂らしてる。おしとやかな感じだ、和服が似合いそう…

「あはは…花江戸町に来たの、つい最近だったから学校見るの初めてだったんだ…」

 間違っても貧民街から来たなんて口が裂けても言えない。ここは都会だ、田舎者だってバレたら絶対バカにされる、貧民街から来たとあってはなおさらだ…あたしはそう思った。

「ねえ、花江戸町が初めてなら学校が終わったら一緒に帰らない?ゆうりさんがお茶のおいしいお店、知ってるんだって」

 紫さんが持ちかけてきた。

「うん、一緒に帰ろー♪」

 あたしは目を輝かせた。学校で友達が出来れば少しは学校も楽しいところになるかな…そう思った。


「おまえ…本当に今まで学校に行ったことがないのか?」

 3人があたしのもとを去ると、不意に根津君が話しかけてきた。

「が…学問塾までは行ったことがあるもん…」

「はん…学問塾までは義務教育だからどこの町にでもあるわな。だがな、この一生涯で学校を見たことがないと言う人間はな、学校のないクソ田舎の人間か、学校にやる金がない親のいる貧乏家庭の子なんだよ」

 両方当っているだけにあたしは何も言い返せなかった。なんだろう…こいつの前ではウソがつけないような気がする…

「図星だったら悪かったよ。急に学校に来れるほど金持ちになった風に見えなかったからな…だからオマエが学校に来た理由も聞かない。こう見えて、俺は人のプライベートには首を突っ込まない性分だからな」


*


 昼休み、学校に行く途中で寄ったコンビニで買ったお弁当を食べ終え、少し学校を探索することにした。

 1階は学園長の部屋と職員室と会議室、保健室に購買部がある。購買部は、昼休みになるとお昼に食べるパンを求めて人がなだれ込んでくるから少しでも遅れると買いそびれちゃうことも多々あるらしい。日によって特売品が異なるからそれを目当てに行く人もいる。

 2階は3年生の教室の他に、実験室と、音楽室と、家庭科室がある。実験室は気味の悪い人体標本や、危ない薬が並んでる。授業で行く時以外は近づきたくない…音楽室には学問塾にあったのよりもでっかいピアノがある。他にもいろんな楽器があった。家庭科室は主に調理実習をするのに使う部屋…こんなとこかな?

 3階は2年生の教室の他に電算室といって、パソコンがずらりと並んでる部屋があった。授業で使う機会があるといいな。ほかには和室があって、この部屋は主に茶道部が使ってるんだって。ほかにも、生徒会室や放送室、文化部の部室もいくつかあった。

 4階は1年生の教室の他にフロアのほとんどをだだっ広い図書室が占めていた。図書室のわきには資料室や進路指導室もあった。まあ、あそこは3年生じゃなきゃ行かないけどね…

 教室から出てすぐ目の前の窓から下を見下ろすと、だだっ広い校庭のほかに体育館と講堂、武道場や運動部の部室が並んでた。

 お城ほどじゃないけど、学校ってホントに大きいんだなあ…て、思った。


「どう?楽しくやっていけそう?」

 外を眺めていると十乃蜜さんが声をかけてきた。

「あ、とn…生徒会長」

 学校では十乃蜜さんをいつもの呼び方で呼ぶのは禁止だ。あたしが生徒会長の知り合いだってことが他の生徒に知られると互いに面倒なことになるらしい。

 十乃蜜さんは制服姿に刀を腰に差しているから余計に生徒会長だって風格が感じられる。実は十乃蜜さんは普段着でも刀を腰に差している。本人は護身用だって言っているけど、あたしはまだ、この人が刀を抜いたところを見たことがない。だからもしかすると木刀なのかもしれない…いや、そんなはずはない。こんな立派な装飾の木刀なんてあるはずがない…でも、もしかするとホントは立派な装飾のオモチャなのかもしれない…いや、まさかねえ…

「ひy…いつも一緒の人はいない…んですか?」

「別の仕事があって生徒会室にこもっているわ」

 いつも気軽に話している仲なのに、学校ではそれが出来ない…知ってる人に敬語を使うのは…なんて言うんだろう、やりにくい。

「まだ1日目だから緊張しっぱなし…かな?慣れれば楽しくなりそう…です」

「そう、がんばってね」

 十乃蜜さんはあたしの肩をぽんと叩いて去っていった。緊張の糸が一気にほぐれた。直後に感じる他の生徒たちからの視線。羨望?嫉妬?まあ、どっちでもいいけど…あとでわかったことだけど、この学校では十乃蜜さんは男子生徒にとっても高嶺の花で、一般生徒が気安く触れることも許されないんだとか…その生徒会長から触られるのは非常にレアなケースなんだって。


*


 授業が終わり、夕方、校門で紫さんたちと合流してゆうりさんの言ってたお茶のおいしいお店に行くことにした。 

 花江戸町は一通り見て回ったつもりだけど、ゆうりさんは誰も知らないような場所も知り尽くしてる。

 ゆうりさんに紹介してもらったのは、ほとんど人が通らないような路地にある茶店で、良質な茶葉を使ってるお茶が一押しなんだって。

「ねえ、石川さんはどこの部活に入るか決めてる?」

 お店に向かう途中、紫さんが話しかけてきた。部活か…考えたこともなかったな。

「明日は3人とも部活があるんだ。石川さんも、顔を出してみるといいよ」

 部活ってどんなのがあるんだろう…明日はまず、文芸部と茶道部に顔を出してみよ。

 その後はお店に着いてみんなでお茶していろんなこと話して楽しい時間を過ごした。お店を出た頃には夕刻の5時、門限が撤廃される前だったら絶対屋敷を締め出されてただろうなあ…いつか十乃蜜さんにもこのお店を教えてあげよう。


 翌日の放課後、まずは部活に向かう紫さんと清原さんと一緒に文芸部の部室に向かう。3階の使われていない教室で活動している。紫さんたちのほかにも何人か部員がいた。

 文芸部は小説を書いたり読んだりする部活だ。あたしはそこで紫さんや清原さんの書いた小説を読ませてもらったけど、一言で言うと、とにかく「すごい」内容であたしには刺激が強すぎた…なによりただひたすらに小説を書き続けてる人も何人かいて、「壊れてる」人もいた…

「ゴメン、あたしにはムリ…」

「そう?なんか、ゴメンネ…」

 紫さんたちには悪いけど、入部どころか、半刻もここに居続けてはいけない気がした…


 次にあたしはゆうりさんのいる茶道部を訪れた。抹茶と言う、昨日の茶店で飲んだお茶よりも濃いお茶を嗜む部活だ。ここでは作法も学べると言うことで、部員の数はそれほど多くないけどそのほとんどは良家の人たちだった。

 この部活にいる間は正座でいることが基本だ。でもあたしにはムリだ、10分ももたない…

 何より抹茶はあたしにとっては味が濃すぎて口に合わなかった…


 音楽室を覗いてみると軽音部が活動していた。扉を開けた瞬間、頭に響くほどの爆音が轟いた。大きな音が苦手なあたしにとっては、ここは地獄のような場所だ…あたしは早々に音楽室を去った。

 講堂には演劇部がいた。けっこうな人数の部員がいて劇の練習をしているようだが、その出来栄えは三文芝居にも劣るもので思わず目が点になった…

 他にもいくつか部活があったみたいだけど、時間がなかったので全部は見て回れなかった…少なくとも文化部であたしにあいそうなものはなかった…明日は運動部を見て回ろうかな、あたしにあいそうなものを。


*


 その次の日の放課後、あたしは陸上部がいる校庭へ向かっていた。足の速さには自信があったから、現役の陸上部員たちと勝負してみたくなったんだよね。

 校庭に向かう途中、1階の廊下で根津君に出会った。

「あれ、ねずっち」

「…結局そう呼ぶんだな……まあいい。この先の校庭には陸上部がいるが、まさか体験入部するつもりか?」

「そうだけど?」

「俺の近所に住んでるやつが陸上部にいるんだが、最近元気がなくて気になってたんだ。様子を見に行くところだけど、一緒に行くか?」

「うん」


 校庭にでて、運動服姿の女の子を見つけたので声をかけてみた。

「すみませ~ん、陸上部に体験入部したいんですけどぉ、部長さんいます?」

 とたんにその子の顔が青ざめた。

「え?ぶ、部長ですか…?わ、わかりました…呼んできます…」

 女の子は部長さんを呼びに行った。隣にいた根津君が口を開く。

「なにかあるぞ、この陸上部…用心したほうがいい」


 程なくして部長さんらしき人がやってきた。コワそうな人かと思ってたけど、違うみたい…背は高いけど、なんかひょろひょろでチャラい感じの人だ。この人ほんとに部長さん?て思うくらいろくに運動もしてなさそうな感じだった。

「やあやあ、体験入部したいと言うのはキミかい?ボクは部長の服部丹蔵。そっちのキミも体験入部?」

「ちがう、オレはただの付き添いだ」

「ふうん…キミ、名前は?」

「石川五月です」

「石川君かあ…じゃあ君は運動服に着替えて。すぐに始めるから」

「はあい」

 服部さんはグラウンドに向かう際、根津君のほうをチラッと見た。

「見学はかまわないけど、邪魔だけはしないでくれよ?」

「しねえよ…」

 口調はやさしかったけど、そのときの服部さんの顔はまるで…


「余計なことしたら殺す」


 と言わんばかりの顔だった。

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